見てみよか

五百城茉央、大人ぶる表情と困惑する幼さを見事に表現

2025.05.09

五百城茉央、大人ぶる表情と困惑する幼さを見事に表現

『MADDER その事件、ワタシが犯人です』5話レビュー

4月にスタートしたドラマ『MADDER(マダー)その事件、ワタシが犯人です』。
その第5話が8日深夜に放送されました。第4話では、これまで学内で小さな事件を起こしてきた天才高校生・仲野茜(五百城茉央)に対し、猟奇殺人事件の犯人だと思われる青年・黒川悠(山村隆太)が「君はまだ引き返せるところにいる。君がやっているのは、ままごとだよ」と指摘。そして茜は、黒川がいかに「引き返せない場所」にいるのか知ることに。

そして今回の第5話は、とてもショッキングな事件で幕が開けます。茜の同級生で、複数の言語を話すペタリンガルでもある財閥の娘・篠崎麻友(吉名莉瑠)が、学校の屋上で死んでいるのが発見されるのです。左腕が切り落とされているようで、世間を震撼させた猟奇殺人事件の手口と同様。茜は、黒川の仕業ではないかと考えます。それにしてもどうして篠崎はそんな目に遭わなければならなかったのか。茜は、黒川の思惑が理解できず、困惑することになります。

『MADDER その事件、ワタシが犯人です』

『MADDER』の視聴者すら見透かしているような茜

そんな第5話では、これまでクールな印象があった茜の、焦り、いらだちなどが見られました。

茜は、クラスメイトの宮内大翔(山下永玖)、江藤新(樋口幸平)、依原湊(水野響心)、北條凛(つぐみ)から「篠崎を殺したのではないか」と問い詰められます。ただ「どうして(今このタイミングで)私が犯人?」とその理由を尋ねると、宮内、依原は説得力に欠けた考えを口にします。茜は、自分が密かに関係してきたこれまでの学内事件とは打って変わり、推理が急に雑になったと言います。

茜はさらに、宮内、依原らに対し「今まで(の学内事件)は他人事(ひとごと)だったもんね」「それが普通だと思う。考察って心に余裕がないと楽しめない、ぜいたくな遊びだから」とズバリと言って、たじろがせます。

でも茜のこの言葉は、まったくもってその通りですよね。今、映画、ドラマなどは視聴者が考察をしながら鑑賞し、そしてSNSなどで考えを投稿するのが流行しています。この『MADDER』も、視聴者のみなさんがいろんな考察や想像を膨らませて鑑賞しているはず。茜はそうやって、『MADDER』を見ている私たちのことすら見透かしているようであり、ちょっとドキッとさせられました。すごく冷静ですし、その言葉通り、茜に「余裕」があるから、同級生のこと、そして私たち視聴者のことを「考察」しているのだと思います。

なにより、殺人事件と直接的に関係していないものの、犯人と思しき黒川と接点をもちながらもそれを微塵もうかがわせず、冷静に対処するところはいかにも茜らしいですよね。ちなみにこれは筆者のどうでもいい感想なのですが、屋上で同級生たちが茜を「あなたが犯人だ」と問い詰める様子はどこか、推理小説の巨匠・松本清張さんの『ゼロの焦点』(1959年)や、船越英一郎さんのサスペンスドラマのエンディングなどに欠かせない崖のシチュエーションを彷彿とさせる演出でした容疑者が崖で追い詰められて自供するのが推理モノの定番。ただ、茜の場合はそういう推理モノのようにはいきませんでしたが、なんだかちょっと、昭和ドラマのモティーフに映りました。

第5話で五百城茉央さんが一気に開眼!

そんな茜は、参考人として警察に連れて行かれてアリバイなどの取り調べを受けます。ただそこでも、持ち前の賢さからくる機転と論理で刑事の梶谷美和(武田梨奈)を翻弄。黒川の存在については一切話さず、法律を突きつけて取調室から去ります。

ここまではいつも通りのクールで頭がいい茜です。ところがその足で黒川が勤める電気屋へ行き、店の中に入ると“茜像”が崩れます。表情、喋り方、話す内容、すべてに弱さがにじむのです。そこに「天才・仲野茜」の姿はなく、あるのは10代らしい脆さ。いや、10代どころかもっと幼いかもしれません。第4話で黒川から「君がやっているのは、ままごとだよ」と言われましたが、たしかに彼の前で、茜は圧倒的に子どもになってしまうのです。

さらに茜は、黒川がなぜ“こんなこと”をするのか、どうして自分は殺さないのか、すべてが「分からない」と言います。そして店を出て行こうとする黒川への“最後”の言葉として、「結局、何も分かりませんでした。教えてください」と教えを乞います。

学校では誰よりも勉強ができ、教師すらも凌駕する茜にとって「分からない」という感覚は、これまでなかったもの。だからこそ、焦り、いらだち、そしてなにより弱っているのです。第5話序盤で茜は同級生たちに「考察って心に余裕がないと楽しめない、ぜいたくな遊びだから」と言いますが、そっくりそのまま、自分に返ってきているみたいでした。

一方、そういう茜を見て「『MADDER』は青春ストーリーなんだな」と感じました。若者が、それまで知らなかった物事を体験したり、自分自身のことに気づいたりする。そしてなんらかの変化や成長を遂げる。青春を題材にした、映画、ドラマの根底にはそういった普遍的な物語が必ず流れています。それは『MADDER』にも当てはまり、角度は違えど、茜の青春を描いている風に思えました。

なにより第5話では、茜役の五百城茉央さんの演技がとても良いです。警察の取り調べを終えるまでの“強さ”と、電気店に入って黒川を前にした瞬間の“弱さ”の変化。これがナチュラルにガラッと変わる。茜の揺れ動く気持ちを丁寧に体現されていて、なんだかこの第5話で五百城さんが一気に開眼したように感じました。第6話以降もその演技に期待大です。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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