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健斗(伊藤健太郎)と星(鈴木大河)が抱えるもの【未恋】

2025.02.21

健斗(伊藤健太郎)と星(鈴木大河)が抱えるもの【未恋】

『未恋〜かくれぼっちたち〜』第7話レビュー

登場人物たちの気持ちが大きく揺れ動き始めた『未恋〜かくれぼっちたち〜』の第7話が2月20日深夜に放送されました。

前回は、漫画雑誌編集者の高坂健斗(伊藤健太郎)と、その恋人である売れっ子漫画家の深田ゆず(弓木奈於)が破局。理由は、漫画家として新しい一歩を踏み出すと決めたゆずが、すべてを一旦、リセットするため。また、仕事の取り組み方をめぐって健斗とすれ違いが出てきた派遣編集者・鈴木みなみ(愛希れいか)は、小説家を目指していた経験を生かして、漫画家の卵・本島りん(外原寧々)の本格デビュー作の構想を練ることに。このように、ゆず、みなみは前向きな気持ちで「自分探し」に出ますが、健斗はというと…。

人間誰しもに備わる「感情の陰部」

ちなみにみなさんは、身近にいる人やかつての仲間の活躍をどれくらい心から祝福できますか? そのがんばりを手ばなしで喜べる人もたくさんいるでしょう。一方、嫉妬したり、心のどこかでうまくいかないように願ったり、そんな風に考える人も決して少なくないはず。ただ、そういう本心を自分自身が受け入れたくないため、無理やり嫉妬心を抑え込んで余計に苦しくなることってあるのではないでしょうか。

特に、もともと同じ土俵に立ち、同じ目標を持っていた相手が道を切り開いていって、かたや自分は結果が残せていない…となると、嫉妬はどんどん膨らみます。そんな自分に自己嫌悪したりもしますよね。でも、それらは人間の素直な感情として否定できないものだと思います。第7話では、人間誰しもに備わる「感情の陰部」が描かれていました。

同話では、本島りんの連載デビューの話が進行。みなみらはそのストーリーラインを考えるなど、バックアップ体制が整っていきます。そんなおり、健斗は、かつて掲載されたりんの読み切り漫画のアンケートハガキを整理する中であることに気づきます。それは批判的なアンケートハガキの筆跡がどれも同じであること。おそらく同一人物のものだと思われます。しかもその筆跡が、後輩編集者の星たける(鈴木大河(IMP.))と類似していたのです。

星と言えば、第6話で自分が担当する漫画家の作業場に読みたかった漫画がたくさんあり、「持って行っていいよ」という好意を真に受けて、運送業者に依頼して本棚に並んでいた漫画を丸ごと運んだツワモノ。そのほかにもこれまで、堂島貞一編集長(金井勇太)らとの世代の違いからくる考え方の相違が顕著に見られた若手です。

りんに対する批判的なアンケートハガキが星の仕業であるかどうかは、第7話では明かされていません。しかし、りんと星は同じ大学の漫画サークルの先輩・後輩の間柄だったことから、星が“犯人”であることが濃厚になります。実際にSNSでも「アンチコメントの送り主は知り合いだった」というパターンが多いですから。

しかもりんにとって先輩の星は当時、唯一のライバルだったのです。りんは「先輩のこと、考えてました」「負けたくないって。負けないように作品描かなきゃって。そうでないとデビューなんてできないって」と振り返ります。しかし星から出る言葉は「ばっかだなあ」「ばかだよ」だけ。その様子から、今の星にとっては、りんの姿そのものが大きなダメージになっていることが分かります。

売れっ子でも誰かに嫉妬する、大切なのはそれを原動力に変えること

誰かの活躍をねたんだり、うらやんだりするのは、人間らしい感情だと思います。たとえば筆者は2023年、タレントのファーストサマーウイカさんをインタビューしました。その際にウイカさんは、「私自身、ルサンチマンが人より根深いというか、嫉妬に心が蝕まれる気持ちがよく分かります」「(誰かに嫉妬することについて)すごくします。たとえば、めちゃくちゃシンプルなことですけど『あの人、ものすごいお金持ちやん。ええなあ』とか、『あんなに良い家に住んでるんや』とか」と話していらっしゃいました。ウイカさんほどの超売れっ子になってもそんな気持ちになるのですから、誰だってそうなるのもおかしいことではない気がしました。

ただ、ウイカさんは「そういう嫉妬や羨望(せんぼう)が、『じゃあ、自分のやり方で追いついてやるぞ』と原動力になっていました。私は隣に青い芝がないとがんばれないんです。そして、そういう貪欲さは一生なくならないと思う。たとえ大スターになったとしても、世界のどこかに眠っている宝が欲しくなったり、この世に一つしかない名画を手に入れたくなったりするはず」と、余計に燃えるのだと言っていました。

そこでふと、登場人物の一人の存在が浮かびました。それが堂島編集長です。実は筆者は、この堂島編集長が大好きなんです。

確かに口うるさくて、嫌味なところがあります。でも基本的にめちゃくちゃポジティブですよね。ゆずが大手漫画雑誌に引き抜かれたときも、恨み節を口にしながらも最後は「俺、こういう逆境っていうの? 絶体絶命っていうの? なんか燃えてくるんだよね」とやる気を見せます。堂島編集長はきっと、悔しいことや嫉妬する気持ちがあっても、それに引っ張り込まれずに自分の糧にできる人。こういうタイプって現実では一番強いですよね。堂島編集長だっていろいろ挫折を経験しているはず。しかしそれらを乗り越えてこのメンタリティを身につけたと想像できます。シリアスなことを受け付けない姿は本当に素敵です。

星も、りんと接して気持ちに変化があらわれます。第7話の最後には、それまでのつきものが落ちたような表情で「気持ちが固まりました!」と宣言。なんらかの前向きな決意をしたようです。嫉妬心から、相手がコケるところを見たいという思いは誰もが持っているもの。仕方がないことです。でもこの第7話は「それだけにとどめないことが肝心である」ということが伝わってくる、メッセージ性の強い放送回だったのではないでしょうか。
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文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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