自分自身の気持ちと向き合うことから逃げている主人公らの変化を描くドラマ『未恋〜かくれぼっちたち〜』(全10話)。漫画編集者・高坂健斗(伊藤健太郎)、同じ出版社に勤める派遣社員・鈴木みなみ(愛希れいか)、アイドル漫画家で健斗の恋人・深田ゆず(弓木奈於)たちが、仕事、恋愛、夢と向き合う様子をつづる同作。
そんな『未恋』の第1話(2025年1月9日深夜放送)から登場している劇中キャラクターが、ちりがみくんです。ちりがみくんは、ゆずが漫画雑誌「コミックブーン」に連載している大ヒット作のメインキャラクター。その名前の通り、ちり紙のような四角い見た目をしていて、ゆずが思い悩むときなどに出てきます。特徴は、やさしい言葉をかけたり、毒舌を口にしたり、二面性があるところです。
そんなちりがみくんを作画したのが、関西テレビ放送のコンテンツビジネス局東京コンテンツ事業部に在籍している岡﨑優さんです。岡﨑さんの部署の主な業務は、関西テレビが制作したコンテンツをグッズ化、ビデオグラム化などし、二次利用による利益を生み出すこと。『未恋』でも、プロデューサーという肩書きですが、現場ではなくビジネス面をとりまとめる役割となっています。
小さい頃から漫画好き、出版社への持ち込み経験も
そんな岡﨑さんには「漫画家志望」という、もう一つの顔があります。大学時代から漫画を描いていて、出版社への持ち込みをやっていたそう。
岡﨑さんは「小さい頃から漫画が好き。小学生のときは学内新聞に4コマ漫画を描いていました。ですので、藤本タツキ先生の『ルックバック』(2021年/集英社)に登場する少女たちにはすごく共感がありました。『週刊少年ジャンプ』の作品の大ファンで、『ONE PIECE』、『NARUTO―ナルト―』、『BLEACH』、『HUNTER×HUNTER』などが好きで」とうれしそうに話します。
そんなおり、『未恋』のチーフプロデューサーで演出なども手掛ける木村淳さんから「次にやるドラマは漫画の話なんだ」と企画を見せてもらったのだそう。その話に興味を持った岡﨑さんは「特に頼まれてもいなかったけど、その企画書から発想を膨らませて、健斗とゆずが部屋で並んでいる光景のイラストを描いたんです。そうしたら木村さんから『もし良かったら一緒に仕事をしませんか』とお声がけいただいて」とドラマに携わることに。
そして任されたのが、ちりがみくんの制作。岡﨑さんは「アイドル漫画家のゆずが描くようなキャラクターってどんなものだろう、と関係者のみんなと話し合いました。『ちりがみくん』というネーミングはすでにあったので、それらを参考にゼロから自分が造形を考えていきました。意識したのは、誰でも描くことができて、フォルムだけでどんなキャラクターなのか分かる見た目です。ちなみにゆずが書いている漫画の正式タイトルは『ふきとれ! ちりがみくん』なんです。涙を流している人をみかけたら自分の身を使ってそれをふきとる。そのかわり、自分がしわしわになっちゃうんです」とキャラクター解説をまじえながら、経緯を説明します。
ドラマが放送されると、劇中でちりがみくんも随所に姿を現すように。自分が作ったキャラクターを見て「ありがたい、としみじみ思いました。家族、友だちがそれを見てくれていると考えると、こういう機会を与えてもらえたのは本当に幸運です」と喜びを口にします。
夢は「自分が描いた漫画のテレビアニメ化を企画すること」
また、『未恋』にはゆずだけではなく、新人漫画家の本島りん(外原寧々)、漫画家の夢が捨てきれない漫画編集者・星たける(鈴木大河(IMP.))らも出てきます。岡﨑さんは「星たけるはまさに自分の境遇とよく似ている気がします。大学時代に漫画を描いていて、漫画家になりたかったけどそう上手くはいかず、そんなに遠くない世界で働くことになりました。でも自分の場合は『漫画家になる夢が捨てきれない』というほどではありません。自分の作品にものすごい自信があったらすぐに会社を辞めて漫画家の道を選びますが、そうではない自覚もありますし(笑)。わりと気持ちのバランスをとりながら、今の仕事に打ち込むことができています」と言います。
そう話す理由は、現職で漫画原作のアニメーションの仕事など携われているから。岡﨑さんは「関西の他局はそれぞれ漫画原作のアニメ作品の制作・放送を長く担当されています。でもカンテレ(関西テレビ)はまだその歴史が浅いです。だからこそ、漫画やアニメが好きな自分の特性を生かしたり、意見を取り入れてもらえたりすることができます。『こういう企画はどうでしょうか』『この作品はウチでやるべきだと思います』と知識や経験をもとに立案することができるんです。漫画を描いていたということも、説得力になっているように感じます」と、関西テレビ内における“漫画・アニメ開拓”を進めていると話します。
もちろん、漫画を描くこともやめていません。仕事のかたわらで描いているため、一つの作品を仕上げるのに半年ほどかかるようですが、「描いているときが一番楽しいです」と漫画家としての顔をチラリとのぞかせます。そんな岡﨑さんが今、抱いているのは「自分が描いた漫画のテレビアニメ化を企画すること。そんなこと、果たしてできるのかどうか分かりませんが」という前代未聞の夢。
「テレビ局員兼アマチュア漫画家」という異色のキャリアを積み上げる岡﨑さんの漫画が、いつか日の目を見る日がくるかもしれません。
インタビュー・文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
カンテレIDにログインまたは新規登録して
コメントに参加しよう