食べてみよか

「楽しく食べる~初夏の渋い一品、ホタルイカ」わかぎゑふの料理コラム✨

2024.04.30

「楽しく食べる~初夏の渋い一品、ホタルイカ」わかぎゑふの料理コラム✨

楽しく食べる~初夏の渋い一品、ホタルイカ

 今回から食に関する連載をさせてもらうことになりました。料理は長年の趣味ですが仕事にするのは初めてです。趣味と言っても特に料理教室のようなところに習いに行ったこともなく、人生の先輩に教えてもらったり、自分で勝手に作ってきたので参考になるかどうか分かりません!と最初にお断りしておきます。

 私のモットーは手の込んだ料理を作るのではなく、なるべく簡単で楽しく食べられるものを作ることです。それはうちの夫の名言「一人で食べたら豪華なディナーでもエサ、2人で食べたら袋麺一杯でも食事」によるものです。どんなに手の込んだ素晴らしい料理でも一人で食べたら寂しく、おいしさを分かち合えないけど、2人で食べたら楽しいという話です。
 いやいや、なにも家族で絶対食べろとか、恋愛をしましょうと言ってるわけではありません。「一人」というのは比喩なわけで、楽しければそれでいいのです。食事を一人むなしくエサのように食べるな!ということです。

 私が料理に興味を持ったのは小学生の時でした。母親が料理が苦手で、ほぼ作らない、作るととんでもないものが出てくるという家庭で育ったので、小さい頃は食べること自体に興味がありませんでした。その母は料理嫌いなのに「体に良い物」しか食べさせないというポリシーがあり、屋台のたこ焼きや、袋麺、駄菓子などは一切買わない人でした。子供にとって憧れのジャンクフードというやつが一切食べられないまま幼年期を過ごしたので、私は食べる楽しみを知らなかったのです。

 それが一変したのが家庭科の料理の時間です。小年5年時の最初の調理実習で作った「ほうれん草のマヨネーズ炒め」が人生を変えました。それまで家では母が「野菜はうんとゆでないと体に悪い」という理由で作った、過度にゆでてクタクタになったおひたししか見たことがなかったので、マヨネーズでさっと炒めて塩をふるだけの料理に感動したのです。
 まずおいしさに衝撃を受けました。それから、ほうれん草はおひたししかないと思い込んでいた固定観念が壊れたことに興奮を覚え、なによりも料理をすることの面白さに夢中になりました。
私の歴史年表があるとしたら「10歳、料理に出会い開眼する」と書かれていることでしょう。
偶然にもその年から母が「英語を覚えたい!」と言い出して、定時制の中学校に入学することになりました。今から半世紀も前のことなので、当時は大人の英会話教室なんてなかったんでしょうね。そのことで「だから晩ご飯は作られへんようになるねん。かまへん?」と聞かれ「ええよ!」と即答しました。晴れて自分で夕食を作れる権利を得たわけです。

 小学生に自分で夕食を作れなんて、いまなら問題になるかもしれませんが、その時の母と私は完全にウィンウィンの関係でした。母は好きなことが出来る上に公然と食事を作らなくてもいい。私は母のまずい料理から逃れて料理を作ってみることが出来る毎日を手に入れたからです。かくして私は10歳の料理人になりました。
ちなみに家には父も居ましたが、隠居生活の遊び人でほとんど家で食事をしなかったので無関係というか、見守り隊みたいな立場でした。実際においしいゆで卵の作り方などは母ではなく、父に教えてもらいましたしね。
最初のうちは例のほうれん草のマヨネーズ炒めばかり作っていました。子供なので馬鹿の一つ覚えみたいにおいしいと思ったものをただただ食べるということに凝っていたと思います。それから卵を焼くことに夢中になりました。そして卵をくるくると巻いて焼けるようになると気分は天才料理人。調理実習の時間はメモを片手に一人前の見習いコックさんみたいなものでした。
高校生くらいまでに色んな大人に会う機会を経て大体のものが作れるようになりました。おまけに高校3年の時にスナックの開店前の下ごしらえのバイトというのを始めて、そこで酒のさかなを作ることを覚えました。この経験は今も役に立っています。

さてさて、そんなことで連載第一回目は春から初夏の酒のさかなをご紹介しましょう。
今回はホタルイカの渋い一品。と言っても冒頭に書いたように私はなるべく簡単おいしいものが大好きなので、作り方は難しくありません!
まずボイルしてあるホタルイカを買ってきます。特別なものでなくて構いません。近所のスーパーで売っているホタルイカ(20~30杯くらい)で大丈夫です。
 そうしましたら3~5杯ほどはそのままお皿に取っておいて、残りのホタルイカを包丁で叩くように切っていきます。そう、なめろうにするのです。その際に買った時に付いてくる酢みそを半分くらい一緒に叩いてください。付いてなかったら普通のおみそで構いません。お好みで梅干しを1個くらい入れてもいいです。
 粘りが出てきて、ひと塊になったら完成です。あとは小鉢に入れて、取ってあったホタルイカを上にトッピングします。そしてノリで巻いて食べていただくと、家飲みのちょっとリッチなさかなの完成です。ノリは出来たら焼きのりがより渋い大人のアテになります。
お刺身だけだと「買ってきただけやん!」となりがちな食卓に、ちょっとだけ手のかかった(実は叩くだけですが)アテが加わると、不思議なもので豊かな気持ちになれます。それにストレス解消にもなるので、ぜひお試しあれ!
「ホタルイカのたたき」
(材料)
・ボイルホタルイカ(20~30杯くらい)
・酢みそ(付属のものがあれば)半分程度(なければ普通のみそ)
・梅干し1個程度(お好みで)
・焼きノリ(お好みで)

 (作り方)
・3~5杯のホタルイカは飾りにとっておく
・残りのホタルイカを付属の酢みそ(半分)か、なければ普通のみそと一緒に包丁でたたく
(お好みで梅干しを1個程度入れても)
・粘りが出てきてひと塊になれば完成
・皿に盛り付け、飾りにとっておいたホタルイカを添える
・お好みで、ノリ(焼きノリがあればなおよし)で巻いても
わかぎ ゑふ(劇作家・演出家)大阪府出身。
関西小劇場界の老舗劇団、「リリパットアーミーII」2代目座長。
芝居制作処、玉造小劇店の代表。
大阪弁のオリジナル人情劇を数多く手掛けている。古典への造詣の深さも有名で
落語、歌舞伎、新作狂言の作、演出や衣裳デザインなども手掛ける。
小劇場から大劇場まで縦横無尽に活躍する数少ない女性演出家の一人。
エッセイも多数出版。2023年には大阪市民表彰を受賞した。
miyoka
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