聞いてみよか

【インタビュー】原田マハ(作家)「モネ展で気軽にミュゼ活を♪」

2024.03.16

【インタビュー】原田マハ(作家)「モネ展で気軽にミュゼ活を♪」
世界中の美術館から約70作品が集結した“モネづくし”の展覧会。
「モネ 連作の情景」が大阪中之島美術館で開催中です。

本展開催にあたり、2編のオリジナルショートストーリー『カーテン・コール』『サンデー・ブランチ』を特別に書き下ろしたのが、小説『ジヴェルニーの食卓』などで知られる作家の原田マハさん。

今回原田さんに、オリジナルショートストーリーができるまでの裏話や、モネの「連作」の魅力など、作家ならではの切り口でお話を聞きました。
―モネ展とコラボ企画した2編のオリジナルショートストーリー、構成はすぐに思い浮かんだのですか?
いや~そんなことはないですよ(笑)。ただ読んでくださった方が「自分ごと」として捉えてもらえるような誰にでもあるストーリーにしたいなという思いは最初からありました。なので今回のモネ展がどのような切り口で展開されているのか、東京・上野の森美術館へ見に行ったんです。風景画など連作のつながりによってモネの人生までもが立体的にわかるようなすばらしい展示になっているなと、私も一鑑賞者として非常に感激しました。特に《ルーヴル河岸》と《昼食》の2点は、今まで日本で開催されてきたモネ展でもあまり展示されたことがなかった珍しい作品だったんですよね。《昼食》は私も直接見るのは初めてだったんじゃないかな。作品をみているうちに、親子の情景みたいなものが思い浮かんできたので、この2つの作品をモチーフに親子の情景を描いたショートストーリーにしようと思ったんです。
―「親子の情景」は、誰もが想像できやすいことかもしれませんね。
小説を書いていく上で、「自分に置き換えて読んでもらうこと」ってすごく大事なんですよね。難しい話とか壮大な話でショートストーリーを書くのももちろんいいんだけれども、やっぱりモネが今も世界中の人たちから愛され続けている理由って、自分に寄せて見ることができる作品をたくさん残してきたからだと思うんです。なので私も、モネのような自分に寄せて感じることができる物語にしたいなと思って、親子の情景を描いたショートストーリーに決めました。読まれた方が「なんかいいな」「モネ展ちょっと行ってみたいな」という気持ちになってくださったらすてきだなと思っています。

―大阪展に来られる方に、特に注目していただきたい作品はありますか?
モネというと、みなさん「睡蓮」の作品を想像すると思うんですけれど、ヴェトゥイユ時代に描いた作品にも注目をしていただけたらなと思います。モネはフランスのヴェトゥイユで過ごしていた当時、明るい春の日差しとか、雪の美しい風景画などを描いていたんですけれど、実は経済的にかなり困窮を極めていて人生どん底の本当にしんどい時だったんです。ただどんなに苦しくても、モネはつらい感情を絵に一ミリも出さなかった。これはモネの素晴らしいところだと思うんです。印象派という光を求めて、人生の美しい部分や非常に軽やかな部分をすくい上げて描き、苦しいことは全部水底に沈めて表現しないというのがモネのやり方。だから彼の生き方や、絵を描くときのコンセプトというのは、全て絵に浮かびあがっているのですごいですよね。「どんなに苦しくても絵には描かない」「幸せのエッセンスしか描かない」というある意味主張の強いアーティストでもあるけれど、モネの絵を見て励まされている人は多いのではないかと思いますね。
―どうして多くの人がモネの「連作」に魅了されるのでしょうか?
同じようにみえる作品でも、今生きているこの一瞬、1分1秒と同じ時間はないじゃないですか。同じ時間がないからこそ、モネは連作として自分のカンヴァスにそれぞれ違う表情や時間を永遠にとどめておきたいってまずは思ったんじゃないかな。モネが移ろう光を追いかけたり、変わりゆく季節を連作として追いかけたりすることは、実は私たち日本人の心情に非常にマッチしていると思うんですよね。結構日本人って、諸行無常じゃないですけれど、常ならずというのは理解できることだと思うんです。花鳥風月をたしなむことは、私たち日本人にとってはお家芸みたいなところもあって、四季を生活に取り入れながら日々過ごしているじゃないですか。だから日本人とモネの感性は非常に響き合うところがあって、「連作」がよりおもしろいと感じるのではないかなと思いますね。

―「四季の移ろい」や「無常」というのは、日本人としてとても理解ができることですね。
モネは日本の技術や花鳥風月に非常に感銘を受けていたというのは有名な話で。「日本的なるものを描きたい」とモネが思ったときに、じゃあ「日本的なるものって何なのか?」というのは、ずいぶん勉強したと思いますよ。だからこそ私たちがモネの絵や連作を見ると、やっぱり心に響くのは当然のことなのかなと思います。それにモネの作品を、自分たちが年齢を重ねながら長い時間をかけて見続けることもまた面白いですよ。
―モネは“美食家”としても知られていたり、原田さんも昨年京都に“アートと美食”のセレクトショップをプロデュースされましたが、“アートと美食”には何か共通点があるのでしょうか?
アートも美食も、どちらも生きていく上での人生の楽しみじゃないかなと思っています。例えばおいしいものを食べて、みんなでシェアするのって楽しいことだし幸せにつながることだと思うんです。アートもそれに近い感覚があって。ただ食べ物と違って、アートは生きる上での必要性や優先度は低くなるかもしれないけれど、大変なときこそ芸術や文化って「心のビタミン剤」として必要になってくると思うんですよね。戦争のような争いごとをするのも人間だけですが、逆に文化や芸術によってすさんだ心を癒すことができるのもまた人間だけなんです。アートと美食はジャンルは違うけれど、同列にしても全然おかしくないし、広い意味でつながっていると思うんです。私がプロデュースしたアートと美食のセレクトショップ「YOLOs(よろず)」にもぜひいらしてくださいね。

―原田さんは世界中の美術館で様々なアートを見てこられましたが、大阪中之島美術館で見るモネの作品はどのように感じますか?
大阪中之島美術館は会場の目の前に水辺がありますし、新しくできた美術館でもあるので非常にフレッシュな空間だと思います。モネは水辺の風景画をたくさん描いてきた画家なので、実際に水辺を眺めながら会場に入ってきて、時空を越えてモネと作品でつながって、また会場を出て現実の世界に戻っても水辺の世界が広がっていたりとすごくいいセッティングだと思いますね。ファミリーや友達、もちろん一人で行ってもいいし、とにかく美術館を遠い存在に感じず、気軽に行っていただきたいなと思います。みなさんの日常の中にアートと会話をすることが自然と入っていくといいなとも思いますね。気軽に美術館へ行き「ミュゼ活」(ミュージアム活動)も楽しんでほしいと思います。
原田マハさんが書き下ろした2編のオリジナルショートストーリー『カーテン・コール』は、産経ニュースにて公開中。『サンデー・ブランチ』は大阪会場限定で公開中。

原田さんが出演した特別番組『芳根京子 モネを通して見た光~モネ 連作の情景~』は、TVerとカンテレドーガで見逃し配信中です。https://www.ktv.jp/monet
「モネ 連作の情景」
【会期】2024年2月10日(土)〜5月6日(月・休)
【会場時間】10:00〜18:00(17:30 最終入場)
【休館日】月曜日(4/1、15、22、29、5/6は開館)
【会場】大阪中之島美術館5階展示室(大阪市北区中之島4−3−1)
【観覧料】一般2,500円、高大生1,500円、小中生500円
詳しくはhttps://www.ktv.jp/event/monet2024/


原田マハ(はらだ・まは) 東京都生まれ。
関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史科卒業。
伊藤忠商事株式会社、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館への派遣を経て、2002年フリーのキュレーター、カルチャーライターとなる。
2005年『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞し、2006年作家デビュー。
2012年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞を受賞。2017年『リーチ先生』で第36回新田次郎文学賞を受賞。
2019年には世界遺産・清水寺で開催された展覧会「CONTACT」の総合ディレクターを務めるなど、日本・世界各地のアートと美術館の支援を続けている。
miyoka
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