藤原丈一郎(なにわ男子)主演『ロンダリング』4話レビュー
数々のワケあり物件を題材とするドラマ『
ロンダリング』(カンテレ/毎週木曜深夜0時15分)の第4話が24日深夜、放送されたました。
第3話では、アマミ不動産・大阪支社に「あの部屋に住んでから変なことばっかり起きる」と怒鳴り込んできたキャバクラ嬢の獏良あゆ(春名真衣)の自宅「メゾン梅小水ハイツ304号室」を、同不動産で働く緋山鋭介(ひやまえいすけ/藤原丈一郎)がロンダリング。事故物件としての履歴が残っていないその部屋ですが、緋山の、死者の声が聞こえる特殊能力が発動。「嫌だ嫌だ」「ツライツライ」の声と共に、「かわいいね、レイラちゃん。お小遣いあげるから」という男性の声、さらに「私はレイラじゃない」「迎えに来て」との言葉などを耳にします。
そして第4話では、「メゾン梅小水ハイツ304号室」で聞いた「辛い」「私はレイラじゃない」「迎えに来て」という霊の悲痛な声の真相を緋山が調査。さらにそこに、半グレ集団のリーダーでガールズバーなども経営するP.J.(橋本涼)も関わってくることに。また、大阪滞在中の自宅であるゴミ屋敷で聞こえてきた謎の女性の霊よる「私、ここ(「メゾン梅小水ハイツ304号室」)にいた」というメッセージのことも気になり始め…。
「売掛金」「色恋」…昨今の社会的な問題も絡めた物語
第4話は、昨今のホストクラブなどで問題となっている「売掛金」「色恋」のトラブルが描かれており、その点で社会的にもかなり踏み込んだ内容になっていました。
まだ同回をご覧になっていない方もいらっしゃると思うので、詳しい内容は伏せますが、時事的な問題とあって、それに絡んだ描写が出てくる場面ではいろいろ胸がざわつきます。『ロンダリング』の制作チームのみなさんの「娯楽作品であっても、観賞者になにかを持ち帰ってほしい」という意識が感じられました。
重要人物としてそこに関係しているのが、あらすじで記述したレイラという女性の存在です。彼女はワケあってその部屋で“望まない仕事”を強いられることになります。孤独な生活を送っていて心の寄りどころがなかった彼女にとって、“ある場所”で“ある人物”と一緒にいる時間は唯一、気持ちが軽く感じられたのではないでしょうか。ただ、だからこそつけ込まれる弱さも持っていて、その後の悲しい運命へとつながっていきます。
もしもレイラに、頼れる“誰か”がいたら運命が変わっていたかもしれません。一方、これは筆者自身もそうなのですが、頼れる人なんてそう簡単に見つけたり、作ったりできませんよね? 気づかないうちに人と接点を持たない日常が当たり前になってしまいます。そうなると、SOSを発していても誰も気づいてくれません。そんな人は実は、世の中にたくさんいるのではないでしょうか。
自分の存在に気づいて欲しい人たちの物語
ここまで彼女のことを「レイラ」と呼んでいましたが、第4話を最後まで鑑賞するとその名前の真相も明かされます。そして「私はレイラじゃない」という声がとても悲痛に聞こえます。彼女は自分の「本当の名前」を呼んで欲しかった。つまりそれは、誰かに自分の存在を認めて欲しかったのだと捉えることができます。
レイラはこの『ロンダリング』の一つの象徴的な存在だと思えました。どういうことかと言うと、同作は、自分の存在に気づいて欲しい人たちの物語だと思えるからです。
たとえば緋山は普段、売れない役者をやっています。いつか役者として売れたい。そのために、少しでも誰かに自分の存在に気づいて欲しい。そのように願っている青年です。そんな彼は、霊の声を聞くことができます。しかもちょっとやそっと聞こえるどころが、頻繁になんらかの声が届いてくるのです。その様子というのも、私たちが生きているこの日常の中には、メッセージを必死に発していても誰にも気づいてもらえない人たちの存在に置き換えられる気がします。切なる叫びは世の中にあふれているのです。
緋山だけではなく、アマミ不動産・大阪支社に勤める蒼沢夏凜(菅井友香)もそうです。彼女も、霊の存在を黒いもやとして感じることができます。その黒いもやもまた、自分の存在に気づいて欲しくても認識してもらえない人たちに重ねることができるのです。
よく言われることですが、人にとって一番怖いのは、自分の存在が忘れられてしまうこと。レイラの場合、親しい人も身よりもなく、さらに自分の「本当の名前」すら誰にも呼んでもらえなくなっていた状況は、辛さや悲しさだけではなく、恐怖もあったのではないでしょうか。
緋山は4話終盤でこのように話します。「聞こえる声があって、それに答えてあげられたら、誰かの救いになるんとちゃういますかね。理屈なんか分からへんでも」と。彼のその言葉を私たちも胸にとめておくべきでしょう。SNSなどで「目立つ声」ばかりがピックアップされる世の中ですが、そこには「埋もれゆく声」があることも分かっておきたいと思いました。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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