最近、演劇の現場では「ハラスメント講習会」というものを開くことが多くなりました。私が所属している日本演出者協会でも推進しています。知り合いの演出家は稽古の初日になんと6時間も講習会をやったとか、それ自体がちょっとパワハラな感じもしないでもないのですが…。
演劇界は確かにハラスメントのるつぼだったと言っても過言ではないのかもしれません。
▶オーディションで「身長160cm以下は即帰宅」
今から45年くらい前の話ですが、私が受けたある劇団のオーディションでは、会場の壁に線が引かれていて、最初にその前に立たされました。それは160㎝のラインで、それより背の低い者はその場で帰されたのです。
身長152㎝の私は一発アウトで落ちましたね。俳優としての能力以前に見た目で役に立たないと判断されたわけです。台詞のひとつも聞いてほしかったし、なんで芝居を始めたかくらいは知ってほしかったです。もちろん悔しかったのですが、その当時は募集要項に「身長●●㎝以上」と書いてある劇団なんてざらにあったので、「こんなもんか」と受け入れていました。当時はチビ=ブスという認識でしたねぇ。
演出家の言うことは絶対であるという風潮は今でもありますが、昔はひどいものでした。バカヤロウ、アホかは当たり前に飛び交う世界。「俺の言ったとおりにしてればいいんだよ」と何時間も正座させられたり、急にふられた仕事に対応できなかったとき、いきなりぶたれたりしました。どこの現場でも女優は当然のように先輩にお茶を出す係り。芝居に集中していると「女のくせにお茶のひとつも入れられないのか!気の効かない女は、芝居も下手だな」なんて言われて、才能があるのに役が付かない人もいました。
▶「女のくせに」から「女なのに」へ 今は性別を超えて評価される時代に
私はいま60代ですが、自分より年上の女性演出家という人は数えるほどしかいません。どんなに才能があろうとも誰も言う事を聞いてくれない時代が長かったからです。私も当然「女のくせに」から始まりました。稽古場でなにか指示を出すたびに「お前の言うことを聞いてやっている」という雰囲気がビンビン伝わってきて心折れそうな毎日を過ごすことが多くありました。
そんな時にうっぷんを晴らしていた方法は、薄い発泡スチロールの板に腹の立つ相手の顔を描いて、思い切りパンチを食らわせることでした。発泡スチロールは気持ちいいほど粉々に割れるので気分解消にはもってこいだったのです。とはいえ掃除するのは自分なんですがね…。
それでも仕事をするうちに段々と「女のくせに」から「女なのに」に変わっていきました。今は「女」という区別はもう付いてきません。「演出家」として評価されたのだと思うようにしています。
▶ハラスメント対策のジレンマ 気づけば“会話”も“演出”も慎重すぎる世の中に
昨今、大手の劇団のいじめ事件や、有名人のセクハラ問題などで演劇業界もすっかりハラスメント対策に追われています。それこそ男性の演出家は女性キャストに触れて「こっちに立って」なんて言えない環境になりました。「君の声の出し方が役に合わないんだよね」とか「髪を触る癖を止めようか」なんて絶対に言えません。
言ったら完全にセクハラです。「彼氏(彼女)いるの?」なんて聞いたらモラハラだし、「ジュース買ってこい」と命令したらパワハラ。「もう会話出来へんやん!」と無視を決め込むとそれもハラスメントなのです。演劇界に付き物だった稽古の後の飲み会も最近はだいぶ減りました。「なんだお前、酒飲めないんか?」と言おうものなら今では告訴ものだからです。
しかし、作品の世界観を作るのに演出家が当たり障りのないことばかり言っていていいのだろうか?とも思います。作品を創造することにおいて演出家は先頭に立って決めないといけないことが山のようにある、そのたびに「これはハラスメントか?」なんて気にしていたら何も作れなくなってしまうのではないのか?と思います。実に悩ましい時代ですねぇ。
▶食欲そそる秋のひと皿!気分スッキリ簡単「アヒージョ」レシピ
さてさて、そんな悩みを解消するのはやっぱり美味しいものです。少し寒くなってきたので今日は秋にピッタリのアヒージョをご紹介します。しかも作り方は超簡単!実はグルメドラマで見て作ってみたのですが、これは目からウロコでした。
(材料)
・小エビ、イカなどの海鮮の具(冷凍のシーフードミックスでもOK)
・長ネギ少々
・エリンギ少々(しいたけなどキノコ類ならなんでもいいです)
・市販のチャンジャ
・オリーブオイル
・バケット(食パンでもOK)
(作り方)
①小ぶりの鍋かフライパンにオリーブオイルを入れて熱する。
②海鮮の具とキノコ類を入れ、そこに市販のチャンジャを入れる。
③よきところでネギを入れ、火を止めたら出来上がり。
★チャンジャはタラの内臓を塩漬けにし、唐辛子、コチュジャン、ニンニク、ごま油などの調味料で漬け込んだ塩辛なので、全ての調味料がこれひとつで済むという魔法のアヒージョ素材なのです!ビールにもワインにも合いますよ。そしてオリーブオイルに溶け込んだお出汁をバケットに浸み込ませて食べると、もう最高です!食欲の秋にピッタリの一品です!
わかぎ ゑふ(劇作家・演出家)大阪府出身。
関西小劇場界の老舗劇団、「リリパットアーミーII」2代目座長。
芝居制作処、玉造小劇店の代表。
大阪弁のオリジナル人情劇を数多く手掛けている。古典への造詣の深さも有名で
落語、歌舞伎、新作狂言の作、演出や衣裳デザインなども手掛ける。
小劇場から大劇場まで縦横無尽に活躍する数少ない女性演出家の一人。
エッセイも多数出版。2023年には大阪市民表彰を受賞した。
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