『あなたを奪ったその日から』第9話 レビュー
ついにYukiデリが起こした食品事故の真相が明らかになった『
あなたを奪ったその日から』第9話。事件の被害者にも加害者にも、親から子への大きな愛が隠れていました。そして、美海(一色香澄)と紘海(北川景子)の生活の終わりが見える展開も苦しい回でした。
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玖村(阿部亮平)から、紘海が灯(石原朱馬)の母であることを教えられた結城は激しく動揺します。それは守りたい人がいるから。自殺未遂をして入院中の梨々子(平祐奈)を見舞う姿と「何も心配しなくていい」と必死に言い聞かせる様子から、「もしや?」と嫌な予感がしました。パニックになる梨々子に何も言えない結城。親として娘の梨々子を守りたいという結城の気持ち、そして、罪を隠そうとする結城への軽蔑の気持ちと罪を償えていない梨々子の苦しさ。2人のすれ違いを改めて感じました。
結城は紘海と砂羽(仁村紗和)を自宅に呼び、食品事故の真相を話すことを決意。食品事故の真相は、Yukiデリのキッチンにヘルプに来ていたスタッフによるミスでした。忙しさにかまけてミックスピザのレシピを確認せず、エビをトッピングしていたのです。オーブンに入れる前に一度確認して取り除いたものの、他の具材に隠れているエビは取り除かれないまま店頭に並べられてしまいました。食品事故の真相を語りながら、その時働いていたヘルプのスタッフについてはかたくなに口を閉ざそうとする結城。問い詰める紘海と砂羽の前に現れたのは、梨々子でした。当時、高校生だった梨々子は、Yukiデリで度々手伝いをしており、事件があった日も病欠したスタッフの代わりにヘルプで働いていたのです。当時、ピザは結城家の定番メニューでした。梨々子が作ったエビ入りのピザを食べ、結城が「特にエビがいい」と笑顔を見せるシーンも。忙しい状況に焦った梨々子は、家と同じレシピでピザを作ってしまったのです。
結城は梨々子を守るために、店にあったエビを処分し、原因は不明のまま事件を終わらせました。高校生の女子の調理ミスで3歳の女の子が亡くなったという報道が梨々子と結城家をどれだけ苦しめることになるのか、想像に難くありません。結城は梨々子と店を守るために事実を隠蔽(いんぺい)していたのです。やってはならないことだと思いながらも、娘のために隠蔽してしまったのでしょう。何よりも娘を守りたいという親の情が感じられます。鷲尾(水澤紳吾)には借金を肩代わりできる500万円と共に、隠蔽を依頼。鷲尾も共犯者として罪を自覚していたからこそ、500万円に手を付けず、砂羽を巻き込むことなく亡くなったのでしょう。
一方で、梨々子は自分の罪を隠蔽した結城を軽蔑していました。長い間、結城が罪を隠したから私の性格は狂ったんだと思い込んでいたと語りつつ、結城に罪を押し付けることで、自分の過ちから目を背けていたと、紘海に謝罪します。第1話でSNSに虚偽の被害を投稿して玖村を追い詰めた梨々子ですが、その心の中には、激しい批判にさらされるという自分が置かれるはずだった状況に人を陥れるという歪んだ自己処罰的な感情があったのかもしれません。
娘を守るために罪に向き合うことができなかった結城は、萌子を失ったこと、紘海と関わったことで罪の大きさを自覚したのでした。土下座をして深々と頭を下げる結城、江身子(鶴田真由)、梨々子。その謝罪の姿に紘海は激しく憤ります。あやまられたって灯が戻ってくるわけではない。もっとはやくアレルギーの重さを認識できていたら、ピザを食べる灯をよく見て、もしエビを取り除けていたら。真実を知ったことで、紘海の中には防げたかもしれなかったという自分の行動への後悔が溢れ出しているのでしょう。でも、もう灯に会ってあやまることはできない。真実を知ったとしても苦しみが終わらない紘海の辛さが胸に迫ってきます……。表情を歪めて後悔を吐露する北川さんの表情に引き込まれました。事件直後は、結城からの誠意ある謝罪を求めていた部分もある紘海ですが、いざあやまられたところで許せない、事件を終わらせられないというのは被害者の感情として自然なものです。何がどうなっても灯を亡くした悲しみと後悔はなくならないという一生付きまとう悲しみが痛いほど伝わってきます。
真実を話した上で、紘海を支えたいという結城。紘海はそれを受け入れられるわけがありません。萌子を奪った紘海には、結城を憎む資格なんてない。その罪を告白すべきかと悩むも、やはり美海との生活を終わらせたくない紘海は、結城の前から去ります。
真実を話した上で、紘海を支えたいという結城。紘海はそれを受け入れられるわけがありません。萌子を奪った紘海には、結城を憎む資格なんてない。その罪を告白すべきかと悩むも、やはり美海との生活を終わらせたくない紘海は、結城の前から去ります。
一つの真実が明らかになった一方で、第9話では望月(筒井道隆)が美海の正体と紘海の罪に近づきつつありました。望月は紘海の家から出てきた美海に接触し、萌子と同じ位置にほくろがあることを確認。望月から父のことを問われた美海は、萌子を捜索するチラシを見つけ結城に電話をかけてしまいます。望月は、その携帯番号の所有者から、紘海が萌子を誘拐し、一緒に住んでいることを察してしまいます。望月が結城に放った「あの人の子どもをもう一度奪う権利、あんたにあるのか」というひと言で、結城も萌子の居場所を察してしまうのでした。
入り組んだ罪と秘密が一気に明らかとなった第9話。セリフの端々から親が子を愛する気持ちの大きさが感じられる回でもありました。梨々子を思って隠蔽した結城、梨々子のために謝罪をする江身子、亡くした子どもと同い年の子を必死に守り育てる紘海。すべては子どもが愛おしくて、自分以上に大切だからというのが行動原理でしょう。第10話ではいよいよ萌子を誘拐した紘海と誘拐された被害者としての結城が対峙(たいじ)することに。紘海と美海の擬似親子関係はどうなるのか。来週も見逃せません。
取材・文:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
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