「手のひらで転がされている」佐藤二朗&白木P対談
2024.10.03
同作でプロデューサーを担当するのは、演出家としてドラマ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(2017年)などを手掛けてきたカンテレの白木啓一郎。ドラマから舞台へと活動場所を移したばかりの白木プロデューサーだが、そこで「脚本を書いてくれませんか」と真っ先に声をかけた相手が佐藤だったという。今回はそんな二人の出会いや、一緒に作り上げた作品のエピソードなどを振り返ってもらった。
佐藤二朗、白木啓一郎(カンテレ)
舞台『そのいのち』2024年9月
佐藤:だから正直『リアル・クローズ』のエピソードはそんなになくて(笑)。白木さんとの仕事で印象深かったのは、その後のドラマ『逃亡弁護士』(2010年)かな。僕が電話をしているシーンで、狂気じみた芝居をする放送回があって。
白木:後楽園付近で夜に撮影をしていたんだけど、車の音がうるさすぎて俳優が芝居に集中できる環境ではなかったんですよね。ただ二朗さんは、「俺、考えていることあるから」と私に言ったんですけど覚えていますか? リハーサルでは軽く流してやっていたから、二朗さんの考えていることの真意が分からなかった。「まあ、リハーサルの感じをやや強調させてやってくれるのかな」と思ったていたら、予想外のものを見せてくれた。「うあー!」という強烈なうなり声、そして狂気の芝居。近くで走っている車が事故を起こすんじゃないか、というくらいの気迫でした。
白木:演出家としては、そういう予想し得ない瞬間に立ち会うのが楽しくて仕方ない。「演出家が思い描いているものより、おもしろく外れて欲しい」というのが自分には常にあるんですけど、二朗さんはその中でも数少ない、おもしろく外れてくれる人なんです。
佐藤二朗 舞台『そのいのち』
2024年9月
白木:そういう意味では私自身、二朗さんに好きに動いてもらった方が、作品が良くなると考えている演出家・プロデューサーですね。それくらい信頼しています。ドラマ『だんらん』(2013年)はまさにそうでした。出演だけではなく脚本も担当してもらいましたが、「好きに書いてください」と。二朗さんが書く脚本は、一見、何事も起きていないように見えながら、内面的な部分に大事件が勃発していて、登場人物の狂気性がじわじわとあぶり出されるところ。『だんらん』でも、二朗さんの中にあったわだかまりみたいなものが、ごくごく限られた範囲や世界の中で表現されるはずだと思って、「好きに書いてください」と発注したんです。そしてその通りのおもしろい話が送られてきた。
白木:そうだったんですか。
佐藤:でもその作品は、当時はドラマ化が実現しなかったのでボツになった。ただ僕自身がすごく気に入っている話でどうしても使いたかった。そんなとき白木さんから声をかけてもらったので、「じゃああれをやろう」と。給食のエピソード以外にも、不登校の女子生徒(木下百花)が久しぶりに学校へ来たときに口にする台詞とか、脚本を書いた自分でも「格好良いな」と思いました。あと、『だんらん』に織りまぜた祖父(近藤正臣)の鍼の話が、今回の『そのいのち』にも大きく生かされています。鍼がなぜ腰痛や肩凝りに効くのか。それはあえて付けた傷を補おうとして、血の流れが良くなるから。つまりそれが「生きる」ということではないか。『そのいのち』にはそういったメッセージが含まれていますが、その根底には『だんらん』の存在があるんです。
佐藤:確かにこれまで以上に、自分の好きなこと、伝えたいことが表現できているはず。ご覧になる方がそれをどのように感じてくださるか、楽しみですね。
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
公演概要
出演:宮沢りえ 佐藤二朗 他
脚本:佐藤二朗
演出:堤泰之
【東京公演】2024年11月9日(土)~17日(日)世田谷パブリックシアター
【兵庫公演】2024年11月22日(金)~24日(日)兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
【宮城公演】2024年11月28日(木)東京エレクトロンホール宮城
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