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宮澤エマ、トラウマを抱えた看護師を演じる『マウンテンドクター』

2024.07.29

宮澤エマ、トラウマを抱えた看護師を演じる『マウンテンドクター』
宮澤エマさんが新ドラマ『マウンテンドクター』で日本でも珍しい山岳看護師・鮎川玲を演じています。山岳医療という過酷な現場を舞台に、どのように役柄に向き合っているのでしょうか。詳しくお話を伺いました。

― 鮎川玲は日本で数えるほどしかいない山岳看護師ということですが、宮澤さん自身は登山にどのぐらい親しまれていますか?

ほぼゼロです(笑)。ハイキング好きの父に付き合って旅行にいく程度で、日常的に山に登るかというとまったく。シティーガールですね。

― 山岳看護師として画面の中で説得力を出すために何か特別に準備したことはありますか?

山岳看護師に認定されるためには、山岳医療の知識だけでなく、クライミングや登山技術、ロープワークも求められます。特殊な職業のリアリティを出すために、実際の山岳看護師の方々の活動をSNSやYouTubeで検索して勉強しました。
また、ジムでの体力作りを強化しました。「無限階段」というトレーニングマシンがあるんですけど、それを1日30分くらい、週5日通って体を鍛えました。ジムに行った程度ではと思いつつも、あまりにも軟弱では説得力が出ないなと思って、プロテインを飲んで頑張りました(笑)。
― 体力作りをされて、目に見えて変化したことはありますか?

だんだんとマシンの速度を上げられるようになって、かなり体力がつきました。ドラマの中で、玲が急いで山荘に駆けつけるシーンがあります。経験豊富な山岳看護師なので、息切れするようなペースで登っては患者を助けられないので、どのくらいのペース配分ならバテないか計算しながら登っているんだろうなと、トレーニングを通じて想像できるようになりました。

― 玲はもともと山を愛していたはずなのに、何か理由があって心を閉ざしているような印象です。クールかつシニカルな性格の玲を演じる上で心掛けていることはありますか?

第1話で登場する玲は、主人公の歩(杉野遥亮)の目線から見るとあまりにもそっけなくて、こんな職場に来たら嫌になるだろうなと思いました。クールな人物ですが、明らかに過去に何かを抱えて心を閉ざしていることが読み取れます。昔の玲は180度違う性格で、山荘の看板娘で笑顔も多い山ガールでした。彼女の身に起きたある事故が心に大きな影響を与え、7年の月日が経っているにもかかわらずトラウマになっていて、重大な事件を起こしてしまったことへの戒めから心を閉ざしています。
若さゆえの浅い考えで山に向き合っていた玲が、痛い思いをして現実を知り、人と深く関わることで傷ついたり傷つけたりすることを恐れて、あえて悲観的なものの言い方でバリアを張っている感じです。
でも、MMTメンバーとの関係性を築いていくことによって、だんだん本来の彼女らしい真面目でかわいらしいところが出てくるといいなと思っています。
― 本来の玲に戻っていくということでしょうか。

本来の姿に戻るというよりは、もう一度スタート地点に立つ感じですかね。4話で彼女のトラウマと向き合う場面があります。玲は厳しい形で人生の教訓を学ばざるを得なかった。辛い経験を乗り越えて、ふたをしていた心と、山と向き合い、これから先の生き方を自分で整理して再出発するようなイメージですね。

― 玲は歩やMMTのメンバーと関わる中で、少しずつ変化していくようですね。展開が進む中で、初回の玲とのギャップをどのように演じていこうと考えていますか?

初回の頃の玲が、歩に対して冷たいのは、もしかしたら過去の自分に似ているものを感じていたからかもしれません。1話での歩は山岳医療に関わるつもりはなく、しかたなく山岳診療科に入ってきたという印象ですが、2話、3話と進むにつれて、彼が覚悟をもって山岳医療に向き合っている姿が見えてきます。
歩は善意の塊というか、よかれと思っていろんな行動をとるんですけれど、それがたまに空回りしてしまったりする。玲からしてみると、最初はそういった歩の姿勢に対して否定的だったけど、彼の一生懸命さを見ているうちに「これって私がベースに持っていたものだ」と気付かされてしまう。嫌だと思いつつ、でも感化されずにはいられない。山が嫌いだと言いながらも、玲は山との関わりを完全には断ち切れていないんです。7年間まったく山と向き合っていなかったわけではないと思います。
祖父が山荘経営をしている事情もあって、玲は山から完全に離れられない生活をしています。それでもなるべく山との関わりを遮断して看護師として働き、必要最低限のことでしか関わってこなかった。そんな玲が、歩のおかげで、歩のせいで、再び山での危険な医療行為に関わらざるを得なくなる。山での危険な医療行為は、本当に生死を分けるようなシチュエーションばかりなんです。今ここで治療しないと患者が命を落とすかもしれない。重大な判断を迫られます。中途半端な気持ちではとても対応できません。
そういった状況で歩と一緒に行動していくことで、玲の中にあった覚悟や山に対する気持ちが否応なしに呼び起こされ、少しずつ変化していくんだと思います。
― 玲は歩のどういうところに惹かれていると思いますか?もしご自身が玲の立場だったら、歩の魅力は何だと思いますか?

ありきたりかもしれませんが、やはり歩のまっすぐなところだと思います。このドラマの特徴として、生死を分ける重大な局面が多く描かれています。例えば、一方の遭難者を救えばもう一方を見捨てざるを得ないような状況です。
歩は医師として難しい決断に直面することが多いのですが、彼の考えは筋が通っていて、常に善意に基づいて行動していることが伝わってきます。
結果的に救えなかった命があったとしても、みんなが「何が正しかったのだろう」と振り返る中で、歩の決断のプロセスには邪念がなく、純粋な使命感から来ているのが分かるんです。
医療現場は死と隣り合わせで、死に対する感覚が麻痺(まひ)することもあると思うんです。でも歩は一つひとつの死をすごく重く受け止めていて、そのひたむきさは玲だけでなく、周りの人を巻き込む力がある。歩の、愚直とも言えるほどのまっすぐさ、そして自分の使命に向かって突き進む姿勢が、玲の目には魅力的に映っているのではないでしょうか。
― 宮澤さんご自身のことについてお聞きします。舞台で活躍されていて、最近はドラマなど映像作品でも宮澤さんの姿を見かけることが多くなってきました。演劇と比べて、映像におけるお芝居の楽しさや難しさはどんなところに感じていますか。

お芝居に向き合う上でのベースにあるものは、舞台も映像も違いはないと思います。ただ、舞台の場合、2か月ほどリハーサルをして、同じ公演を1〜2か月続けますが、映像作品ではほぼリハーサルをしないで、その日会った俳優さんたちと演技をします。使っている筋肉がちょっと違う感覚でしょうか。
舞台の場合、幕が開けばお客様からの反応を感じることができますが、映像作品では監督のOKがすべてです。自分の演技が視聴者の目にどのように映るのかわからないまま撮影が進んでいくので、常に自問自答を……それは舞台も同じですが、気にしなければいけないところが全然違いますね。

まだまだ試行錯誤の毎日で、映像の経験はまだ少ないですし、一度たりとも自分の演技に満足したことはありません。それは舞台でも同じですが、映像作品は形としてはっきり残るので、自分に突きつけられるものが大きい。まばたき一つの動作でさえ意味合いが変わってしまうこともあり、本当に毎回の撮影が挑戦ですね。今でも家に帰ってから反省会の日々が続いています。
miyoka
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