『ぼくほし』脚本・大森美香×プロデューサー・岡光寛子が語る 「白黒つけられない“中間”に広がる多様な色を知っていくドラマに」(前編)【僕達はまたその星の校則を知らない】

2025.09.17

『ぼくほし』脚本・大森美香×プロデューサー・岡光寛子が語る 「白黒つけられない“中間”に広がる多様な色を知っていくドラマに」(前編)【僕達はまたその星の校則を知らない】
いよいよ最終章突入。ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』の脚本家・大森美香と岡光寛子プロデューサーのインタビューが実現した。学校という“小さな社会”で過ごす生徒たちの悩みは、法律家である主人公・健治にも一筋縄では解決できない。ときには、苦味が残る結末を迎えることもある。だが、『ぼくほし』がずっと心地良いのはなぜだろう。前編は、スクールロイヤー(学校弁護士)を主人公にした理由やオリジナル脚本にかけた思い、現実の問題を扱う上で大切にしていたことを聞いた。

『ぼくほし』誕生のきっかけになったスクールロイヤーとの出会い

●学園ドラマは一時期減っていましたが、最近はふたたび盛り上がっているジャンルの一つです。今作はオリジナルの学園ドラマですが、どのようなきっかけで制作されたのでしょうか。
岡光:6年ほど前に、『ぼくほし』でもスクールロイヤー監修をしてくださっている神内聡さんの本を読んでいました。法律家としての知識、教師としての経験から、現代の教育現場で起こっている問題にどう対応すべきかが現場のリアルな視点で書かれていて、ときに迷いながらも、読者と一緒に解決の道しるべを導き出していく姿に感銘を受けました。

同時にスクールロイヤーはまさに“現在進行形の職業”であり、今ドラマで描くべき内容が沢山あると感じ、そこからスクールロイヤーを主人公に据えた学園ドラマを作りたいと考えるようになったんです。企画の種はありながら月日が経ち、ご縁があって、大森美香さんと初めてお会いすることになった際、その話をさせていただいたところ想いが合致し、最初はカフェでお茶をしながら、今興味関心があることや好きなこと、お互いのこれまでのことなどを話して。何度かやりとりを重ねる内に、白石(裕菜)プロデューサーも合流し、具体的な企画を作る流れになりました。

――神内先生の考えは、まさに『ぼくほし』の姿勢そのものですね。
岡光:そうですね。日々の業務でとてもお忙しい中、脚本制作、撮影現場での細かな演出の相談にも丁寧に応えてくださって、本当に感謝しています。神内先生は弁護士であり、教員資格もお持ちなのですが、2つの大きな武器を持ってしても、リアルな現場はどうにもならないことが山ほどある。それでも、子どもの最善の利益を第一に、自分に何ができるかを熱量を持って常に前向きに考える姿に“ドラマ”を感じました。学生時代の自分にとって、先生は神様みたいな存在だった。けれど、実際は先生もすごく悩んでいる。

私の親も先生をしており、大人にもなにかしらの“支え”が必要なんじゃないかと、社会の循環についても考えていたんです。大森さんはその部分も丁寧にすくい取ってくださるので、大森さんとなら、今までにない学園ドラマができると思いました。そこからいろいろ調べたり、取材をしたりしていくうちに、主人公のキャラクターや、天文部、教育者でもあった作家・宮沢賢治、といった要素が足されていき、『ぼくほし』の世界観が構築されていったという経緯です。

「この子たちをドラマにしなきゃいけない」

――大森さんにお伺いします。今回の『ぼくほし』はオリジナル脚本になりますが、どのような思いで執筆されましたか。
大森:実はずっと学園ドラマを書きたかったんです。現役の生徒さん、子どもを持つ親御さん、昔生徒だった人やいろんな人に向けて、“いま”の生徒さんたちの物語を届けられる。それをオリジナルで書かせてもらえることは、とても幸せだと思います。だからこそ、今考えていることをなるべく全部詰め込もうと、ものすごく気合いを入れて書きました(笑)。

――大森さんの作品は、いつの時代もフィットする感覚があります。その“イマドキっぽさ”や若い人の感性は、どのようにキャッチされていますか?
大森:電車の中の学生さんや道ゆく高校生たちを観察したり、フードコートや喫茶店で聞こえてくる会話に耳を傾けたりと、人間ウォッチングをすることが多いです。自分の子どもの存在も大きいですね。“学校”という場所を、子どもの立場と親の立場、両方から学校を見ることができる経験がプラスになったところはあるかもしれません。あとは、岡光さん、白石さん、山口監督と一緒に、天文部がある高校をいくつか取材させていただきました。あの生徒さんたちと直接お話ができたことがすごく大きな気づきになりました。

岡光:私もそう思います。好きなことについて、目を輝かせながら私たちに話をしてくださる生徒さんを目の前にして、「この子たちの煌(きら)めきや瑞々(みずみず)しさをドラマにしなきゃいけない」と強く感じました。

大森:ね。キラキラしてて、とてもステキでした。天文ドームがある学校を取材させてもらったのですが、それを誇りに思っている皆さんが輝いて見えた。顧問の先生のお話もすごく参考になりました。

岡光:大森さんはそのやり取りを細かくメモされていて、取材時の高校生たちの何気ない会話がそのままセリフになっていると驚いたこともあります。だからこそ、ウソのないリアリティーのある会話劇になるんだなと。

大森:なるべくカッコつけたくないなと。本もたくさん読んで、取材もして、現代の先生方のリアルな実態も勉強しました。

岡光:現役高校生もいる生徒役のキャストにも、話す時間を作ってもらいましたね。そこでほぼ当て書きのような形で、人物造形が立体的になっていきました。

スカッと解決するドラマは“ウソ”になってしまう

――大森さんは法律を扱う作品を過去に何度も手がけられていますが、どのように法律的な知識を勉強されていますか。
大森:神内先生や木野本先生をはじめ、法律監修の先生方にお話を聞いたり、アドバイスをいただいたり、判例集を買って勉強しました。判例集は読んだらすぐ眠くなるほど難しいんですけど(笑)、端々にリアルがあって、おもしろいんですよね。そこはなるべく削ぎ落としたくなかった。実際の学生さんや先生方がたまたま見ていて、役に立つドラマになってほしいという思いがありました。

――大森さんの学びの姿勢には、頭が下がります。『ぼくほし』はあくまでも学園内の話ですが、現実では答えが出ていない問題を扱うことも多いですよね。その上で、心がけていたことや、大切にされていたことはありますか。
大森:先ほど岡光さんもおっしゃっていましたが、取材してみると、トラブルのほとんどは、スクールロイヤーに解決できないことばかりです。やれることは、道しるべを示し、ただ“寄り添うこと”。それは先生方も同じで、根本から解決できる問題は本当に少ない。それでも、視聴者の方に「誰かがいてくれて良かった」と思ってもらえるドラマになりたかった。物語の中でスカッと解決すれば、それは現実問題“ウソ”になってしまう。「いつか解決できるから頑張ろう」と思わせるのではなく、簡単には解決できないかもしれないけどそれでも希望を持って「一歩、動いてみよう」と思ってもらえるような“優しさ”を作品に乗せられたら……という気持ちがありました。

岡光:エンタメに振り切るならば、スクールロイヤーが法律を武器に、学校の問題をスカッと解決するドラマにもできたと思います。けれど、取材をする中で、人の心は単純な2択で説明できないことの方が多いよなと改めて痛感しました。『ぼくほし』の良さは、白か黒かを決めつけるのではなく、その“中間”にある多様な色を知っていき、視聴者のみなさんにご自身の心と感性で受け取ってもらうことだと気づいたんです。

――わかります。たとえドラマ内で劇的に解決をしても、現実に生きている私たちには難しいというか……。
大森:そこにたどり着けないよ、と思うこともありますよね。

岡光:良い意味でのモヤモヤや余韻を感じてもらえたら、と思っていて。あとは視聴者の皆さんを信じて委ねたかった。ただ、テレビドラマなので、しんどくて辛いことばかりではなく、見終わったあとに、悩みや悲しみを希望へと好転させていくような前向きな祈りが込められたらと思っていました。大森さんの人に対する温かな眼差しや丁寧に紡がれた美しい言葉に、救われる方も多いのではないでしょうか。

大森:ちょっと隣にいる存在みたいに感じてもらえたら、うれしいですね。

文=明日菜子
毎クール必ず25本以上は視聴するドラマウォッチャー。
『文春オンライン』『 Real Sound』『映画ナタリー』などでドラマに関する記事を寄稿。
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