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演出がまるで“韓国映画”、事故物件の「ロンダリング」とは

2025.07.07

演出がまるで“韓国映画”、事故物件の「ロンダリング」とは

藤原丈一郎(なにわ男子)主演『ロンダリング』1話レビュー

なにわ男子の、藤原丈一郎さんが地上波連続ドラマ初主演を務める社会派ミステリー『ロンダリング』の第1話が3日深夜、放送されました。

同作の主人公は、藤原さんが演じる売れない役者の緋山鋭介。彼は、「死者の声が聞こえる」という特殊能力を持っています。ただ、声が聞こえるだけで、幽霊とコミュニケーションをとったり、その姿が見えたりはしません。お金がないので、ワケありの安い物件に飛び付いては特殊能力のせいで死者の声に悩まされ、そのたびに転居する「引っ越し貧乏」に陥っていました。

そんな能力に目をつけたのが、大谷亮平さんが演じるアマミ不動産の天海吾郎社長。天海社長は、いわゆる「事故物件」に緋山を一定期間住まわせ、その次の住人が問題なく住めるようにする実績作りの協力を依頼します。

『ロンダリング』1話
緋山鋭介(藤原丈一郎)

どういうことかと言うと、第1話でも天海社長の口から説明されていますが、ワケあり物件の場合、不動産会社は内容によってはそれを告知しなければならない決まりがあります。天海社長は、実際はなにもなかったとしても、部屋を借りた人たちは「ワケあり物件だから心霊現象が起きている」と暗示にかかっている場合があったり、借主がなかなか見つからなかったりすると指摘。

そこで一旦、緋山に住んでもらって問題がない物件だとアピールし、次の住人に安心して借りてもらうようにしたいのだそう。さらに、もし緋山が住んでいる期間、心霊現象などのトラブルが起きたとしても、特殊能力があるので逃げることができるのではないかと天海社長はにらんでいるのです。

かつてそういう役割は、不動産業界では「リリーバー」と呼ばれました。バイトを雇って一時的に住まわせれば、ワケあり物件であることの告知は有耶無耶にできました。これが、ドラマのタイトルの由来となった「不動産ロンダリング」です。現在はガイドラインが制定され、心理的瑕疵(かし)の内容によっては「リリーバー」を間に何人挟んでも告知義務が生じます。

『ロンダリング』はこういった不動産業界の裏事情を絡めながら、緋山をはじめとする若者らの成長と現代社会の問題点が描かれる物語です。

『ロンダリング』1話
天海吾郎(大谷亮平)

「初めて自分の力が役に立った」という緋山の喜び

今回の第1話のレビューでは、3つの興味深いポイントを挙げたいと思います。

1つ目は、緋山の心情の変化です。前述したように彼は、死者の声が聞こえるせいで若いうちから人生につまずきを覚えています。おそらく小さい頃から毎日のようにあちこちからなんらかの声が入ってきて、物事をスムーズに進めることができなかったのでしょう。

誰も持ち合わせていない能力は、仕事や社会活動に生かせる可能性を秘めています。「死者の声が聞こえるだけ」とは言え、発想次第ではビジネスなどにつなげられるはず。ただ緋山は特殊な能力と向き合えず、現実から逃げてばかりでした。精神的にも、生活面でもビジネスに生かす余裕はなかったのでしょう。その点で天海社長の登場は、緋山にとって人生の転機になったのではないでしょうか。

第1話では、かつて女性が自ら命を絶ったとされる部屋の真実を緋山が明らかにしていきます。緋山は「初めて自分の力が人の役に立った」とかみしめます。

人間誰しもいくつかのコンプレックスを抱えているはず。そんな自分が、嫌で、嫌で、仕方がないときもあるでしょう。でも、きれい事に聞こえるでしょうが筆者は無意味な人なんていないと思っています。自分のいいところも、そうではないところも、発想次第ではなにかに役立つ。自分がそれに気付いていないだけで、別の誰かから見たらそれが大きな武器になることもある。それをどうしていくかは、最終的に自分次第です。この第1話は、あらためて「自分」というものに向き合うきっかけを私たちに与える内容だと感じました。

『ロンダリング』1話
緋山鋭介(藤原丈一郎)、P.J.(橋本涼)

韓国映画の名作を彷彿(ほうふつ)とさせる追走劇

2つ目のポイントは俳優たちの運動量とそれを伝える撮影・編集です。

基本的には室内の場面が多いのですが、それでも「ここぞ」というときのアクションシーンはお見事でした。第1話では、女性が命を絶ったとされる部屋の重要参考人を緋山が追いかけるところに興奮しました。とにかく、走る、走る! 入り組んだ路地裏などを駆け回ります。俳優も、スタッフも、かなりの運動量が求められたのではないでしょうか。

それはまるで、元刑事が連続猟奇殺人犯をひたすら追いかけるハードな追走劇『チェイサー』(2008年)を連想させました。『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のアカデミー賞監督であるポン・ジュノの出世作『殺人の追憶』(2003年)以降の名作韓国映画には、追いかける、逃げる、という描写で鑑賞者の足もパンパンになる気分にさせるものが多いのですが、『ロンダリング』第1話はそれらを彷彿とさせました。

またカメラも緋山らの激しい動きを臨場感たっぷりに映し出し、「そんな狭い場所、どうやって撮ったんだ」と驚くような撮影まで行っています。そして目まぐるしい編集は、アクションシーンをよりスピーディーに、そしてダイナミックに見せています。これらの映像演出・技術が、視聴者のテンションを上げていったと言えるでしょう。

『ロンダリング』1話
緋山鋭介(藤原丈一郎)、P.J.(橋本涼)

演出&チーフプロデューサー・木村淳さんが掲げるテーマ「居場所」

最後のポイントは、同作の演出やチーフプロデューサーも担当されている木村淳さんらしさが『ロンダリング』に詰まっていること。木村さんの過去作では、たとえば演出の舞台『はい!丸尾不動産です。』シリーズや舞台『尼崎ストロベリー』シリーズでは「そこに住む人たちの様子」が描かれ、ドラマ『未恋〜かくれぼっちたち〜』(2025年)ではどこでどんな風に働き、暮らし、そして自分らしさを見つけていくのかが映し出されていました。

そのように木村さんの作品は「居場所」がテーマになっているように思えるのです。今回の『ロンダリング』はまさにそういった木村さんの意識が、若者たちを取り巻く現実社会の問題点、そして古家和尚さんによるエンタテインメント性にあふれた脚本と絶妙に融合している気がしました。

これらの3つのポイントがこれからどのように展開していくのか、とても楽しみです。

『ロンダリング』1話
蒼沢夏凜(菅井友香)

文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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