「俺を殴れ」と言った鬼塚英吉(反町隆史)。ドラマ『GTO』第5話で高校生が背負っていた“立場”と最後に選んだ「アニキ」

「俺を殴れ」と言った鬼塚英吉(反町隆史)。ドラマ『GTO』第5話で高校生が背負っていた“立場”と最後に選んだ「アニキ」
ユニークな視点をまじえて現代社会が抱える問題を描いているドラマ『GTO』(毎週月曜 午後10:00~/カンテレ・フジテレビ系全国ネット)。その第5話が8月17日に放送されました。
第4話では、1年B組担任・鬼塚英吉(反町隆史)の評価を落とすため、生徒の鈴木百花(大島美優)がフェイク動画をネットに投稿して炎上させます。鬼塚はそれがフェイクであることを証明するために奔走する中で、百花が抱える家庭内の問題に気づきます。そして、副担任の柏原実央(生見愛瑠)や世界史教師の村山春樹(夙川アトム)と共に、百花の中にあった様々な葛藤やわだかまりを解いていきました。

百花の信頼を勝ち取り、また村山に教師としての自信を取り戻させた鬼塚ですが、第5話では、成績上位の生徒・田中航(及川桃利)から退学届を提出され、戸惑いを覚えます。航は「うちの学校にいても楽しくないし、時間の無駄」と退学理由を話しますが、その背景には、自分やきょうだいを育てるために働き詰めの母親の存在と厳しい経済状況がありました。
『GTO』第5話 反町隆史、及川桃利

『GTO』第5話 反町隆史、及川桃利

「俺を殴れ」鬼塚の荒療治の意味

第5話で注目したいテーマは“立場”です。私たちは普段から、様々な立場を考えながら行動や発言を行います。家庭、学校、職場など、置かれた環境によって求められる役割も異なり、ときにはその“立場”が自分の行動を縛ることもあります。
『GTO』第5話 及川桃利

『GTO』第5話 及川桃利

今回のキーパーソンである航はそうした自分の立場を考え、退学を選択しようとします。彼が悩みを抱えるのは、家庭内の経済状況です。父親は借金を残して家を出ていき、母親は足をケガしても仕事を休むことができないほどの状況。そうしたことから、小学校低学年の妹、中学生の弟の面倒を航が見ています。

妹からは「お兄ちゃん、一緒に(テレビを)見よう」と誘われ、勉強をせずにダラダラしている弟を注意すると「アニキ面すんなよ」と反発され、母親からは「お兄ちゃんの好きなふりかけ買っといたから」と声をかけられます。家庭内のやりとりを映し出したそれほど長くない同場面で、“お兄ちゃん”や“アニキ”という二通りの呼称が登場し、母親やきょうだいから見た“航の立場”が描かれています。
『GTO』第5話 反町隆史、生見愛瑠、及川桃利

『GTO』第5話 反町隆史、生見愛瑠、及川桃利

成績優秀で高いレベルの大学を狙える航ですが、家庭内での立場に振り回される彼にとっては、その学力や将来の可能性さえも自分を苦しめる要素になっているのではないでしょうか。なにかと大変な家庭環境の中で様々な役割を求められることで、可能性に満ちた将来を自ら閉ざそうとするのです。

鬼塚はそんな航と向き合います。そして終盤で鬼塚は、「自分を思いっきり殴ってこい」と航を挑発します。航は、殴ることへの抵抗や遠慮もあり、軽いパンチしか出すことができません。パンチを受け止める鬼塚は、「お前のパンチはやさしすぎんだよ」と言います。この場面では、一時でも航に自分の立場を忘れさせ、何かに思いっきりぶつかることで、これまで抑え込んできた感情を吐き出させようとする鬼塚の考えが浮かび上がります。

「何をすべきなのか分からない」大久保校長の立場とは?

鬼塚による荒療治が行われたこの場面で特に印象に残ったのが、それを見守っていた柏原の言葉です。柏原は、航に対し「あんたが一番いけないのは、大人を頼らないこと」「子どもが困ったとき、助けるために大人はいるの」「お母さんが一番望んでいるのは、家計を助けてもらうことなんかじゃない、あんたが本当にやりたいことを見つけて、それを応援することなんだから」と、大人の“立場”について語るのです。同時にその言葉は、高校1年生の航はまだまだ子どもの“立場”であることを、彼自身に自覚させるのです。
『GTO』第5話 及川桃利、反町隆史、生見愛瑠

『GTO』第5話 及川桃利、反町隆史、生見愛瑠

こうして鬼塚に心を開いた航は、自分の「あだ名」を口にします。この学校では「あだ名」での呼び合いが禁止されていますが、あえて自分が呼んでほしい名前をクラスメイトに宣言するのが、今シリーズの『GTO』の名物となっています。航が伝えたあだ名は“アニキ”。家庭内では、きょうだいの面倒を見ることを求められる“アニキ”でした。しかし最後に口にした“アニキ”は、誰かに押しつけられた立場ではなく、航自身が選んだ呼び名です。そこには、一歩成長を遂げた彼のたくましさが込められているように感じられます。

ちなみに第5話では、威厳があまりない校長・大久保安博(宇梶剛士)の立場についても触れられています。校長としてバシッと一言決めたいところで、いつも教頭・中丸浩司(近藤芳正)に遮られるなどし、「教頭であるこの男から、“校長は何もしなくても結構です”と言われ、自分が何をすべきなのか、いまだによく分からない」と自分の立場について密かに悩んでいます。
『GTO』第5話 反町隆史、近藤芳正、宇梶剛士

『GTO』第5話 反町隆史、近藤芳正、宇梶剛士

大久保は第5話の最後まで、人に伝えたいことを最後まで言い切れない面が見られます。ただ、ほかの教師とは異なる鬼塚の指導方針に心が揺さぶられているのは確か。なにより大久保は、中丸らとは異なる視点でこの学校の良さを見つめていました。彼自身もまた、少しずつ自分の役割を見つけ出していっているのではないでしょうか。
『GTO』第5話 宇梶剛士、反町隆史

『GTO』第5話 宇梶剛士、反町隆史

自分が置かれた“立場”とどう向き合い、そこでどんな役割を果たすのか。第5話は、子どもと大人の双方にそんな問いを投げかけるエピソードだったように思います。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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