行ってみよか

「光の振付師」藤本実(MPLUSPLUS) 既成概念をぶっ壊せ!

2023.12.07

「光の振付師」藤本実(MPLUSPLUS) 既成概念をぶっ壊せ!
2023年12月、京都で前代未聞の体験型 “光のエンターテインメントショー”が期間限定で開催されます≪12/7(木)~11(月)≫。
日本の伝統芸能に光の魔法を仕掛けるのは、革新的な光の演出で世界を魅了するMPLUSPLUS。
代表を務める藤本実さんにお話を伺いました。
―藤本さんはどういったお仕事をされているのですか?
僕の会社はMPLUSPLUSといって、音と光と映像によるステージ演出を担います。演出家や振付家、クリエイター、エンジニアがいて、エンターテイメントやアートに必要な演出に関わる電気回路を設計したり、プログラミングしたり、映像を作ったり、衣装を設計したり。ライブエンターテインメントに使用される「光る衣装」や映像が出る「光るディスプレイ」、「光るリボン」など、LEDを使ってパフォーマンスの可能性を広げることを追求し開発しています。MPLUSPLUS DANCERSというダンスパフォーマーたちもいるんですよ。
学生時代は神戸大学でウェアラブルコンピューティングという小型コンピューターを身に着けることを研究していました。例えばスマートウォッチとかワイヤレスイヤホンなどがウェアラブルコンピューティングというジャンルで開発された商品です。加えて、カメラの手振れ補正やスマホの万歩計アプリなどは加速度センサーというテクノロジーを利用しているのですが、当時の僕はその加速度センサーとウェアラブルコンピューティングを組み合わせて、体の動きと光を連動させることを研究していました。
そして2010年にオーストリアのArs Electronicaで「Lighting Choreographer(光の振付師)」という 音楽とダンスと光を連動させるメディアアート作品を発表しました。LEDライトを装着したスーツを着て踊ると体の動きとLEDの発光が無線で同期する最先端の技術です。

当時は1つのデバイス(端末)で50個のLEDを制御するのが精いっぱいだったけれど、今では自分たちでチューインガムくらいのデバイスを開発して、1つでLEDを2000個くらい制御できるようになりました。とても小さく軽いので身に着けて激しいダンスも踊れるし、体にまとう光の数を増やすことができました。
どんどん小さく軽くなってきたので体に装着するだけじゃなくて、旗をディスプレイにできるんじゃないかとか、新体操のリボンも光らせることができるんじゃないかといった発想を形にすることができ、テクノロジーの進化とともにさまざまなパフォーマンスに応用できるようになってきました。
―どういったところからダンスの動きと光を連動させようという発想になったのですか?
もともとダンスをやっていました。僕が好きなストリートダンスは既存のステップの組み合わせでできています。その組み合わせには限度があるので、自分でダンスを作っても結局いつも同じようなものになってしまうところがありました。どうすればマンネリを突破できるのか。たとえば、人の体の色をクラゲのように自由に変えられたらどんな表現ができるのかなって考えていました。でもまだ変えられない。色を変えられない代わりに全身にLEDを付けたらどうなるのかなって。

そこでダンスに「光」という新しい要素を加えてみたら、表現の幅が広がったんですね。通常、ダンスは人の体が全部見えている状態で踊るけれど、LEDを装着した黒いスーツを着て、真っ暗な空間で光を制御すれば、何も見えないところから急に顔が出てくるとか、瞬間移動や一人が二人になるとかもできる。光る部分と光らない部分を作ることで、例えば腕が抜けたように体の一部を消すことができる。どんどん新しい演出イメージが生まれてきました。こんな表現ができないかなと思っていたことが、光を制御するテクノロジーで実現可能になったんです。

「こんな演出がしたいから」という発想でしか技術開発の動機は無いです。常識にとらわれず、見たことのない演出を作りだすということが仕事のテーマですし、デジタルは硬くて動かないものという既成概念をぶっ壊したいです。
―2022年に『AGT2022」のセミファイナルに進んだことも話題でしたね。
『America's Got Talent』というアメリカの公開オーデション番組に出ることが会社を設立した時からの夢でした。ラスベガスでシルク・ド・ソレイユのようなショーを作りたいと思っていたので、ラスベガスにつながるためにも出たかったんです。
披露したパフォーマンスには10秒に1~2回は「Wow!」という仕掛けをしました。勝ち残るために「驚き」をいっぱい積み重ねようと。そしたらアメリカのお客さんたちがこちらの思惑通りに「Wow!」って驚いてくれる。自分たちの仕掛けに反応してもらえて、心の底から楽しんでいてくれているという実感がうれしかったですね。

LEDリボンやLEDマスクに加えて、この『AGT2022』に向けて新たに開発した「LED VISION UMBRELLA」を披露しました。LEDを3000個つけてディスプレイになる傘はすごく重くて片手で持つのは大変。両手で持ってパフォーマンスしても腕が疲れちゃうほどでした。でも無茶をして作ったんです。実際に雨を降らさなくても、傘に雨や水滴が当たる表現にチャレンジした作品でした。

番組がきっかけで世界中に僕たちのことを知ってもらえて、『F1ラスベガスGP』(2023年11月)のオープニングイベントで光る旗の演出を依頼されました。LEDフラッグにチーム名が表示されたり、チェッカーフラッグに変わったりというパフォーマンスを100人のアメリカのダンサーたちと披露しました。
―大阪・中之島でも「水と光のワンダーランドin中之島」で2種類のインスタレーション(芸術空間)を初披露されましたね。
イベントをプロデュースするのが初めてだったので、自分たちならでは、ということがやりたいと思いました。それまではドーム、アリーナ、スタジアムで開催されるアーティストライブの大規模な演出を手掛けていたけれど、この時は街中で壮大なライブ演出を体験してもらう、というのがコンセプトでした。

オープンな場所に全長10m以上の巨大Ⅼ型ディスプレイを置き、通りすがりでも映像に没入できる空間や、高さ2.5mのLEDポールを32本立てて、いつでも音楽と同期して光が動く「LED POLE STAGE」を作りました。そのステージでは1時間に1回はLED衣装を装着したダンサーが出演し、ダンスと噴水とLEDポールの光が連動するのを見てもらったり、ダンサーが光りながらグリーティングするとお客さんがハイタッチしたりと大いに盛り上がりました。

水と光のワンダーナイト in 中之島

―今年の夏にはタイガースファンも驚かせました。
小さく軽くなったデバイスに加え、壊れにくいLEDを開発しました。これで光るリボンを床に何度もたたきつけても壊れない。そしたら今度はそれを吊れるんじゃないかって。壊れなくて軽量なら、ドローンで吊るして振動や風を受けても大丈夫なんじゃないかな。それに電源もいらないし。ということでLEDを装着した布製のディスプレイをドローンの機体に吊り下げて飛ばす「LED VISION DORONE」を開発しました。
その少し前に阪神タイガースから「ウル虎の夏」という、甲子園を黄色に染めてファンと選手が一丸となれる期間限定のイベントで何かできないかという相談がありまして。関西出身の僕としては「LED VISION DORONE」を完成させ、世界で初お目見えさせるには甲子園しかないなと、願ってもない機会でした。

イベントでは、タイガースが勝つとみんなが歌う「六甲おろし」の歌詞をディスプレイに映し出して甲子園の空に飛ばしました。今年のタイガースは強かったので何度も披露できる機会に恵まれて、多くの方に喜んでもらいました。また、親が阪神ファンなので、試合と僕の仕事を同時に見てもらおうと甲子園に招待して。会社を作って初めて親孝行ができました。

阪神タイガース「ウル虎の夏2023」 - MPLUSPLUS "LED VISION DRONE"演出

―そして今年の12月には「ZIPANGU光が彩る演舞祭」で日本の伝統芸能と光のコラボを手掛けらますね
海外に行くと現地のエンターテインメントや伝統芸能といったノンバーバル(非言語)のショーを見ることがありますよね。アメリカのブロードウェイには上演時間が短め目のものや、ノンバーバルな作品を上演するオフブロードウェイがある。僕たちが作った世界初の技術を使って日本発のショーを作れないかと以前から考えていました。日本オリジナルのものを日本でやりたいなって。そんな時に声をかけていただき今回の企画につながりました。光と日本の伝統芸能という組み合わせにチャレンジします。

ラインナップは先斗町お茶屋営業組合の芸舞妓さんたちによる舞踊やOSK日本歌劇団の歌劇に島根の石見神楽です。
空間全体にLEDを仕込んで、芸舞妓さんの踊りの所作に合わせて舞台全体が光る。OSKの踊りに合わせて客席含めて会場全体にぐるっと光が回ったり、パフォーマンスと連動して演者が持つフラッグに炎が映し出されたり。壊れないLEDができたから、石見神楽の大蛇は全身光りながら蛇腹状に巨大化します。
日本発で唯一の、ここでしか見られないもの、そして日本人が見ても楽しめる本格的なものを作っています。

一部のお客様には光る法被を配り、公演前にはキャストと一緒にその法被を着て街歩きをしていただきます。光る法被を着た集団が街歩きをしているので、たまたま出会った人たちも街中でエンターテインメントを体験する。エレクトリックパレードを毎日街中でやるイメージで、京都の町を光る練り歩きでジャックします。また会場ではショーと連動するので、光る法被を着たお客様は舞台装置の一部であり、出演者の一部でもあるという特別体験が待ち受けています。

誰もまだ未体験なことなので何が起こるのかワクワクしています。
劇場に入る前からストーリーは始まっていて、入った後も空間全体と演出が連動している。ウェアラブルという技術だからこそできる、キャストと観客と空間とが連動する新しい演出でみなさんを「アッ」と驚かせたいです。
藤本実
1983年生まれ、兵庫県出身。自身もダンサーとしてパフォーマンスを行う中で、学生時代に出会ったウェアラブルコンピューティングの研究をきっかけに身体性とLEDの新しい表現を追求し続けている。2013年にTechnology&Creatorの集合体であるMPLUSPLUS株式会社を設立。自身の経験から演者視点に立ち、演出ありきのシステム開発を行うことでこれまでの概念にとらわれないパフォーマンスの新しいジャンルを生み出し続けている。
公演概要
「ZIPANGU 光が彩る演舞祭」 https://www.shochiku.co.jp/pj/zipangu-kyoto/

【開催日時】2023年12月7日(木)~11日(月)16:00/19:00(1日2回公演。12/7は19:00公演のみ)
【開催場所】先斗町歌舞練場(京都府京都市中京区先斗町通三条下ル橋下町130)
【チケット】 <一般チケット> 当日8,800円 前売り7,040円/<スペシャル体験チケット> 当日12,100円 前売り8,470円 他VIPチケットなどあり


公式X(Twitter) https://twitter.com/zipangu_kyoto(@zipangu_kyoto)
公式インスタグラム https://instagram.com/zipangu_kyoto?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA==
miyoka
0