行ってみよか

眞栄田郷敦が描いた作品も!映画封切前に「ブルーピリオド展」で期待感高めよう!

2024.05.23

眞栄田郷敦が描いた作品も!映画封切前に「ブルーピリオド展」で期待感高めよう!
この春に中学に入学した息子とふたり、GW前半で賑わう梅田を経由し、地下鉄を乗り継いで大阪南港ATCギャラリーへ!ひさびさの母子のお出かけにウキウキする気分を反映したような青空に心が躍ります。最後にコスモスクエア駅から南港ポートタウン線に乗ってトレードセンター前駅で降りれば、すぐに目的地の大阪南港ATCホールに到着!今日は二人で漫画『ブルーピリオド』の展覧会、『ブルーピリオド展 in 大阪 ~アートって、才能か?~』にやってきました。

『ブルーピリオド』(山口つばさ作)は、1枚の絵画に出会ったことで東京藝術大学への進学を志すようになった高校生の矢口八虎が、表現について奮闘するアート系スポ根漫画です。今回の展覧会ではカラー原画や作中絵画などの展示はもちろん、没入型シアター、作中の藝大入試の再現コーナーなど体感型のコンテンツも満載。多角的に『ブルーピリオド』の世界観を感じることができる内容になっています。

会場となる大阪南港ATCホールは大小合わせて5つのホールを有する複合商業施設。ワンフロアで総面積約7,000㎡という広大な建物で、近未来的なデザインも特徴的です。『ブルーピリオド展 in 大阪 ~アートって、才能か?~』が開催されているのは、ATCギャラリーというエリアになります。

トレードセンター前駅から連絡橋を通り、大阪南港ATCホールの建物に入った共有部分。SF映画に出てきそうなデザインにワクワクします。

奥に進んでいった先、ITM棟の2階部分の一番奥にあるのがATCギャラリー。突き当りに『ブルーピリオド展 in 大阪 ~アートって、才能か?~』のかっこいいパネルがあるのですぐにわかります。

正面の大パネルの前でポーズ!

入場口付近にはオリジナルフォトの撮影ができるブースも

それでは、いよいよ期待に胸を膨らませて親子で入場です!入るとすぐに音声ガイドの貸し出しコーナーがあります。なんと本展覧会には2種類の音声ガイドが用意されているとのこと。麒麟・川島明さんによる「ナビゲーター版」と、TVアニメで八虎・世田介・橋田・森先輩役を務める声優たちが登場人物の対話でナビゲートする「キャラクターズ版」を選ぶことができるなんて、とても贅沢ですね。

それでは、展示内容へと進みましょう。まず我々を迎えてくれたのは、壁に描かれたこの2つのコマでした。
「俺はピカソの絵の良さがわからないから それが一番スゴイとされる美術のことは理解できない よくわかんない 俺でも描けそうじゃない?」という主人公・八虎のセリフが描かれたこのシーンは、「アートとは何か」に向き合う上で非常に大きな示唆を与えてくれます。

私は大学時代、思想文化学科という哲学科に属する「美学藝術学」という学問を専攻していました。耳慣れない言葉かと思いますが、美学藝術学とは端的に言うと「美とは何か、芸術とは何か」を探求する学問です。古代から多くの哲学者や思想家、芸術家が美とは何かについて考察を重ねてきました。八虎が言うように、ピカソを最高の画家と称す人は多いでしょう。実際、ピカソの作品はこれまで何度も最高落札価格記録を塗り替えてきました。生涯にわたって様々に作風を進化させてきたピカソですが、キュビズム/シュールレアリスムと呼ばれる、写実的な絵画とは程遠い作風の作品が特に有名でしょう。対象を分割したり、複数の要素を組み合わせたりして構成された幾何学的なピカソの作品について、小さい子どもが描いたような絵だなと思う人も少なくないはず。八虎が「俺でも描けそうじゃない?」と思うのはすごく自然な感覚だと思います。(なお、「ブルーピリオド(青の時代)」とは、若い頃のピカソの作品群の呼称です)

では、なぜそれが「世界一のアート」と見なされているのか?そもそもアートとは、芸術とは何なのか?このオープニングにある2つのコマを見て私が感じたのは、私が大学時代に数年かけて多くの難しい文献を読み模索していたことを、『ブルーピリオド』は漫画という誰もが共感しやすい方法で、そして本展覧会ではより実感に近い形で試みているのだなということでした。
作中絵画
『ブルーピリオド』には登場人物たちによる絵画作品がたくさん出てきますが、本展覧会にはそれらの現物や再現絵画が展示されています。最初に登場する作中絵画は八虎が一目で心を奪われた天使の絵。美術部の森先輩が描いた大天使の魅力に実際に触れることができます。
青の渋谷シアター
続いて、目玉コーナー「青の渋谷シアター」へ。八虎は美術の課題で早朝の渋谷を描くことにします。夜明けの渋谷は青いと感じた八虎は、自分の絵画を通じて初めて他者と言葉以外の会話ができたことに深い感動を覚えるのでした。このコーナーでは、八虎が生まれて初めて没入した青い渋谷の世界を映像で体感することができます。
描くのは好き、見るのは苦手/名画の買い付けごっこ体験
絵画の見方がわからない八虎に、友人の橋田が提案したのが「名画買い付けごっこ」です。このコーナーでは、壁にかけられた美術史にその名を刻む5つの名画を見て、「自分だったらどの作品を買うか」を選ぶことができます。

実は私も、昔から美術展では同じことをします。といっても、私の場合は「自分だったらどれを買い付けるか?」ではなく、「自分だったらどれを家に飾るか?」という視点で選びます。大きすぎるものはダメ、かといって目につかないくらい小さかったり、さりげないものもつまらない。一緒に生活するので、あまりドギツいモチーフも難しい……そんなことを考えながら、その展示室の中から1枚選ぶならどれかにするかを考えるのです。自分の家(実際に住んでいる家でも、理想とする家でもOK)の各部屋を思い浮かべながら、壁に絵をかけたところを想像していくのはなかなか楽しいので、機会があればやってみてください。

このコーナーで息子が選んだのはゴッホ作『ローヌ川の星月夜』でした。一方で、私が選んだのはクリムト作『ケシ畑』です。「綺麗だったから一目でこれに決めた」という息子。5つの絵画の個性がまったく違うことに驚いていたようでした。なお、私が『ケシ畑』を選んだのは、色彩の美しさと、手前に迫ってくると同時に奥までずっと続いているような不思議な感覚を覚えたからです。

絵を選んでから左に曲がると、今度は5つの名画についての登場キャラクターたちによる解説パネルが登場します。歴史的な視点から技法にいたるまで、絵画を鑑賞する切り口は沢山あるのだということがよくわかり、これからアートに触れるときに大いに参考になるコーナーとなっています。解説の後に展示されているのは、作中で八虎が美術館で出会ったドガ作『ダンスのレッスン』。作品の両脇には無数のポストイットが貼られていて、来場者たちが作品に何を感じたかが書かれていました。

ドガ作『ダンスのレッスン』を鑑賞する息子。もちろんこの後で感想を書いたポストイットを貼っていました。

100号への挑戦
藝大受験を目前に行き詰っていた八虎は、最初に魅せられた森先輩の天使の絵と同じ100号というビッグサイズの絵画に挑戦することにします。この章では、「縁」をテーマにした改心の『縁の絵』を実際に見ることができます。目の前に立つと飲み込まれてしまいそうな迫力に、しばし呆然としてしまいました。
キャラ大石膏室
デッサンに欠かせないのが石膏像。美大入試でも定番の課題である石膏像のデッサンは、『ブルーピリオド』でもインパクトのあるエピソードとして登場します。このコーナーでは、有名石膏像をモチーフにした登場キャラクターたちの石膏像が展示されています。
お気に入りのキャラクターの石膏像を探すのはもちろん、モチーフとなった作品を想像するのも楽しいですね。それぞれのキャラ石膏像についての解説パネルもあるので、答え合わせもできます。
ブルーピリオドウォール
作中で八虎や仲間たちが描いた作品は、現役のアーティストや美大生によるものです。このコーナーではそれらが多数展示されています。息子とふたりで「どの作品が好き?」と聞き合いながらじっくり鑑賞しました。

作中の各シーンを思い出しながら楽しめます。

息子が一番好きだったのは、この作品だそう。

1次試験「自画像」
いよいよ迎えた藝大の入学試験。課題は自画像でした。鏡が割れてしまうというハプニングを乗り越えて八虎が作品を完成させるという展開が印象的なこのシーン。八虎のものだけではなく、作中にも登場していない各キャラクターたちが描いた自画像が展示されています。

割れた鏡と『八虎の自画像』

2次試験「ヌード」
無事に1次試験を突破した八虎が臨んだ課題がヌードモデル。裸の状態を「情けなくて頼りないありのままの自分」と解釈した八虎と、世田介の作品が展示されています。

八虎が描いたヌードと、関連するスケッチ

原作のシーンの数々が透明スクリーンや壁に描かれているコーナーを抜けると……。

合格発表
藝大合格発表のシーンで掲示された合格者番号が貼りだされています。八虎の受験番号は52番。息子に合格発表の疑似体験をしてもらおうとしましたが、中学受験の経験もない中学1年生にはまだちょっとピンとこなかったようです。私は自分の大学の合格発表の日を思い出して、あの日のドキドキを懐かしみました。
山口つばさの部屋
『ブルーピリオド』の作者である山口つばさ自身についてのコーナーが続きます。幼少期から美大を目指して藝大に入り、漫画家として成功するまでの軌跡が時系列に沿って展示されています。インタビュー映像もあり、息子は興味津々!

子どもの頃に描いた作品。『海の生き物たち』紙にクレヨン、水彩

作業机の再現も!そこに作者がいるような気配がするから不思議です。

映画『ブルーピリオド』の作り方
今夏(8月9日)に実写映画として公開が予定されている映画『ブルーピリオド』の劇中で登場する絵画が展示されたコーナーです。キャストたちは半年以上も絵画練習を行ってから撮影に臨んだのだそう。各キャストが描いた実際の作品も展示されているのですが、絵画を学んだばかりとは思えないほど巧みかつ個性的な作品の数々に、私も息子もビックリでした!特に、主演の眞栄田郷敦さんの作品はとても素人とは思えない見事な出来栄えで、時間をかけてじっくりと眺めてしまいました。衣裳の展示などもあり、見ごたえたっぷりです。

実写映画『ブルーピリオド』主要キャストたち

衣裳も展示されています

八虎役の眞栄田郷敦さんの作品。高クオリティでビックリ!!

キービジュアルコラージュ
『ブルーピリオド』は、美大を目指す学生や美大生を描いています。このコーナーでは、原作単行本1~6巻の表紙を、全国の美大受験予備校生の生徒34人に描き下ろしてもらった作品が展示されています。元は同じ絵でも、描く人によってこんなに印象が異なる作品になるのかというのがビビッドに感じられ、息子は時間をかけて熱心にそれぞれの作品に見入っていました。

時間をかけてじっくりと鑑賞する息子

描く人によって、こんなに印象の異なる絵になるとは!奥が深いです

オリジナルグッズ
お待ちかねのグッズ売り場です。公式ビジュアルブックはもちろん、ポストカードやクリアファイルといった定番グッズ、そば猪口や豆皿といった変わり種まで多種多様なグッズが所せましと並んでいます。私は公式ビジュアルブックを購入しました。

公式ビジュアルブックには、展示内容以外にも著名アーティストや批評家たちによるコラムや作者インタビュー、さらには書下ろし作品『王子様が死んだ日』が収録されていて、大充実の内容になっています。帰宅してからじっくりと読みましたが、どのページも濃密で読みごたえがありました。本展覧会を訪れたら絶対にゲットしていただきたい一冊です!

様々な種類のグッズが並んでいます

オリジナルネームステッカーづくりに挑戦
出口の外にあった『ブルーピリオド』オリジナルネームステッカーマシンにくぎ付けになった息子。おねだりされてしまってはダメとはいえません。デザインを選んで、自分の名前を入力。かっこいいステッカーに大満足の様子でした。

真剣!!

また、会場の向かい側にあるスタンドでは『ブルーピリオド』オリジナルメニューも提供していました。パッケージにキャラクターがプリントされたカラフルなポップコーンやドリンクなどがあるので、ぜひ立ち寄ってみてください。
密度の濃い展示に大満足の息子。GW直前に入部するクラブを決めたのですが、「決める前にここに来ていたら美術部にしたのに」と悔やんでいました。『ブルーピリオド』の世界を堪能できるだけでなく、「アートとは何か?」「どうやってアートを楽しめばいいのか?」という問いを一緒に紐解いていける、奥行きのある展示内容は息子の心を大きく動かしたようです。もともと絵に興味がある人はもちろん、今まで美術に触れてこなかった人もきっと本展覧会を見たら絵を描きたくなってしまうはず。原作を読んでから訪れるもよし、訪れてから原作を読むもよし。あなたの世界を広げてくれるに違いない『ブルーピリオド展 in 大阪 ~アートって、才能か?~』、心からおススメします!

取材・文=八巻綾 
テレビ局で舞台・展覧会などのイベントプロデューサーとして勤務した後、関西に移住。映画・演劇ライター。
『ブルーピリオド展 in 大阪 ~アートって、才能か?~』
【日程】2024年4月12日(金)~6月30日(日)の金・土日祝
【開館時間】10:00~18:00(入場は17:30まで)
【会場】大阪南港ATCギャラリー
詳しくは☞https://www.ktv.jp/event/blueperiod/
©️山口つばさ/講談社/ブルーピリオド展製作委員会
miyoka
1