草川拓弥(超特急)主演『地獄は善意で出来ている』第1話 レビュー
世の中には、2種類の人間がいるという。「罪を犯す者」と「犯さない者」。もし、二者を分かつ境界線が「希望を有しているか否か」で引かれるのだとしたら、この社会で生きている私たちは、誰もがその危うさを抱えているのではないだろうか。そんな語りから始まる物語の舞台は、都内からおよそ3時間離れた山奥の施設。
目的も告げられないまま、年齢も境遇も異なる男女6人が集められた。ただ一つ、彼らに共通しているのは“前科者”であるということだ。
▶主演・草川拓弥、俳優としての目覚ましい活躍
カンテレ×FODの新ドラマ『地獄は善意で出来ている』は、罪を犯した若者たちが、人生のやり直しをかけた“元受刑者特別支援プログラム”に挑む、オリジナルのヒューマンサスペンスドラマである。
主人公・高村樹を演じるのは、メインダンサー&バックボーカルグループ・超特急のメンバーであり、ドラマ『みなと商事コインランドリー』(テレビ東京系)やドラマ『ビジネス婚-好きになったら離婚します』(毎日放送)など、俳優としても近年めざましい活躍を見せる草川拓弥。
特に、2025年は『晩餐(ばんさん) ブルース』(テレビ東京系)をはじめ、全クールでドラマ出演を果たしており、どの作品にもぴたりとハマる柔軟さを備えつつ、どの役でも爪痕を残す存在感がある。
これまでも役を通してさまざまな姿を見てきたが、世の中を諦観しながらも、瞳の奥に圧倒的な“生”への執着を感じる樹は、30代に入った草川にとって、新たな代表作になる予感だ。
▶合格するだけで夢がかなう「更生プログラム」?
樹の罪名は傷害罪。刑期を終えて出所した後も、世の中は新たなスタートを切ることを許してくれない。いくつもの職場を転々としていた樹は、ホストクラブのボーイとして働くものの、理不尽な理由で暴力や搾取にあっていた。
そんな彼の前に現れたのが、謎の男・カトウ(細田善彦)である。更生プログラムへの参加を持ちかけられた樹は、半信半疑のまま誘いに応じた。
ドラマ『地獄は善意で出来ている』1話 謎の男・カトウ(細田善彦)
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元受刑者特別支援プログラムは、やり直しが困難な現代において、前科者たちを社会復帰へと導くために設けられた試みだ。期間は1ヶ月。さまざまなセッションや共同作業を通して、参加者の社会性・協調性・倫理性が評価され、更生の意志を試される。
プログラムの合格者には、再出発に必要な金銭や人脈が用意されるという。まだ試験段階にすぎないが、すでに“夢を実現させた”参加者も存在するらしい。
プログラムに参加するのは、樹を含めた男女6人。
ドラッグパーティーの開催で逮捕された資産家の息子・小森琥太郎(高野洸)や、約6,000万円もの大金を横領した立花理子(渡邉美穂)。 窃盗集団の指示役だった堂上翔太(吉田健悟)、美人局を繰り返してきた一ノ瀬夢愛(井頭愛海)、元パーソナルトレーナーで、顧客である画家の金を奪い、しまいには失明までさせた富樫統晴(佐伯大地)と、参加者の背景はさまざまだ。
▶「サバイバル」ではない“過酷な共同生活”
特筆すべきは、本プログラムが“サバイバル形式”ではないという点だ。つまり、約1ヶ月の間、特に問題を起こさず、模範的な生活を送れば、参加者全員が合格できるシステムになっている。しかし、見知らぬ他人と暮らす過酷な共同生活では、早くも“事件”が発生する。
▶ドラマタイトルの元ネタは、ヨーロッパの「ことわざ」?
本作でまず目を引いたのは、タイトルに並んだ“地獄”と“善意”という、言葉の取り合わせだ。あまりに対極的すぎやしないかと思っていたが、ヨーロッパには「地獄への道は善意で舗装されている(the road to hell is paved with good intentions)」という古いことわざがあった。
悪事は善意によって覆い隠されていること、あるいは、善意の行動が思わぬ結果を招くことを意味している。“良かれ”と思っての行動が、地獄を生むというのだ。
このことわざと本作がどこまで結びついているかは定かでない。しかし、第1話のラストは、大きな愛と支援によって前科者を導く“善意”から生まれたはずの更生プログラムが、新たな“地獄”の入口へとつながっているような気がした。
文:明日菜子
毎クール必ず25本以上は視聴するドラマウォッチャー。
『文春オンライン』『 Real Sound』『映画ナタリー』などでドラマに関する記事を寄稿。
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