「分からない、を共有しながら⋯」俳優・小関裕太、W主演のミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』 の舞台裏

日本初演のミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』、その大阪公演を前にインタビューに応じた俳優・小関裕太さん(2026年6月・大阪市内)

日本初演のミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』、その大阪公演を前にインタビューに応じた俳優・小関裕太さん(2026年6月・大阪市内)

女性が淑女であることだけを求められた19世紀のイギリス・ロンドンを舞台に、官能的な小説を書くことで自分自身を表現するアンナが、社会の偏見と闘いながら「私」として生きる道を見つけ出す。韓国で数々の賞に輝いた大ヒットミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』の日本初演が、いよいよ大阪に上陸します。

ヒロイン・アンナ役に元・宝塚歌劇団雪組トップ娘役の咲妃みゆ。そして、そのお相手となるマジメな新米弁護士・ブラウンには、ドラマ『波うららかに、めおと日和』などでますます注目の実力派俳優・小関裕太という、魅力的なコンビで贈るロマンティック・コメディー。その一方で、「自分らしさとは?」という現代にも通ずる社会派のメッセージが込められたミュージカルについて、来阪した小関さんに話をうかがいました。

◆意志を持ちすぎずに、あくまでブラウンとして生きる

──2026年5月に幕を開けた東京公演、おつかれさまでした。本作は韓国で称賛を浴びたミュージカルの日本初演ですが、最初にオファーを受けたときの想いを改めてお聞かせください。

しっかりとしたメッセージがあることと、素敵な楽曲ばかりだなという印象でした。もともとイギリスを舞台にした映画が好きなんですが、このミュージカルも19世紀のロンドンが舞台だったりするので、おこがましくも自分の創作意欲がかき立てられて、ぜひ参加したいですとお伝えしました。

特に僕が観てきたのは、混沌(こんとん)とした作品が多いんですが、同じく19世紀のロンドンを舞台にした『メリー・ポピンズ』とか、すごくワクワクする作品でありながら、混沌とした時代をどうやって生きていくか、なにが大切なのか。そういったイギリスの歴史や社会、人間関係がドラマティックに描かれていて。そういうのに惹(ひ)かれてるのかな、と。
ミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』のポスタービジュアル

ミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』のポスタービジュアル

──そういう意味でいうと、この『レッドブック〜私は私を語るひと〜』というのは、まさにそんな作品ですね。

そうですね。しっかりとしたメッセージ性がありながらも、すごく明るい舞台です。楽しそうだなと本番を想像しながら、台本を読んでました。

──小関さん演じるブラウンは、恋愛も本で学ぶというマジメな新人弁護士で、英国紳士であることが生き方のすべての基準となっています。自由奔放なアンナに振りまわされながらも、自分らしさを見つけていきます。

あくまでも僕の考えなんですが、実はブラウンってそんなに生きづらさを感じていないんじゃないかと思っていて。彼は本からしか学べないという設定なんですが、本というのは客観的なものですし、彼自身はそれが正しいし、紳士とはこうあるべきだと信じている。

19世紀の男性を象徴としたようなタイプの人物だからこそ、自分がおかしいというより、アンナという女性と出会って、なんて考え方の違う人なんだ、なんて合わない人なんだって思いながらも、それがストーリーが進むうちに恋に落ちていくという作品なので、彼自身はそんなに無理してないかなって。

──気づいたらアンナによって、自分自身を見つけていくわけですが、その変化をどのように演じられましたか?

その変化というのを、意識しすぎないことがすごく難しくて。彼はその場面、場面では、どういう感情なのか分からないわけですね。これが怒りなのか、悲しみなのか、ワクワクしてるのか、高鳴っているのか。自らの感情が分からない状態で。

ブラウンはこの作品においては、その「分からない」ことを象徴するキャラクターでもあるので。ただ、それが過ぎると輪郭のないキャラクターになってしまうとまずいんですが、あまり意志を持ちすぎずに、あくまでブラウンとして生きることを意識しました。

◆アンナ役の咲妃みゆさんは「力強く素晴らしい方」

──リハーサルに入る前のインタビュー動画もYouTubeで拝見したのですが、アンナ役の咲妃みゆさんについて、小関さんが「尊敬する俳優さん」「柔らかさと神秘的なベール。なのに、そこにちゃんと芯もあって、アンナともリンクする」と評されていました。そのイメージの変化はありましたか?

稽古を通して、「やっぱりこの人は舞台人として強いな」っていう安心感がありました。安定感と安心感。それって、すぐに作れるものではなく、その人の性格や舞台に立つ覚悟、どんな想いで業界に飛び込んできたのか、舞台に立ってるのか、そういうことを全部ひっくるめた上での覚悟を感じました。

みんなを引っ張っていくというより、みんなが引っ張られていく俳優さんだなと。本当に力強く素晴らしい方だなと、本番期間に入って、より感じました。しかも、それが軽やかなんですよね。責任感がありながらも、それを周囲に悟らせるタイプではないので、そこがまたかっこいいなって。

──一緒の舞台に立って、楽しかったんじゃないですか。

そうですね。おこがましいですけど、お芝居のベクトルが似てるなと思えることが多くて。ちょっとアバウトな言い方ですけど、舞台に上がる楽しみ方というか。その日の会場の気温や湿度、または客席のテンションの違いとか、そういうものを全部ひっくるめて、変化する事象を楽しむことが似てるかなと。素晴らしい俳優さんがたくさんいる中でも、大切にしているものが同じ方向を向いてるということは実は多くないので。
──今回、演出・上演台本・訳詞の小林香さんとは、かつて主演ミュージカルでもご一緒されています。小林さんの演出はどんな印象をお持ちですか?

物事の捉え方が、基本ロジカルです。なんでこうなったんだろうっていうことを、構造として考える。あと、歴史とか背景に関しても非常に勉強家ですし、知識に満ちている。プラス、それをただ作品に押し込むのではなく、キャストやスタッフに共有して投げかける、考えさせるというのが、香さんの特徴だなって思います。

──小林さん自身も、こういう作品にしたいという想いがありながらも、それをどう発展させていくのかを楽しむようなタイプだと。

そうですね。きっとご自身の中に目指すものははっきりあるんでしょうけど、一人だけではたどり着けない場所に行きたいっていうのはすごく感じます。他人の思想も加味して作品を作り上げていきたいっていう。あなたをキャスティングしたから、あなたとしかいけないゴールに行きたいっていう想いはすごく感じます。
──ちなみに前回ご一緒に仕事をしたのが10年前ですが、演出家と役者としての関係性に変化はありましたか?

『DNA-SHARAKU』(2016年)というミュージカルだったんですが、やっぱり10年を経て、自分自身も変わって、話す内容も変わったのを感じましたね。当時は20歳だったので、「なるほど、分かりました!」って言ってたことが多かったと思うんですけど。今はわりと「分からない」って言います。

それって、分からないということが分かっているからこそ言えるというか。それを投げかけてもいい信頼がある方なので。当時の「分かりました」って、実は分かってないんですよ(苦笑)。今は、いいものを作りたいからこそ「分からない」ことを共有するという。そういう会話が多くなった気がします。
「いいものを作りたいからこそ“分からない”ことを共有する」と語った小関裕太さん(2026年6月・大阪市内)

「いいものを作りたいからこそ“分からない”ことを共有する」と語った小関裕太さん(2026年6月・大阪市内)

──そんな「分からない」の共有を積み重ねて、リハーサルから東京公演を経て、広がってきたこと、深まってきた部分ってありますか?

はい。あの韓国版という原作があるので、それを理解して再構築していく初演というのはすごく大変なんですね。妥協があってはいけない中で、「分からない」を共有するのはすごく意味のあるものでした。作品への理解度もそうだし、常にお互いの言葉に責任がある現場でした。

みんなで考えて考えて、いろんな新しいアイディアが湧いてくるので、時間があっても足りないっていう。いや、時間は充分あったんですけど、もっと掘り進められるっていう衝動にみんな駆られて。大変でしたが、それが楽しかったです。

◆日本初演は「間」を大事に、日本版の醍醐味を

──日本初演ということで、いろんな想いを込められたと思いますが。

日本と韓国の違いで言うと、いろんな人の言葉を借りたなら、韓国はお客さんが感情豊かに舞台を楽しみに来てる。日本では、もちろん作品を楽しみにされているんですけど、考察が多いというか。発してないことへの関心が高い気がします。そういうところが、改めて演出を変えてやる日本版の醍醐味(だいごみ)かもね、という話は各所からもありました。

なので、韓国版に比べてちょっと「間」が多かったりします。19世紀ロンドンの深め方もちょっと違うし。イギリスとの歴史的な関係や、文化への理解の方向性みたいなものも自然と変わってくると思いますし。だからこそ、今回改めてやる意味をみんなで考えながら進めてきました。

──そういう意味では、小林さんというのは、うってつけの演出家ですね。

そうですね。すごく頼りがいがありました。
──そんなミュージカル『レッドブック ~私は私を語るひと~』の大阪公演は、2026年6月27日(土)~ 6月30日(火)にかけて、「森ノ宮ピロティホール」(大阪市中央区)にて開催されます。

東京公演から1カ月空いて、熟成されたからこそ楽しんでいただける部分があるんじゃないかなと思っていて。ぜひそこは大阪公演ならではの楽しみとしていただければと。僕自身も楽しみにしています。

ドラマチックで明るい作品なんですけど、社会派のメッセージもしっかりあって。観劇の後、ポンッと背中を押してくれる作品です。予備知識なしにぜひ会場に足を運んでいただければ。2026年の今やる意味がある作品だと思っています。

取材・文・写真/服部崇(di;hype)
関西在住のウェブディレクター&編集者。
miyoka
0
銀河の一票
カンテレドーガ
カンテレ笑タイム
ハチエモン
カンテレアナウンサーチャンネル
カンテレドラマニア
ウェルチル
カンテレID