ドラマ『リビングの松永さん』 美術デザイナー・久渡明日香さんインタビュー
2024.01.12
ドラマの画面に映る空間のすべてをデザインする仕事です。室内シーンのセットに限らず、今回のドラマでいえばシェアハウスの外観や表の看板などもそう。登場人物の背景として映る大道具や小道具のデザインや演出を手がけます。
―今回は漫画が原作ですが、どんなイメージでセットをデザインしましたか?
原作を読んで印象的だったシーンがあります。ホワイトボードがかかっている壁の下にソファがあって、松永さんはよくそこに座っているんですが、その壁を隔てたところに原作では階段があるんです。美己がその階段のところに立って、壁を隔てたソファに座る松永さんの様子をこっそりうかがっている絵です。恋しているからこそ、距離を縮めたいのに縮められない、その美己の思いが現れているカットだな、と。ドラマ内でもそういうシチュエーションを作りたくて、松永さんがリビングにいるときの美己の立ち位置を意識してデザインしました。
ただ、撮影場所のスタジオの天井が低かったので、セットに階段が作れなかったんです。だから美己が隠れる空間ができるように、ホワイトボードがあるソファの壁の向こう側は、階段ではなくお風呂場に行く動線にしました。
そうなんです。ドラマで空間を表現するときに、漫画のままの配置だとカメラで撮りづらくなってしまう、など物理的な問題が出てくることがあります。なので、家具の配置も変えて、カメラで撮りやすい配置になるように意識しています。あとは、松永さんは壁側のソファのほかに、よくこたつの近くのソファにも座るので、登場人物たちの居場所を意識してデザインしました。
ドラマでは旅好きなオーナーの雅彦さんがアメリカ横断の旅をして集めたもの、という裏設定でアメリカンカジュアル風のインテリアにしました。民芸品やヴィンテージ物の小物が置かれていたり、冷蔵庫には旅先で買ったマグネットがいっぱい貼ってあったりします。さらに雅彦さんは音楽も好き、という裏設定で、ピアノやギターやレコードも置いてあります。
小道具の担当さんに「アメリカンカジュアルテイストで」「雅彦さんが世界を旅して集めたアイテム」とイメージを伝えたら、センスのいい小物や家具を、想像を膨らませながら集めてくれました。
最初にキッチンを決めたんです。食器って、一般家庭では扉で隠して収納しますよね。でもオープン棚に収納してたくさんの食器が見えることで、シェアハウスのみんなの生活が見えるんじゃないかな、と。たこ焼きパーティのときはここからお皿を出して並べるのかなとか、住人たちの生活を想像して楽しめるような空間を意識しました。
ダイニングテーブルも、大きな6人用のものではなくて、サイズの違うテーブルを2つくっつけています。椅子の形も、あえて全部バラバラの形のものにして、住人が好きな椅子に座れるようにしました。こたつ周りのクッションや座椅子もいろんなタイプのものに。シェアハウスの住人たちのキャラクターを想像しながら集めました。
中島健人さんが松永さんを演じると決まった瞬間に、私の中でイメージしていた松永さんの顔が、漫画の松永さんから中島さんにサッ!とすり替わって、すごくイメージしやすかったです。デザイナーの役なので、センスある空間にしたいと思い、ちょっと無骨で色味を抑えたヴィンテージ感のあるかっこいい部屋を意識しました。
松永さんはこの部屋でデザインの仕事をするので、机の前にカラーパレットが貼ってあったり、棚にはフォントやデザインの本が置いてあったりします。私自身も仕事のデスク周りにはデザイン関連の本を並べているので、松永さんの部屋にあるデザイン関係の小道具は、デザイナーとしての自分を投影した部分もあるかもしれません。
美己の部屋は、普通のどこにでもいる女の子をイメージしました。頑張り屋さんで、友達を大事にしていて、恋に悩みながら、ファッションやメイクにもちょっと興味がある高校生、という感じ。この部屋で、髙橋ひかるさんが演じる美己の、けなげに恋するかわいらしさが視聴者の方に伝わったらいいな、と思います。
美己の部屋に限らず、ドラマのセットの中に役者さんたちが入ったときに、自然に自分の役に入ってもらえたらいいな、ということはいつも意識しています。デザインしたセットの中で、役者さんたちがどんなふうに動いてドラマの世界観を作ってくれるのかが、この仕事のとってもわくわくするところです。
今回のドラマのリビングは、原作風に見せているところと、ドラマオリジナルのところがあります。ドラマとして原作との違いを楽しんでもらえたらうれしいです。見えるか見えないかの細かいところ、たとえば冷蔵庫の中が1人ずつカゴのような収納で区切られていたり、キッチンや壁の所々に、シェアハウスのルールが貼ってあったり、そんなところもシェアハウスの生活をイメージして作っています。視聴者の皆さんにも、シェアハウス生活に憧れたり、美己たちの生活の様子を想像して楽しんでもらえたらうれしいです。
物語の世界観だけでなく、カメラでの撮影のしやすさや、登場人物の個性まで考えて表現している、という久渡さんのお話から、これからのドラマの楽しみ方が広がりました。実際のセットでは「ゴミ捨て当番」や「火の元チェック」のルールの貼り紙などシェアハウスらしいアイテムも。ドラマではホワイトボードや小物にも注目すると、美己たちが暮らすシェアハウスの世界観をより一層楽しめそうです!
『リビングの松永さん』HP
『リビングの松永さん』公式Instagram
文:早川奈緒子
川崎市在住のフリーランスライター。10代の子ども3人の母。「たまひよ」など主に子育て系メディアで取材・ライティングを行う。
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