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脚本家・竹田モモコ「ずらし」の妙味/舞台『他人』

2023.11.27

脚本家・竹田モモコ「ずらし」の妙味/舞台『他人』
竹田モモコという脚本家の名前をご存知ですか?
2022年に『他人』という作品で「日本の劇」戯曲賞最優秀賞を獲得した大阪在住の脚本家です。この賞は第一線で活躍する演出家たちが選考し、最優秀賞作品は必ず上演されることが約束されていて、『他人』はこの冬大阪と東京のニ都市で上演されます。
高知県土佐清水市出身の竹田さんは高校を卒業すると大阪に移り、ある日たまたま見たコントユニット・ラーメンズのDVDに刺激を受け、劇団に入り役者としての活動を始めます。それから10年。2018年に自身のユニット「ばぶれるりぐる」を旗揚げすると、出身地・土佐清水市で話される幡多(はた)弁を使った戯曲を発表し、2020年には関西演劇祭ベスト脚本賞や劇作家協会新人戯曲賞など次々と受賞。その後も幡多弁を用いた戯曲を発表し、上演を続けています。

南河内万歳一座の稽古場で実際にお目にかかった竹田さんは、どこか少女のような空気感をまとっているひと。自分や他人の弱さを受け入れて、普通のことが普通でないことに対する気持ち悪さを敏感に感じ取る力のあるひとだなという印象でした。
さて、戯曲を舞台化するには体力(財力)が必要で、個人ユニットや小さな劇団ではそう容易くはありません。しかしこの賞は「必ず上演される」というのが大きな特徴です。竹田さんは受賞の知らせを受けた時「よかった〜、これで上演できるって、正直ホッとした」と言います。
ありえない組み合わせの女同士のパジャマパーティが見たいと思って書いたという『他人』。演出は「日本の劇」戯曲賞の審査員を務める南河内万歳一座の内藤裕敬さんが担い、原日出子さんと大阪芸術大学出身の畑中咲菜さん、平松美紅さんが出演します。
―最初に本を読んだ時と今とでは印象に変化はありますか?
(原) 最初にこの本を読んだ時、芝居の面白さが上手に盛り込まれている、シーンの想像が出来る面白さがあると思いました。いざ稽古が始まると、単に面白いと思っていた場面も、その裏側に潜むそれぞれの想いに気づくようになるんです。短い言葉のやり取りですが、行間に探し出すものがたくさんあって、その作業が大変。演出の内藤さんもいつも模索していて、みんなでミーティングしながら台本の奥に深く隠されているものを掘り起こすんです。気づきが多い奥深さがあり、芝居をつくるのに苦労しています。
(畑中) 私も最初に本を読んだ時は震えるくらい面白いと思いました。そしてさすが戯曲だなって。小説のように読み物としてではなく、人間の肉体を通して言葉を発しているものを聞いてみたいと思ったし、それを自分がやるんだということに興奮しました。でもいざ実際に作るとなるととても大変。立体的に作っていく中で、毎日解釈が変わるし、感情が様々につきうごされるような戯曲です。
(平松) 稽古に入る前は1人でずっと笑いながらとても楽しく読んでいたけれど、稽古に入ると登場人物3人の個性がどんどん立ってきて、読んでいただけの時から解釈がどんどん変わっていって。でもどれも合っているんですよね。
―解釈が日々変わることは他の作品ではあまりないことなのですか?
(原) あまり私は経験がないかな。3人でずっと濃密に芝居するから? なんで?
(畑中) うん。他の本となんか違う。
(原) そうなの。今までやってきた芝居とは何かが違う。
(畑中) ひとつの言葉に対して、笑いと泣きの演技の選択肢が同じくらいありますよね。セリフやセンテンスごとに演技の可能性が100万通りくらいある言葉が並んでいる。「待って、私こう思っていたけれど、違う」ってなる。
(竹田) でも大人って泣きたい時に笑ったりするやん。泣くことと笑うことはすごく似ているから。号泣しても大爆笑しても、見ている方が受け取るものは一緒かも。そこをどう演じるのかは役者さんにお任せしちゃう。
(原) 言葉に対して演技のチョイスがたくさんある。「言葉選びで人物の奥行きが感じられる」という審査員の方々の印象通りかも。
(竹田) 悲しい時に「悲しい」って言いながら泣く人はいないし。私、恥ずかしいんです。辛いとか悲しいってことをそのままストレートに表現するのって。喜びもそうですが、どこか避けちゃうんです。なので悲しいとかうれしいとかをずらしずらしで書くと、どうとでも取れるテキストになって、今このように皆さんが困っているのですね。
(原) 想像力を掻き立てられるんです。余韻もあるし。ちょっとした間の取り方で印象が変わるかも。
―幡多弁での苦労は?
(原) 稽古に入ってからはずっと大阪の友人宅に仮住まいしているんですが、大阪弁でしょ。喋っていると大阪弁がどうしてもうつるんですよね。幡多弁は大阪弁と違うんだけれど、どうしても大阪弁の言葉の波に流されることがあるんですよね。稽古後にモモコさんが録音してくれた幡多弁のテープを聞きなおして。「やっぱりイントネーションが違ってた〜」ってなるんです。それにアドリブが言えない。標準語だと例えセリフを忘れてもいろんな言葉に置き換えて、言わないといけないことを言える。共演相手のセリフがとんでも芝居を繋いだり。でもそれができない。台本にアクセントのマークをつけているんですけれど、感情を込めてセリフをいう瞬間にその絵が頭にチラつくんですよね。高知弁のお芝居は昔やったことがあって少し自信があったけれど、全然ちがうんです。
(竹田) 今も土佐清水市で使う言葉なんですが、私が書いているのはお年寄りしか使わない言葉も入っているからより方言ぽくってね。でも原さんのは幡多弁ユーザーが聞いてもなんら違和感ない。うまいですよ。きっと完璧主義なんですね。
(原) でもね〜、やっぱり何かちがうのよ。私にとっては宇宙語のようで。「聞いたことない、その言葉」って。
(竹田) 言葉が理解できなくっても見ている人には雰囲気でわかってもらえたら。ただなんとなく原さん演じる『はつ江さん』が面白いこと言っているなってことがわかってもらえたら。
(原) そっか。気持ちの方を優先して芝居をするんだけれど、せっかくの幡多弁だからできるだけ上手く使いこなしたいのよね。がんばらなきゃ。
―審査員から「台詞のうまさ」という点も評価をされましたが
(畑中) このお芝居ではちっちゃい「え、」とか「あの」って書かれているセリフがあるんだけれど、不思議とそれしか出てこない。セリフを言うというよりも、その言葉が出てくるのが自然な流れに感じます。
(竹田) 話の都合で登場人物を喋らせたくないんですよね。喋りたいように喋らせて書いてゴールさせるから無理が生じない。だからセリフを言いやすいのかな。
(平松) ゆっくりと変化している感情のグラデーションが自然に描かれているから演りやすいのかな。演じる側の変化を許してくれる本だったりもする。だから勇気のいる言葉でもリアリティを帯びて、心から自然と湧き上がってくるんです。
(原) そうだね。それをいっぱい稽古でやっておかないとね。
(畑中) この作品の中心にモモコさんがいて、ずっと一緒に芝居を作っている気がするんですよね。内藤さんも「ここでモモコは何考えているんだろ」ってよくおっしゃってるし。
(原) なんか読み解きたいのよ。女ばっかりの芝居だしわからないことが多いのじゃない?
でも本当に演劇的な本だから面白いよね。

©面高真琴

最後に演出を手がける内藤さんは次のような言葉を寄せました。

「日本の劇・戯曲賞」の最終選考の日。
毎年、モメるんだよな、どの戯曲も、もう一つ決め手に欠けて佳作以上の評価には届かず。そんなこと考えながら会場に入ったんですが、その年は違いましたね。皆さん竹田モモコさんの「他人」を強く押され、結局、満場一致で大賞となりました。まずは台詞の巧みさと、その言葉の奥行きに、最後まで読まされてしまう魅力が溢れていました。
実際、稽古に入ると、あらかじめ描いていた物語の印象の中に、それとなく作者が隠した登場人物への人間的な不安定というか、未熟というか、どうしようもない心細さ、かな?ダメっぷりの面白さに気づくんですね。そこに愛情を持って書いたなと、台詞の向こう側にキラキラするんだね。あ、これ、やっぱり大賞を取るわ。改めて思いました。この人は、書けますよ。
いつもは、南河内万歳一座で、他所ではできない事を仲間とやらかそうと思っているんだけど、「他人」では、万歳一座では、やらないことを徹底的にやってやろうと思ってる。それでも、どこか万歳一座に通じているんだけど、いやいや、徹底的に違う!そんな作業をね。濃厚だがダシの取り方が違うと、こうも旨さが変わるのか?みたいなことかな。味はバツグン、ゴハンも進みますよ。
「他人だから」こそ、そこに流れる優しい空気を描くこの作品。あなたならどう受け取るでしょうか。上演台本が無料配布されるということなので、舞台を見て台本を読んで、竹田モモコの世界にハマってみてください。 

公演概要

『他人』
作:竹田モモコ(ばぶれるりぐる)演出:内藤裕敬(南河内万歳一座)出演:原日出子、畑中咲菜、平松美紅

【大阪公演】12月1日(金)〜3日(日)一心寺シアター倶楽 B1 大阪市天王寺区逢阪2−6−13
【東京公演】12月15日(金)〜17日(日)恵比寿・エコー劇場 渋谷区東3−18−3 エコービル2F
【料金】 4,000円(前売り)/4,500円(当日)高校生以下2,500円(前売り、当日とも)

【チケット】 チケットぴあ  https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2327624
【HP】日本劇団協議会  http://www.gekidankyo.or.jp/performance/2023/2023_06.html
miyoka
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