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140億円で売られたがん作、古田新太の過去を趣里がたどる

2024.12.09

140億円で売られたがん作、古田新太の過去を趣里がたどる

『モンスター』第9話レビュー

謎の多い亮子(趣里)の父・粒来(古田新太)の過去をひも解いていった『モンスター』第9話。片田舎の小さな美術館を訪れた亮子が、そこで出会った一人の男(近藤芳正)の語る記憶から、若き日の粒来の足取りをたどっていきます。亮子とともに当時の粒来が何を考え行動したかを探るうちに、“価値”というものの儚(はかな)さと、欲望のままに芸術と人の心を利用し合う人間の汚さを思い知らされました。

23年前に起きた、「呪いの絵」を巡るトラブル。タイトルも作者も不明という多くの謎に包まれたこの絵は、ゴッホの名画「ひまわり」の連作として発見されました。過去最高額の140億円もの価格で当時IT長者だった成沢大輔(渡邊圭祐)が、画商の岡村洋一郎(松田陸)から買い取り、大きな話題に。しかしこの絵が、その後贋(がん)作疑惑をかけられることとなり、多くの“闇”を生み出していくこととなるのです。

美術館館長(近藤芳正)

贋(がん)作と騒がれるようになり、成沢は絵の出どころを明かすよう追及しますが、岡村は頑(かたく)なに口を閉ざしたまま。不信感を抱いた成沢は岡村に対し、売買代金の全額返金を求める訴訟を起こします。この弁護を担当したのが、若き日の粒来。大手弁護士事務所時代の同僚だった圭子(YOU)から紹介を受けて、粒来は岡村から「呪いの絵」にまつわる秘密を明かされます。

元々この絵を所有していたのは、才能を評価されずにこの世を去った市原という画家。その妻であり、絵画の修復士である市原詩織(佐藤玲)が、彼の遺品から見つけて修復を施したものが、「呪いの絵」だというのです。一目見てゴッホの作品だと確信した岡村はこの絵を国立文化美術館に持ち込み、ゴッホ展での展示することを提案。目玉となる作品を探していた美術館側は、簡易な鑑定だけでこの絵をゴッホの作品として受け入れることに。これをきっかけに、出どころ不明だった謎の絵画に突如として莫大な価値がつけられたのです。

成沢大輔(渡邊圭祐)

世紀の大発見として世を席巻した「呪いの絵」。しかし日も浅いうちに、世界中で贋(がん)作ではないかという声が上がっていくようになります。この疑惑を後押ししたのが、関東芸術大学教授の永山淳之介でした。「偽物に本物とラベルが貼られただけで、何の価値もない」と痛烈に批判し、金もうけをもくろんだ修復士による仕業(しわざ)だと述べたのです。

永山は日本の美術界で莫大な影響力を持っており、彼の一存で美術品や芸術家の価値を左右することも可能だと、岡村は粒来に訴えます。そもそも、成沢がこの絵を購入した理由も、芸術性にひかれたからではなく、絵を持つことによって自分の権威を高めようとしたから。140億円かけて成功への切符を手にしたと思ったら、永山や世間の声を受けて一瞬にしてガラクタに成り下がったというわけですね。

真作だと補償する念書を、酔った勢いで渡してしまうという岡村自身の失態もあり、難しい案件かとも思われましたが、粒来の対応はさすがとしか言いようがありませんでした。結局、成沢と永山は裏でお互いの利害でつながっていて、今回の件でその関係にヒビが入っていた。それを見逃さず、成沢の弱みにつけ込んだうえで悪くない条件を提示して飲み込ませる。「金で買えるものはなんでも手に入れる。でも金では買えないものに飢えていて、その欠乏感を金やモノで埋め尽くしているけれど、まったく幸せではない」という粒来の言葉に、見ているこっちもスカッとしましたね。

成沢大輔(渡邊圭祐)

「本物でも偽物でもいいようにする」作品の価値を、見た者の感性に委ねるムーブメントを巻き起こした粒来。金と欲にまみれた世界で、芸術というものの正しいあり方をわかっていたのは、一人の弁護士だったようです。「あの絵、どう思う?」と父に問われた7歳の亮子が「こわい」とつぶいたあの一言さえも、1つの芸術的価値であっていいのだと、そんなことを思いました。

市原氏の絵を批判した永山も、永山の一声で態度を一変して140億円で買い取った絵を贋(がん)作だと決めつけた成沢も、そして詩織への思いにほだされた岡村も、結局誰一人として作品そのものの価値を見定めようとはしていなかった。最後の亮子の推理によって導かれた仮説には、思わず背筋が凍ってしまいました……。

神波亮子(趣里)、美術館館長(近藤芳正)

Xでは、「物の価値って何だろう……としみじみ考えさせられる回」と、改めて価値観というものを振り返っていた視聴者の声や、「群馬に何があるんだ?」と次回の展開に期待を寄せる声が上がっていました。

作中で大草圭子法律事務所を訪れたのは、妊娠中の女性(前田敦子)。群馬から来たという15年ぶりに帰省した地元に異変が生じ、新たにできた産業処理場が関係しているのではないかと亮子たちに相談に来ます。最強のバディと思われた亮子と杉浦(ジェシー)に亀裂の予感?!再び勃発しそうな父娘対決にも、注目です!
文・神田 佳恵
フリーライター 兼 一児の母。
取材・インタビュー、エンタメ記事、エッセイなど、複数媒体・分野で執筆中。
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