『秘密~THE TOP SECRET~』第9話 レビュー(Xの反応あり)
いや〜つらすぎた……まっすぐで純真な愛されキャラの青木(中島裕翔)が、ここまで苦しめられるなんて……。薄暗い部屋の中で、姪(めい)の舞を抱きながらぼうぜんと立ち尽くす青木、見ていて本当に胸が痛くなりました。
冒頭から、青木の胸に宿るかすかな闇が見え隠れする演出が光っていました。雪子(門脇麦)にプロポーズしていたのは現実ではなく、過去に見た鈴木(中島裕翔 一人二役)の脳の映像から来る記憶だったのですね。
第3話の終盤で、ベンチで横になる薪を見つめながら、青木が心の中で呟いていた「人の脳を見ただけで、心まで移りはしない。死んだ人の代わりなど、誰もなれない」というセリフ、皆さんは覚えているでしょうか?「鈴木さんの脳を見たから。だから、雪子先生を?」と混乱する、今回の青木のセリフと、ずいぶん対照的だったなと。薪(板垣李光人)や雪子と長い時間を共に過ごし、より深い関係になっていったことで、青木の中で心境の変化があったのかもしれませんね。人を愛するという、とても個人的な感情すら、自分のものなのか分からなくなるって、ものすごく苦しいことだと思います。
薪や雪子、自分を見つめる人の心には、いつも鈴木の存在があった。名前を間違えて呼ばれたり、自分を見ているはずなのに、異なる誰かの面影を探していたり。そんな体験を重ねているうちに、青木自身も自分と鈴木の区別がつかなくなってきているのかもしれません。少なくともきっと薪は、もう青木と鈴木を重ねて見てはいないんじゃないかと思うのですが……切ないです。
かつては鈴木の婚約者で、現在は青木の恋人となった雪子は、未だ鈴木の面影を見ていそうな気がします。眼鏡を外した青木を見つめてしばらく言葉を失ったり、「青木くんらしくて私は好きよ」とヘアスタイルを褒めたり。心の整理がついていないからこそ、なるべく青木の容姿が鈴木に似ないように、誘導したのかなと。これもまた切ないですよねぇ……。薪や雪子にとって、鈴木の存在がどれほど大きかったか、ていねいに描かれていました。(それにしても、雪子の回想の中の鈴木と青木、やはり同じ俳優が演じているとは思えぬほどで、中島裕翔さんの演じ分けのすごさを実感しました!)
今回、第九には物騒な雰囲気が漂っていました。サーバーへのハッキング履歴、薪の車に仕掛けられた爆弾、そして貝沼事件の捜査にあたっていた捜査官・瀧本(眞島秀和)の第九復帰。3年間、入院していたと思われた瀧本は、一体この間何をしていたのでしょうか?握手を求めはするものの、薪に対しても見るからに敵意むき出しですし。果たして、瀧本の思惑は……?貝沼(國村隼)の存在を想起させる人物の登場に、薪の心が狂わされないか、この先とても心配です。
ドラマの後半は、とにかく見ているのが苦しい展開でした。恋人を家族に紹介するという、幸せなひとときを過ごした後の、想像を絶する悲劇。部屋の中に生々しく残された血痕に、シャワーの流水音と幼子の泣き声。外からは、パトカーの真っ赤なランプの明かりがチラチラ差し込んでくる描写も、事件の衝撃と重々しさを物語っていました。どんな難事件でも、「誰一人死なせたくない」と自分の命を投げ出してまで人のために行動してきた青木にとって、何よりもつらい出来事だったのではないかと思います。きっと強く深く、自分を責めてしまうことでしょう。
青木の姉夫婦の自宅でのシーンは、中島裕翔さんのセンセーショナルな演技のすごみを十分に堪能できる演出だったと感じます。ゆがむ表情に震える声、細かい所作。全身全霊で、青木の動揺と恐怖、そのすべてが表現されていました。いつも薪を支えていた青木の、すがるような「薪さん、切らないでください」というセリフも、あまりに痛ましかった。「この世界、変なんです。殺人鬼のMRI映像に入ってしまったみたいに、家中血だらけで、みんな死んでて……」「薪さんだけが……」という言葉にも、現実を受け入れまいとする青木の切実な思いが表れていましたね。
心が重くなるストーリーでしたが、ところどころクスッと笑えるシーンや、心があたたまるシーンもあってホッとしましたね。SPのしつこい警護にイライラし、曽我(濱津隆之)の携帯に来た着信にブチギレて「うるさい!!切っとけ!!」と怒鳴る薪。その直後、薪に大声で指示を受け、「はい!!」と元気よく返事をする岡部(高橋努)。テンポもよく、かわいらしさの連続で癒されました(笑)。
Xでは、「倉辻家でのシーン、青木が見ている絶望の世界を一緒に共有しているよう」「1話に戻りたい」と、青木の直面した深い悲しみに思い馳せる声が多く上がっていました。また、「薪さんのいる世界はまだ狂ってないかもしれないが、青木が狂ったら間違いなく一番狂ってしまうのは薪室長」と、青木を思う薪に対する影響への懸念を示す視聴者の方もみられました。
次回の放送を迎えるまで、こんなに気が重いのは、初めてかもしれません。どうぞ、これからの青木に救いがありますように。怪しすぎる瀧本の目的も、まだまだ謎だらけ。来週も心して、第九の命運を見守りましょう……!
文・神田 佳恵
フリーライター 兼 一児の母。
取材・インタビュー、エンタメ記事、エッセイなど、複数媒体・分野で執筆中。
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