行ってみよか

女性画家・島成園の生き方に感銘を受けて セラーバー・池上祐子さん(バーテンダー)

2023.12.28

女性画家・島成園の生き方に感銘を受けて セラーバー・池上祐子さん(バーテンダー)
リーガロイヤルホテルの「セラーバー」で働く池上祐子さん。数々のカクテルコンペティションで優勝し、カクテルでハッピーな魔法をかけるバーテンダーです。
地元・和歌山県のバーで働いていたある日、お店の常連さんが連れてきた人は、関西バーテンダー界のレジェンド・古澤孝之さんでした。たくさんの賞を獲り著書も出している、リーガロイヤルのマスターバーテンダーです。その出会いがきっかけとなり、リーガロイヤルに入社し、セラーバーで働き始めます。
―バーテンダーという職業との出会いは?
成人したとき、叔父から「初めてお酒を飲みに行くのであればプロがお酒を扱うお店に行ったほうがいい」とアドバイスを受け、地元のバーに連れて行ってもらいました。
もともと人とかかわる仕事をしたかったのと、手に職をつけたいという思いを持っていたところ、そのバーで出会ったバーテンダーのかっこいい姿や、スマートな接客スタイルや知識の豊富さを目の当たりにして、「これは究極の接客業ではないか」と思い、バーテンダーを目指すことにしました。
―どういったところが醍醐味ですか?
バーテンダーという仕事は、カウンターの中でお客様と会話しながら即興でお酒を作るという特殊なスタイルの仕事ですよね。そこが気に入っています。
もし初見のお客様にお任せされたら、お好みのテイストやアレルギーの有無などを聞いてから、その方のイメージに合うカクテルを作ります。身に着けていらっしゃる物の色からヒントを得ることが多いですね。
フィットネスで汗を流してきたというお話を聞けば少しさっぱり目にしたり、常連のお客様のご様子がちょっと疲れているように見受けられる時には少し甘めにしたり。同じカクテルでもお客様のその時の状態に合わせてレシピをこっそり変えます。例えば、使うお酒がブランデーであればタイプを変えてみたり、ブレンドの割合を変えてみたり。季節によって使用する銘柄を変えることもあります。
―数々のタイトルを獲っていますね
カクテルのストーリー、ネーミング、コンセプト、見た目のすべてがお客様に伝わりやすいという点で評価されているのかなと思っています。経験的には「何を作りたいのか」というストーリーを決めてからカクテルを作ると評価していただくことが多いように感じています。

―ストーリーですか?
はい。ストーリーを作るのに、お酒が生まれた国の歴史から調べます。バックボーンから知りたいんです。そこから土地、蒸留所、蒸留所の歴史などへとフォーカスしていきます。たどり着いたら自分なりのタイトルをつけて。
例えば2022年に参加したカクテルコンペティションは、現存するアメリカ最古のバーボン蒸留所のお酒を使った大会でした。歴史をたどると1773年の創業以来、災害、火事、禁酒法、コロナなど乗り越えてきたということを知り、黄金の軌跡を描いているんだなと思い至ったので名前を「Golden Locus(黄金の軌跡)」としました。続いて、見た目はゴールドに、お料理と合わせるのでハーブを使って、など決めていきました。ビジュアルと味わいは最後になります。
言葉遊びも含めて、いろんなところから受けるインスピレーションを大切にしています。カクテルを作るのに全然関係ないと思われる歴史から学ぶことは、自分の引き出しを増やすために必要なことですね。
映画や本からも、海外の文化や自分が経験しえないようことを知る、いい機会を得ています。
休日も気が付いたらお酒のことを考えていますね(笑)。
―『女性画家たちの大阪』という展覧会に合わせたオリジナルカクテルを作られました
「大阪の女性画家が美人画を描いた歴史をたどる展覧会を大阪中之島美術館で開催するので、オリジナルカクテルを作ってほしい」という依頼を受けました。
これまで日本画に触れた経験があまりなく、実は島成園の名前も知らなかったくらいです。でも、時代背景をみていくと女性が自由に生きづらい時代に、師匠にもつかず男性社会の中で職人として絵を描いていた方だと知りました。どんどん掘り下げていくと、本当にこの時代の女性が画壇で活躍するのはしんどかっただろうけれど、きちんと作品と結果を残している。しだいに弟子や賛同する女性画家たちが周りに増えていった、ということも知り、すごい方だなと感じました。

最初は展覧会を訪れた方がわかりやすいカクテルを作らないと、と思っていたので、チラシのメインビジュアルの「桜花美人」をそのままに、と安易に作っていました。でも調べていくうちに「そんな簡単なカクテルではだめだ」と思い始めて。最初から作り直しました。本で知った「桜梅桃李」という四字熟語を引っ張り出して、自分らしく生きてきた女性たちを強くイメージしてカクテルに落とし込みました。「それぞれが美しい花を咲かせるように、他人と自分を比べることなく、その人らしく生きる」という意味を含む、仏教でも使われる素敵な言葉です。
―“『桜梅桃李』~自分らしく生きて~” はどんなカクテルですか?
使うグラスは和食器ではなく、「桜花美人」に描かれている女性が持っていたら美しいだろうな、と思うクラシカルな洋食器を使います。おしゃれでモダンな世界観がおもしろいかな。 
『桜梅桃李』という題名に合わせて、材料は桜、梅、桃、アンズでできたリキュールに、「和美人」という日本のクラフトジンを合わせ、自分らしく生きてきた女性画家たちの力強さをスパイス(日本の山椒)で表現しました。かんざしに見立てて飾るのはチェリーではなく、ブラックオリーブです。島成園の訴えかけるような力強さを斬新さで表現しました。

『桜梅桃李』~自分らしく生きて~(2,530円)2024年2月25日(日)までhttps://www.rihga.co.jp/osaka/restaurant/fair_list/nakka-art-collabo-cocktail

島成園は女性日本画家の草分け。ひとりで道を切り拓いていくなんてすごいなと思います。ただの美人画ではなく、時代を風刺するような絵を、周りから批判されながら描き続けていたところも尊敬します。理不尽なことに立ち向かう女性がこの時代からいらっしゃったんだな、と知れば知るほどのめりこむ面白い題材で、私にとっては運命的な出会いだったと思っています。
―これからの夢は?
セラーバーで培ったバーテンダーのスキルを活かしつつ、ホテルのレストランサービスも学びたいです。リーチバーのカウンターの中にはまだ女性バーテンダーが入ったことがないので、許されるならそこでも力を発揮したいです。世界大会での優勝は目標ですし夢です。
バーテンダーはずっと続けたい。最初はタイトルを獲って地元に帰ろうと思っていたけれどこのホテルが好きになっちゃって(笑)。ゆくゆくは憧れの古澤の後に続いて、マスターバーテンダーとなって後輩を指導していきたいです。
(取材後記)
展覧会で絵を鑑賞することは、単に「みる」ということではなく、絵をみて「何を感じるのか」、「なぜそう感じるのか」を鑑賞後に思い返すところまでが楽しいですよね。大阪中之島美術館からセラーバーまではぶらぶら歩いて約10分。池上さんがつくるカクテルを飲みながら、余韻に浸るのも素敵な時間の過ごし方ですね。
池上祐子
2014年リーガロイヤル入社 セラーバー配属
【主なコンテスト入賞歴】
2017年「LA MAISON COINTREAU 2017 JAPAN FINAL」総合優勝
2017年「LA MAISON COINTREAU 2017 ASIA FINAL」総合準優勝
2020年CT SPIRITS JAPAN COCKTAIL CHALLENGE ココカヌー部門最優秀賞
2021年第8回HBA/KOKUBUカクテルコンペティションBUFFALO TRACE CHALLENGE 優勝(ベストテクニカル賞とダブル受賞)
リーガロイヤル セラーバー https://www.rihga.co.jp/osaka/restaurant/list/cellarbar
17:00-24:00
大阪市北区中之島 5-3-68 リーガロイヤルB2階
06‐6448-0327

展覧会概要

『決定版! 女性画家たちの大阪』 https://www.ktv.jp/event/wosaka/
【期間】2024年2月25日(日)まで開催中
【時間】10:00‐17:00(入場は16:30まで)
【会場】大阪中之島美術館 4階展示室
※休館日:月曜日(ただし2024年1月8日、2月12日は開館)、および2023年12月31日、2024年1月1日
miyoka
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