いよいよ後半戦に突入するドラマ『未恋〜かくれぼっちたち〜』の第6話が2月13日深夜に放送されました。
前回のラストでは、売れっ子漫画家の深田ゆず(弓木奈於)が、自分が描きたい作品を追求するため、担当編集者で恋人の高坂健斗(伊藤健太郎)との同棲宅から出ることを決意。また健斗は、かつて分かり合えていた仲だった派遣編集者・鈴木みなみ(愛希れいか)から「この仕事を好きでやってる?」と問い詰められ、「好きじゃないことを仕事にした方が上手くいく」と答えたことなどから、お互いの考え方にすれ違いが見えるようになりました。
そして今回は、ついに健斗とゆずが破局を迎えます。交際期間は1ヶ月ほど。「ミスターリクス回避」と呼ばれ、何事もそつなくこなす健斗が珍しくここでたじろぎます。そして柄にもなく、出ていったゆずへの“未練”をのぞかせます。ちなみにゆずが決断に至った理由は、すべてをリセットすること。そして、漫画家として新しい一歩を踏み出すため、本当に描きたいことを描かせてくれるという別雑誌の編集者・桔川悠(松下優也)と打ち合わせを重ねることに。
この第6話を見ていて、筆者がとにかく「ドキーッ!」とする場面がありました。これまでもかなり共感性を持ってこのドラマを鑑賞してきましたが、自分のことをこんなに言い当てられている気がした回は、なかったかもしれません。
それは、健斗の小説家志望時代の仲間だった沖一平(森永悠希)が営む飲食店へ、みなみが娘と一緒に訪れるところ。飲食店では、健斗のもとを離れたゆずがアルバイトをしていました。そしてみなみとゆずは一緒に酒を酌み交わします。
ビールのアテはもちろん、健斗の話題。そこでみなみは、健斗の性格について「好きなものを好きって言わないでしょ、あいつ」と指摘すると、ゆずも「そう、言わないの! それホント、ダサい」と同調。さらにゆずは「なにが『好きなものを仕事にすると、アレだから、俺は今の仕事が…』」と健斗のポリシーを振り返ると、みなみも「『ちょうどいいんだ』とかなんとか、言ってる言ってる!」と、二人でまくしたてるのです。
……本当にすみません。実は筆者も健斗と同タイプです。確かに何事においてもちゃんと「好き」と言った方がいいとか、それはなんとなく分かっているんです。でもこちらの言い分もダメもとで聞いてください。だって好きだから付き合っているんだし、一緒にいるんだからわざわざ言葉にしなくても、と(読者のみなさんからのブーイングが聞こえます)。
健斗も同様なのかどうかは分かりませんが、でも彼はどんなことでも効率重視なので、もしかすると近い考え方を持っているのかもしれません。とは言っても、ゆずは「(付き合うときも)そもそも好きって言われてないですし」とこぼしていましたので、筆者もさすがに「そこはちゃんとしようよ、健斗」と感じました。
ただ、一緒に生活をしていたり、付き合っているという前提がある以上、「好き?」「好きだよ」のやりとりを何度もすることにどんな意味や発展を持つんだろうと考えちゃうんです。だから筆者はいつまでもシングルで(しかもその方が心地いい)、健斗もゆずに愛想を尽かされてしまうのかもしれません。そもそも恋愛関係や対人関係を効率で進めるのは、やっぱり良くないですよね。そういったことが、みなみとゆずの話で痛感させられました。
ただ、この場面で思わず「これはすごい」と声が出た演出があります。それは、意気投合したみなみとゆずが、これまらまさに健斗の欠点を愚痴ろうとしたとき、「ピンポンパンポーン」とBGMが流れるところ。この「ピンポンパンポーン」は、注意喚起やお知らせなどなんらかのアナウンスが流れる前の効果音としてお馴染みのメロディですよね。。
このBGMを挿みこむことで「これからみなみとゆずは、あなたにとって耳の痛い話をしますよ」とか、もしくは「これから話すのは重要なことですから、みなさんちゃんと聞いてくださいね」とか、そういう意味を持たせている印象がありました。さりげないBGM演出ですが、これがあるのとないのとでは、この場面の雰囲気が大きく変わると思います。シンプルですけど、みなみ、ゆずの話に視聴者の耳を傾けさせる上でとてつもない効果を発揮していて、筆者は身構えるとともにちょっと鳥肌が立ちました。それくらいBGM演出としてすばらしいものがあります。
あと最後に、言われっぱなしの健斗(と筆者)のエクスキューズもさせてください。健斗は真っ正面から「好き」とは言わないですけど、でも彼なりの支え方はしているんですよね。それはみなみもゆずも認めています。
それってやっぱり、みなみとゆずが指摘していたように、健斗は「ゼロからイチが生み出せない人」だからなんです。逆に二人は「ゼロからイチが生み出せる人」なので、健斗のそういうやり方が理解しづらいところもあるのかもしれません。かくいう筆者も、こうやって出来上がった作品などを題材に、好き勝手なことを言わせていただいていて、つくづく「失礼な職業だな」と自覚しながら長年過ごしています。でも「この作品、おもしろいな」「この人が作るものってなんか好きだな」と感じて、少しでもそれを伝えたいという意味で「イチに乗っかる」という気持ちもあります。ダイレクトに「好き」とは言わないけど、回りくどく「好き」を表現している感じです。
健斗自身、ゼロからイチを作る人への憧れはあるはず。でもいざゼロからイチを生み出そうとすると、自分の才能や実力のなさを思い知ることになるかもしれない。そういう怖さは間違いなくあります。だから彼は今の道を選んだのではないでしょうか。しかし第6話終盤、そんな健斗が原稿用紙と向き合う場面が出てきます。健斗も変わろうとしているのでしょう。第7話でそんな健斗がどんな風になるのか、楽しみに見守りたいと思います。
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文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。