細田善彦が演じる「カトウ」は救世主か?“元受刑者特別支援プログラム” の真の目的 ドラマ【地獄は善意で出来ている】

2025.10.24

細田善彦が演じる「カトウ」は救世主か?“元受刑者特別支援プログラム” の真の目的 ドラマ【地獄は善意で出来ている】

草川拓弥(超特急)主演『地獄は善意で出来ている』第2話 レビュー

「全員で合格して、今一度人生をやり直しましょう!」

罪を犯した男女6人が集められた“元受刑者特別支援プログラム”。一度過ちを犯せば立ち直ることが難しい時代に、前科者たちの再出発を支援するために立ち上げられたプロジェクトだった。しかし、善意の名のもとに築かれたその場所で、早々に脱落者が出てしまう。

▶プログラム参加者6人のリーダー格だった富樫が遺体で発見される

グループの中心だった富樫(佐伯大地)の遺体が河辺で発見されたのだ。運営側のカトウ(細田善彦)は事故による「溺死」と発表するが、遺体を目撃した樹(草川拓弥)は違和感を覚える。亡くなった富樫の目は、まるで何かを強く押し付けられたように、無惨に焼け爛(ただ)れていたからだ。
ドラマ『地獄は善意で出来ている』2話 高村樹(草川拓弥)

ドラマ『地獄は善意で出来ている』2話 高村樹(草川拓弥)

『地獄は善意で出来ている』(カンテレ/毎週木曜深夜0時15分~、フジテレビ/毎週木曜深夜0時45分~)第1話はラスト5分で、一気に空気を変えた。カトウは気丈にプログラムの再開を宣言するものの、参加者たちは激しく動揺する。一ヶ月間、波風を立てずに簡単なミッションをクリアし、更生する姿勢さえ見せれば、望むだけの金と人脈が手に入る。だが、“更生の意志”とは、そもそもどのような基準で判断されるのだろうか。

富樫の死と同時に、彼が施設内の食材を盗んだ犯人だったことも発覚した。「事故に遭わず生きていたとしても、きっとプログラムには受からなかった」と言われても、あまりに無残な死に様になかなか事実を飲み込むことができない。「支援するに値しないと見なされた人は途中退場もあり得る」というカトウの言葉に、参加者たちの不安は広がってゆく。
第2話で焦点が当たるのは、美人局(つつもたせ)の常習犯として服役していた夢愛(井頭愛海)だ。プログラムを続けるか否か、その選択は参加者本人に委ねられた。夢愛はプログラムに頼らず、出所した美人局の共謀犯であり、心を寄せるカイ(山下永玖)と共に被害者へ償う道を選ぶ。しかし、光が差したのも束の間。カイがかつて所属していた恋人代行事務所から高額な損害賠償を請求され、そして彼から思いもよらぬ言葉を突きつけられる。

▶どん底にいる元受刑者に手を差し伸べるカトウは救世主か?

参加者それぞれの背景も気になるが、それ以上に目が離せないのは、彼らを導くカトウの存在だ。演じるのは、出演作の絶えない細田善彦。今年地上波で放送された、ドラマ『舟を編む 〜私、辞書つくります〜』では、日本語学者・松本(柴田恭兵)の若き日を演じ、わずかな登場ながら深い余韻を残した。善良な青年からダークな役まで自在に振り切る細田だからこそ、カトウというキャラクターはいっそう掴(つか)めない。
ドラマ『地獄は善意で出来ている』2話 カトウ(細田善彦)

ドラマ『地獄は善意で出来ている』2話 カトウ(細田善彦)

絶望を抱えた参加者たちにとっては、カトウはまさに“救いの手”に見えたはずだ。社会に見放された樹、依存していた男に言われるがままに体を売っていた夢愛。そんな彼らのもとに自ら赴き、一攫千金(いっかくせんきん)のチャンスがあるプログラムへと誘う姿は、まるで救世主のようですらある。

さらに物語はそこから一転する。一ヶ月前、カトウはとある人々を密かに集めていた。しみに沈む者もいれば、怒りを露わにする者もいる。その中には、かつて富樫に金を奪われ、視力を失った画家の姿もあった。――そう、“元受刑者特別支援プログラム”の真の目的は、被害者自らの手で彼らに罰を与えることだったのである。

「未だ暗闇を彷徨(さまよ)う皆様と、光のもとへ既に放たれた加害者。罪と罰のバランスがあまりにも歪んでませんか?」

「人生を狂わされたあなたたちには復讐(ふくしゅう)をする権利があります。」


彼らの目に映ったカトウの姿も、まるで救世主に映っただろう。“被害者の会”を名乗るカトウは、参加者たちの怒りや悲しみを高らかに煽(あお)る。あまりに強い言葉に、思わず頷(うなず)きそうになってしまったが、はたして本当に復讐することが正しい道なのか。正義の名のもとに怒りを爆発させる人々の姿が、いまの社会を映す鏡のようでドキッとした。善と悪がどんどんひっくり返る30分間。自分にある“正しさ”を疑いながら、樹たちの行く末を見届ける必要がありそうだ。
文:明日菜子
毎クール必ず25本以上は視聴するドラマウォッチャー。
『文春オンライン』『Real Sound』『映画ナタリー』などでドラマに関する記事を寄稿。
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