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紘海(北川景子)と結城(大森南朋)、萌子のための決断と許し【あなたを奪ったその日から】

2025.06.30

紘海(北川景子)と結城(大森南朋)、萌子のための決断と許し【あなたを奪ったその日から】

『あなたを奪ったその日から』第11話 レビュー

紘海(北川景子)と別れ、結城(大森南朋)との新しい生活が始まった萌子(一色香澄)。幸せそうな萌子を見た紘海は深く落ち込んでいました。どうにか紘海と萌子が和解できないかと願いながら見ていた『あなたを奪ったその日から』最終話。3人が導いた結論は少し意外なものに感じました。


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萌子は、結城家での新しい生活に慣れつつありました。一方で、結城は紘海を告発するかどうか悩んでいる様子。告発することが正しいのか、萌子を裏切ることになるのではないかという迷いがあるように見えます。口では紘海を犯罪者と呼ぶも、実母の江身子(鶴田真由)からの「あの子にとっては育ての親なわけだし」という言葉には反論ができません。

萌子に嘘をついたことを後悔し、萌子の幸せそうな様子にショックを受けた紘海は、生きながら死んでいるようなすさんだ生活を送っていました。そんな紘海を支えたのは、雪子先生(原日出子)でした。萌子を傷つけてしまったと顔を歪(ゆが)めて涙ながらに懺悔(ざんげ)する紘海。誤解を解きたいというよりも、10年間の日々を否定するような言葉をぶつけて傷つけてしまったことへの後悔が大きいのでしょう。紘海の脳裏には、泣きながらお母さんとすがってくれた萌子の表情が焼きついているのかもしれません。雪子からしっかり生きて背中を見せることが萌子のためになるのではないかと励まされます。雪子の言葉をしっかりと反すうする紘海。前を見据えてテキパキと動き、仕事にも懸命に取り組めるようになっていきます。
『あなたを奪ったその日から』第11話 中越紘海(北川景子)

『あなたを奪ったその日から』第11話
中越紘海(北川景子)

萌子も少し状況に折り合いを付けられるようになった様子。姉の梨々子(平祐奈)からの優しさ、結城からの愛情の深さを感じた萌子は、結城に改めて感謝を伝えました。スーパー・スイッチバックの名前の由来は、幼少期の萌子が結城と一緒に電車で遊びながら口にしていた鉄道用語だったのです。小さい頃に結城と遊んでいた記憶を思い出した萌子は、改めて結城の優しさと愛情を受け止めているように見えました。

それぞれが現状に折り合いをつけ始めていたなか、迎えた萌子の誕生日。萌子は手紙を置いて、結城家を出て行ってしまいました。萌子は、突然突き放した紘海のことも、突然迎えにきた結城のことも許せなかった。でも、紘海に突き放されていたとしても、間違ったことだとしても、もう一度お母さんに会いたい。優しい結城だからこそ、この願いを理解して欲しい。切実な手紙の内容と涙が混じりそうな震えた萌子の手紙を読む声に胸が締め付けられる思いでした。萌子は紘海と誕生日に行こうと約束した長野県の姨捨(おばすて)駅にいました。誕生日に行こうと約束した紘海に会えるのではないかと期待していたのです。紘海への思いに泣きそうになる萌子に、紘海が向かいのホームから「美海」と声をかけます。走る紘海と共に流れる紘海と萌子の生活の回想シーンには、涙してしまいました。10年間しっかりと親子として過ごしてきたふたりの絆の尊さが感じられました。結城は、その様子を向かいのホームから眺めます。
『あなたを奪ったその日から』第11話  中越美海(一色香澄)

『あなたを奪ったその日から』第11話
中越美海(一色香澄)

親子の絆を見たとはいえ、萌子との10年間もの時間を紘海に奪われたことを結城は許せずにいました。結城は、紘海に亡くなった彼女の娘・灯(石原朱馬)のことを許せるのかと問います。今は、すべてを受け入れていると答える紘海。萌子には、人を恨むような人間になってほしくない。人を受け入れられる人間になって欲しいからこそ、紘海は憎しみを捨て、結城を許す道を選んだのです。

自首する前、最後に萌子と会話する時間をとる紘海。萌子との時間を振り返り、かわいがってきたことを口にしながら、優しい声と笑顔で、萌子の未来を願います。萌子はなかなか紘海から離れられない様子。涙ながらに「美海って呼んで」とねだる姿はとても切なく、美海がどれだけ紘海を求めているのかが深く伝わってきました。
『あなたを奪ったその日から』第11話 中越紘海(北川景子)、結城旭(大森南朋)

『あなたを奪ったその日から』第11話
中越紘海(北川景子)、結城旭(大森南朋)

そして、結城は株式会社タイナスの関西進出を発表する会見を開こうとしていました。関西進出は結城の長年の悲願。喜ばしい記者会見となるはずでした。しかしその直前、あるネット記事が急速に広まります。そのネット記事にはYukiデリの食品事故の犯人と、食品事故の被害者遺族が萌子を誘拐したことが報じられていました。梨々子への恨みを深めた玖村(阿部亮平)がSNSで告発していたのです。しかし、出席した記者から記事の真偽を直接問われた結城は、これを否定。「ふたりは本物の親子です」と、優しい嘘をつきました。紘海に涙ながらにすがる萌子を見た結城は、萌子にとって最善の選択をすることを決意し、自分の恨みを萌子に引き継がせないために紘海を許したのです。萌子への愛があったからこそ、紘海と結城は罪を許すことができたのでした。美海との生活を再開した萌子は、結城と定期的に会っている様子。部屋には灯の写真が飾られていました。強い恨みから始まった物語でしたが、最終的には子どものために恨みを手放す物語になっていましたね。
『あなたを奪ったその日から』第11話 木戸雅人(中原丈雄)、結城旭(大森南朋)

『あなたを奪ったその日から』第11話
木戸雅人(中原丈雄)、結城旭(大森南朋)

放送直後のX(旧Twitter)では、「思い出回想で泣いた」「終盤はどちらの親子も幸せになって欲しいと思っていたので、ほっとしました」など、罪はあれど紘海と美海の絆に心を動かされている方や二人の幸福を祈る声が多かったです。

紘海や結城とは異なり、玖村は自分のなかの恨みを消化できずに、梨々子の罪を告発するにいたりました。しかし、梨々子からそれを恨まれることなく、玖村は逆に告発したことを後悔する結果に。週刊誌の記者である砂羽(仁村紗和)は、執念深く結城を追い詰めていましたが、父からの愛を思い出し、食品事故の真相を記事化することを断念しました。相手の罪や自分の中にある恨みとどう向き合い、どのように許すのか。紘海や結城が、相手の罪や恨みなどの負の感情に立ち向かう過程を通して、人を許すことがいかに難しくて、勇気のいることなのかを視聴者に訴えかけるドラマだったと思います。
取材・文:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
miyoka
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