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タイムカプセルの映像、55年の時を経て大阪で初出し上映

2025.04.25

タイムカプセルの映像、55年の時を経て大阪で初出し上映
現在開催中の大阪・関西万博。もしも、この令和の万博関連の出来事や今の私たちの暮らし、世相などを記録に残し、タイムカプセルに埋め、未来で開けたとしたら…未来人は、現在の私たちことを一体どのように評価するのでしょうか…。
実は、今から55年前の昭和45年(1970)の大阪万博時にタイムカプセルが埋設されていました。

なんと、5000年後の人類に向けてという壮大な企画で、当時の文化を残すため、毎日新聞社と松下電器産業株式会社(現・パナソニックホールディングス株式会社)により製造されたという4機の「タイム・カプセルEXPO’70」(以下、カプセル)。全4機のうち納入品があるのは、1〜3号機で(4号機は納入品がなくパナソニックミュージアムが所蔵)、1号機と2号機は、大阪城公園本丸御殿跡の地下15mに埋設されました。

タイム・カプセルEXPO’70 1階常設展示のパネルより

納入品がある3号機は、常にどのようなものが納入されたのか見ることができるようにタイム・カプセルEXPO’70委員会から大阪歴史博物館(大阪市)に寄贈され、中に収められていた物は収蔵庫に保管。カプセル本体は、同館の1階に大阪城の方を向いて常設展示されているのです。
「大阪人でもタイムカプセルが歴博にあることをご存じ無い方が結構いるので知っていただけたら」と、同館の奥本未世学芸員。

カプセル納入品の16mmフィルムのデジタル化に成功、初の公開上映へ

16mmフィルム《表情1970》について説明する奥本未世学芸員 2025年4月

大阪で2度目の万博が開幕した今年、カプセルの納入品のひとつ16mmフィルム《表情1970》のデジタル化に成功。デジタルリマスター版として蘇(よみがえ)りました。
2025年5月3日(土・祝)にカプセル埋設後、初めて上映されるので要注目です。

55年前の人々は、一体どのようなものや思いを次世代に残していこうと思ったのか?この度、開封された20世紀からのメッセージを垣間見てみましょう。
あわせて、同館8階の特集展示「オープン the タイムカプセル」で、2098点にもおよぶ納入品から、「20世紀」「継承」「進歩」の視点で、奥本さんが選りすぐった約130点を実際に見ることできるので、お見逃しなく。
※本記事の内容は、2025年4月23日の報道向け試写会を取材したものです。

たったの55年で…技術が進歩し、価値観も大きく変わった

デジタルリマスター版の16mmフィルム《表情1970》

16mmフィルム《表情1970》は、もともと前編・後編に分かれており、この度のデジタル化の映像で1本にまとめたとのこと。昭和の大阪万博の時代を超長期的に残す目的で制作されたものなので、フィルム自体は500年持つタイプであり、デジタル化が可能でしたが、たったの55年で、フィルム再生して見ることすら一般的では無くなるほど、現代の技術革新は進みました。

デジタルリマスター版の16mmフィルム《表情1970》

奥本さんは、「当時(60~70年代)のあらゆるジャンル、分野を横断して、幅広い側面からとらえ、記録して残そうとしたと思われます」と説明します。
そのため、当時の事件や政治、文化、民俗芸能、伝統技術、最先端技術だけでなく、一般庶民の暮らしを表情豊かにあらゆる面で映像に残していました。例えば、当時の最先端だった団地での暮らしや高速道路、公衆電話を使う人々の様子など、「笑い」「悲しみ」「怒り」「日本人らしい表情に出さない感情」といった表情から、当時を生きた人々の生々しくもエネルギッシュな感情や世相が映像に残されていたのです。

《表情1970》より、公衆電話で談笑する女性の様子

最大の特徴は、現代の倫理観や価値観とは異なる“当時の価値観”が反映されている点。成績の悪い子たちが進学教室の先生からビンタされ、叩かれた生徒側が「ありがとうございます」と言うシーンは、現代では考えられないのでびっくりです。
会社の団体慰安旅行で芸者さんが接待し、それを取り仕切る係の社員が疲弊する様子、女性が花嫁修業として茶道や琴を習う様子、オフィスビルで働くサラリーマンの様子、プロレスごっこをする子どもの様子などなど。ナレーションでも「買い物は女の仕事です」と語るので、現代の私たちが見ると、(確かに昔は当たり前だったと思う年代の方もいると思いますが)、驚くような性差別的な内容も記録されています。

《表情1970》より、渋谷を行き交う人々の様子。当時のファンションが分かる

たったの55年で、これだけ技術が進歩し、価値観も大きく変わったのだと改めて実感できる映像です。
果たして、5000年後の人類は、この記録をどうとらえるのだろう?と、途方もない先の未来人の気持ちを想像してみるのも一興かもしれません。

どんなものをカプセルに入れたの?特集展示「オープン the タイムカプセル」

大阪歴史博物館 特集展示「オープン the タイムカプセル」
2025年4月

映像記録だけでなく、実際の納入品はどのようなものだったのでしょうか?興味深いのは、「ある1日の記録」です。タイム・カプセルEXPO’70委員会が一般人から有名人・政治家に至る44名に「1日の行動を時間経過に従って記録してください」と依頼し、その行動記録データをまとめたもので、かなり先の未来には、非常に貴重な記録資料になるはずです。

あるサラリーマンの1日の記録

一般人の代表として、男性は「サラリーマン」、女性は「主婦」が選出されているのも、共働きが主流となった昨今とは異なり、当時(昭和45年)の社会通念がリアルに反映されています。

ハンドバッグとその内容品

「55年前の資料ですが、意外と現代と見た目や機能が変わっていないものもあるのだなと思っていただけたらと、身近にあるものをピックアップしました」と奥本さん。当時の女性が持ち歩いたハンドバッグの中身は、定期やクレジットカードなど、現代とあまり変わりません。

万博開催当時の最新科学技術の家電など

一方で、昭和の大阪万博開催当時の最新科学技術として紹介された小型ラジオやカメラ、超小型テレビなどを見ると…現代ならばスマートフォン1台ですべてまかなえるため、現代の科学技術の躍進を改めて実感も。これから先はどのような時代になるのだろうと想像が膨らみます。

タイム・カプセルEXPO’70は希望のかたまり!?

大阪歴史博物館1階に常設展示されているタイム・カプセルEXPO’70の3号機のカプセル 
2025年4月

大阪城公園本丸御殿跡の地下15mに埋設されたタイム・カプセルEXPO’70の1号機と2号機が実際に開封されるタイムスケジュールですが、開封年は「6970年」です。気が遠くなるほど途方もなく先ですね…。
1号機は、6970年まで開けられることはなく、2号機は、100年ごとに点検チェックのために開封されます。当時の人々は、なぜこのような壮大な計画を考えたのでしょうか?

「個人的には、タイム・カプセルEXPO’70は希望のかたまりだと思っています。当時の人々は5000年後の人類も明るく希望に満ちて繁栄していると信じて、カプセルを造ったのだと思います。現代は、何かとつらい時代ですが、夢と希望に満ちた時代があったことを知り、活力にしていただけたら」(奥本さん)

デジタル化した《表情1970》の最後の映像は、当時の子ども達の笑顔でした。奥本さんは、「この子ども達の笑顔がすべてなのではないか」と思ったそう。技術的にカプセルを継承することは可能ですが、5000年後にそのカプセルの存在自体を知っている人はいるのでしょうか?
奥本さんは、「人から人へカプセルの存在を伝える意義」と「大阪の人々だけでなく、皆さんひとりひとりがカプセルの番人なのだ」と語ってくれました。
16mmフィルム《表情1970》デジタルリマスター上映会
日時:2025年5月3日(土・祝)
全3回 ①10:30~ ②13:00~ ③15:30~
※入れ替え制、各回75分程度
※各回30分前に4階会場前にて整理券を配布
会場:大阪歴史博物館 4階 講堂
定員:各回250名
参加費:無料(ただし、常設展観覧券が必要)

特集展示「オープン the タイムカプセル」
期間:2025年4月16日(水)~2025年6月23日(月)休館日:火曜日
会場:大阪歴史博物館 8階 特集展示室
時間:9:30~17:00
観覧料:おとな600円、大学・高校生400円、中学生以下無料

公式HP  https://www.osakamushis.jp/
取材・文 いずみゆか
奈良を中心に関西の文化財やミュージアムを訪ね歩くのが大好きなライター
miyoka
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