モンスターペアレントに女子高生が「決別宣言」 INI・許豊凡の稲垣吾郎に怯まぬ好演が光る『ぼくほし』第8話レビュー

2025.09.01

モンスターペアレントに女子高生が「決別宣言」 INI・許豊凡の稲垣吾郎に怯まぬ好演が光る『ぼくほし』第8話レビュー
磯村勇斗さん主演の月10ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)の第8話が9月1日に放送されました。

本作は、男子校と女子校が合併し、共学となった私立濱ソラリス高校に「スクールロイヤー」として派遣された弁護士・白鳥健治(磯村勇斗)が、法の視点から校内の問題や生徒の心に向き合うドラマです。
『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 北原かえで(中野有紗) 

『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 北原かえで(中野有紗) 

第8話で、濱ソラリス高校は文化祭シーズンに突入。
準備に奮闘する生徒たちの裏で、父親との関係に悩む3年葵組(スーパー特進コース)の北原かえで(中野有紗)が抱える苦悩が描かれました。

演じる中野有紗さんは、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネート、第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で主演の役所広司さんが最優秀男優賞を受賞した「PERFECT DAYS」に役所広司さんの姪(めい)役で出演。今後の活躍が期待される若手女優の1人です。

▶文化祭準備で見えた生徒たちの成長と“退職した教師の置き土産”

濱ソラリス高校では、合併後初の文化祭に向けて準備が始まりました。健治が顧問を務める天文部の催し物は「プラネタリウム」。

上映に向けて、天文部の部員と健治はお手製のプラネタリウム作りに励んでいます。

北原など前生徒会メンバーも現生徒会メンバーにアドバイスをしながら、「第1回 濱祭」に向けた準備に参加。
そこには、第6話で医学部合格を強要する父からの教育虐待に苦しめられていた前生徒会のメンバーである有島ルカ(栄莉弥)の姿もありました。
『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 白鳥健治(磯村勇斗)

『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 白鳥健治(磯村勇斗)

「先生、僕、今まで通り学校、来られることになりました」

文化祭に向けた準備を進める国語教師の幸田珠々(堀田真由)にこう伝えた有島。

父親により、有島は受験に必要な授業のある日以外は欠席するように命じられていました。これに反発していたのが、3年葵組元担任兼学年主任の巌谷光三郎(淵上泰史)でした。

第7話で巌谷は学校を去りましたが、辞める前に校長・井原久(尾美としのり)と健治に有島の父親への対策を助言していました。
それは、「医学部受験における学校生活の重要性」を説くこと。「行事を経験しておくことが医学部受験のメリットになる」と伝えれば、有島の父親を説得できると巌谷は考えていたようです。
『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 幸田珠々(堀田真由)

『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 幸田珠々(堀田真由)

巌谷の読み通り、有島は学校に来られるようになりました。第7話で巌谷が学校を去ることが決まった時、「有島のフォローはどうするのだろう……」と心配していましたが、取り越し苦労だったようです。

筆者が高校生の時は、担任の教師が「行事は勉強に支障ない程度にゆる〜く参加しておけばいい」とのスタンスでした。
「そんなものか」と真に受けた筆者は「何事もほどほどにこなしておけばいいや」と考えるクセがついてしまい、社会に出てから苦労しました。

熱意をもって行事に取り組む経験は、勉強と同じくらい大事だと痛感しています。生徒たちの生き生きとした表情を見ていると、高校時代に置いてきてしまった「活力」を取り戻している感覚になりました。

▶突如現れたモンスターペアレント 父の歪(ゆが)んだ愛情

文化祭の準備が進む裏で、事件が起きました。
北原の父親(神尾佑)が弁護士を伴い、突如「娘に会わせろ」と高校に乗り込んできたのです。
「会いたくない」と拒否する北原の気持ちを尊重した健治は北原の父親に対して「娘さんには会えない」ときっぱり。

北原の父親は不動産会社に勤務しつつ投資でもうけている、社会的には成功している人物です。
しかし、妻・かすみ(北原の母親/安藤裕子)に対する侮辱や尊厳を傷つける発言により、かすみ妻と娘2人(北原と妹・歩生/稲垣来泉)に家出され、一人ぼっちになってしまいました。

納得できずに、居場所が分かる娘(北原)に会おうと高校にやってきたのだと思いますが、態度と発言がモンスターペアレントのそれです。

今回、父親に対応したのは、巌谷から学年主任を引き継いだ山田美郷(平岩紙)でした。
本来であれば、巌谷が対応していたはずです。生活指導も担当する山田の負担が大きそうで、第7話までに見せていたユーモアも本話では見られませんでした。心配です。

▶理事長役の稲垣吾郎に全く怯まぬ INI・許豊凡の好演が光る

後日、北原と母親(かすみ)が2人で、健治の所属する久留島法律事務所を来訪。

母親から相談を受けた健治の上司である久留島かおる(市川実和子)は、北原の両親の離婚調停に向けて動き出しました。
第8話にして、久留島法律事務所と濱ソラリス高校が深く関わることになりました。これまで理事長の尾碕美佐雄(稲垣吾郎)が一度、事務所を訪問していますが、両者が正式に仕事として関わるのは初めてです。

個人的には、「ついにこの時が来たか!」と胸が熱くなりました。
『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 久留島かおる(市川実和子)

『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 久留島かおる(市川実和子)

母親から相談を受け、濱ソラリス高校へと向かった久留島法律事務所の面々。

理事長の尾碕に相対した健治の同僚・緒川萌(許豊凡・INI)が、裁判所の「北原に対する父親への接近禁止の仮処分命令」を告げるシーンでは、思わずにやけてしまいました。

尾碕の威圧感に対して一歩も怯(ひる)むことなく、法的な事実を突きつける緒川の姿に心をつかまれた人も多いのではないでしょうか。
緒川を演じる許豊凡(シュウ・フェンファン)さんは、グローバル・ボーイズ・グループ「INI」のメンバーとして2021年にデビュー。
本作が本格俳優デビューとは思えない、落ち着きと安定感を兼ね備えた演技が光ります。
健治の同僚弁護士・緒川萌を演じる許豊凡(INI)

健治の同僚弁護士・緒川萌を演じる許豊凡(INI)

▶18歳の誕生日、少女は大人になる。モラハラ父への痛快な「決別宣言」

文化祭当日、北原の父親は、またしても学校に乗り込み、「(娘に)会えないなら学校を辞めさせる」と詰め寄ります。

個人的には「これは立派な脅迫なのでは?」と思いましたが、どうなのでしょうか。しかし、誕生日を迎えて18歳になった北原は、親の同意がなくても在学契約を直接結ぶことができるようになっていました。

その事実を聞いてうろたえる父親に、北原は「決別宣言」をしました。
「母子家庭は転落人生の始まりだ」と言い切る父親に対して、北原は「それでも父とは別の道を行く」と言い切ります。「無理だ」と食い下がる父親に北原が告げた言葉。

「それが今の世界ではできないのだとしたら、いつか私がそういう世界を作りたい」
『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 尾碕美佐雄(稲垣吾郎)

『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 尾碕美佐雄(稲垣吾郎)

▶「大人のほうになること」への違和感 「私たちの世界は、どこかおかしい」

前出の北原と母親が健治の所属する久留島法律事務所を訪れたシーン。

母親が健治の上司・久留島に、夫から受けた苦しい記憶など娘には聞かせたくない相談を始めた際、健治と北原は席を外し、事務所近くのパンケーキ屋に向かいました。

パンケーキを食べながら、北原は健治に「大人のほうになること」への違和感を吐露。自分はまだ高校生であるにも関わらず、18歳になり法的には「大人」になってしまったことを「大人のほう」と表現したのでしょうか。
『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 北原かえで(中野有紗)

『僕達はまだその星の校則を知らない』第8話 北原かえで(中野有紗)

「大人のほうになること」への違和感を北原は、「何かが間違っているのに、そのまま電車で運ばれて行っているみたいな違和感」と言いました。

「私たちの世界は、どこかおかしい」

「大人になること」への違和感をここまで言語化できるなんて賢いなと思うと同時に、北原もまた健治と同じく「独特な感性の持ち主」なのかもしれないと感じました。

第1話の「制服裁判」の時に「校則の矛盾」を指摘していましたが、矛盾に気づいたのも独特な感性がゆえなのだと考えます。
こういう「おかしさ」に気づけるのは才能だと思いつつ、健治のような理解者がいないと生きづらいのではないかとの不安も生まれました。
しかし、父親への「決別宣言」を聞いて、漠然とですが「大丈夫だ」と思いました。北原の作りたい世界がどのようなものなのか、視聴者の視点では想像することしかできません。

筆者としては、「違和感に負けず、自分らしく生きられる世界」なのかなと受け取りました。北原のこの先の人生が、少しでも生きやすいものであることを願います。
取材・文:宅野美穂
都内在住のライター。主に、インタビュー記事を執筆。本とゲームと音楽が好き。
miyoka
0