『MADDER その事件、ワタシが犯人です』1話レビュー
ドラマ
『MADDER(マダー)その事件、ワタシが犯人です』が4月10日深夜より放送がスタートしました。同作は、日本屈指の進学校・清爛(せいらん)学園を主な舞台とし、同校創立以来初の入試全教科満点で入学した天才高校生・仲野茜が、連続殺人事件の犯人と思われる青年・黒川悠との出会いをきっかけに犯罪の世界にひかれ、やがて自身も日本を震撼(しんかん)させる未曾有の連続殺人に関係していく物語です。
仲野茜役を地上波ドラマ初出演&初主演の五百城茉央さん(乃木坂46)、黒川悠役を山村隆太さん(flumpool)がつとめ、さらに「中学校全国クイズ大会優勝」の経験を持つ高校生・江藤新を樋口幸平さん、「数学オリンピック」の金メダリスト・宮内大翔を山下永玖さん(ONE N’ ONLY)、連続殺人事件の犯人を追う刑事・梶谷美和を武田梨奈さん、同じく刑事・森野真治を濱正悟さんが演じるなどしています。
誰しもの心の奥底に眠る「悪趣味な自分」が引き出される
そんな『MADDER』は、「ゾクッとするけど見てしまう」「こういうものを見てしまう自分って、どうなのか」という感覚をくすぐる作品と言えるのではないでしょうか。誤解を恐れず表現するならば、それは、誰しもの心の奥底に眠る「悪趣味な自分」が引き出される感じと言えるでしょう。
第1話では、オープニングから片腕が切断された女性の死体が登場します。ご覧になった方はきっと「片腕が、ない……?」と目を疑ったはず。衝撃的な描写です。そんな死体を囲うのが、多数の野次馬たち。ただこの野次馬も、顔をしかめたり、手で口元を押さえたりしながらも「死体が気になって仕方がない」という様子で、その場から離れようとしません。
そもそもどんな状況においても野次馬というのは、「悪趣味な自分」がついつい出てしまう存在です。顔をしかめるくらいならすぐにその場から立ち去れば良いのに、そうしない。この冒頭の凄惨(せいさん)な場面における野次馬の反応はまさにそうなのですが、「むごい」と感じながらも、人間というのはそういうものに対して、ついつい興味や好奇心がまさってしまう生きものです。
たとえばSNSなんかで残酷な出来事についての投稿が出回ったときも、嫌悪すると分かっていても、検索して見てしまうことってありますよね。そういうとき、理性や倫理は、興味や好奇心に負けてしまうもの。このドラマの視聴者であることは、どこかそれに近い気がします。
誰しもの心の奥底に眠る「悪趣味な自分」が引き出される、という点をもっとも体現するキャラクターが、仲野茜です。偏差値78を超える超ハイレベルな清爛学園の歴史上、トップの賢さを持つ彼女。しかし、それゆえに「世の中がつまらない」と退屈しています。
そんな彼女の気持ちを刺激するのが、街で発生している殺人事件です。茜は、前述の片腕切断死体の現場で目撃した黒川が犯人ではないかと考えます。そして彼が勤めている電気店を訪れ、直接対話します。
この対話の場面の演出がお見事です。黒川は、茜が来店するとすぐにテレビを消します。なぜならテレビでは、殺人事件について報じられていたからです。消されたテレビの画面はもちろん、真っ暗。その真っ暗になった画面に映るのが、茜の姿です。
茜は、世の中をつまらないと思いながら生きています。ただここで、殺人事件のニュースのあとに姿が映ることにより、彼女自身が事件の世界に入り込んだことを示唆しているように感じられます。また、これまで表に現れていなかった茜の“本性”が、テレビ画面上に浮かび上がったとも捉えられます。
さらに黒川から「彩りのある世界とは、どういうものであるか」を聞かされ、茜はなにかに目覚めます。その後、茜は電気店を出るのですが、そこでのカメラワークもこれまた秀逸。五百城さん自身がカメラを装着した衣類を着用して撮影したそうなのですが、茜の表情を真正面から接写することで、周りには目もくれず、自分だけの世界をやっと見つけた風に読み取れます。
テレビ画面、カメラワークなどで、茜の中にも確かに存在する「悪趣味な自分」が引き出される瞬間を描いたところに、このドラマの“うまさ”がありました。
茜のクラスの温度感、絶妙に居心地が悪いぬるさ
あと『MADDER』は一応、学園ドラマなんですよね(笑)。ものすごく特殊な学園ドラマですが。ですので、教室内の生徒たちの様子はやはり目が離せません。
そんな教室内での、樋口幸平さん、山下永玖さんらが演じた生徒たちが漂わせるムードが素晴らしいです。クラス全員が賢くて、自分を一番だと思い、ほかを見下している。このような学園ドラマって大体は「クラス全体が冷めている」とか、あと「先生、早く授業を進めてください」みたいなせりふが入ってきたりするもの。
でも茜のクラスの雰囲気は、当然ながら温かいものではないのですが、そこまで冷め切っているものでもありません。どちらかの温度感に振り切っていれば、分かりやすいです。でも、騒ぐときは騒ぎますし、かといってそこまではしゃぐ様子でもありません。つまりこのクラスは、絶妙に居心地が悪いぬるさなんです。ゆえに捉えどころがない。しかも全員、頭が良いので、凡人にはなにを考えているのかつかめない不気味さがある。
その絶妙に居心地が悪いぬるさを肌で感じている風なのが、北條凛(つぐみ)という生徒ではないでしょうか。彼女が「学級委員になりたいです」と手を挙げて立候補したときも、同級生たちは無反応。担任の門倉幸太郎(なすび)の拍手だけが響きますが、その拍手の音が余計に凛の虚しさを際立たせます。
ちなみに凛は北九州スピーチコンテスト準優勝という経歴を持っていますが、クラスメイトに比べると実績は劣ります。全員が自分たちの勲章をアピールし合う中、凛がボソッと「北九州…、スピーチコンテスト…、準優勝」と言うシーンは、彼女が居心地の悪さを感じている様子がひしひしと伝わってきます。
『MADDER』は「おもしろい」という意味ですっきりしません。だからこそこれからの展開が気になって仕方がありません。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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