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開館1周年、大阪・扇町の劇場に見えてきた課題【劇場編】

2024.10.24

開館1周年、大阪・扇町の劇場に見えてきた課題【劇場編】
大阪メトロ堺筋線扇町駅5番出口から徒歩1分。扇町通沿いでひときわ目立つ赤壁の建物が、2023年10月に開館した文化複合施設「扇町ミュージアムキューブ(以下OMC)」です。元水道局だったこの土地を大阪市が売却する際、地元から要望のあった「街ににぎわいをもたらす文化施設」の併設を条件とし、その結果、「医療複合施設(i-Mall)」が生まれ、その中に、病院(医誠会国際総合病院)や、劇場と映画館の機能を持つOMCが入るという、全国的にもあまり例のない施設が誕生しました。

扇町ミュージアムキューブ(大阪市北区)

扇町には、1985年~2003年に「扇町ミュージアムスクエア」という複合施設が存在し、関西のカルチャーシーンの中心となっていました。そのスピリットを受け継いだ施設として期待されたOMCの開館から、早くも1年が経過。運営側も利用者側も、OMCに夢を見る段階から「では実際に、何ができるのか?」を考えるフェーズに突入しています。OMCチーフプロデューサー・重田龍佑さんにお話をうかがいました。

OMCチーフプロデューサー・重田龍佑氏

OMCは、1つの建物の中に異なるサイズのスペースが集積された「シアターコンプレックス」の施設で、全部で10室のスペース(CUBE)で構成されています。「CUBE01」は200~250席の劇場、「CUBE02」は平土間のフリースペース、「CUBE03」は主に「扇町キネマ」というミニシアター、「CUBE04~10」は音楽やダンスの練習場として利用されています。かつての扇町ミュージアムスクエアのように、多ジャンルのカルチャーを発信する文化の交差点のような施設です。
「新しい施設なのに注目していただけたのは、やはりこの土地や皆さんの記憶に今も根付いている、扇町ミュージアムスクエアの存在が大きかったと思います」と語る重田氏。オープニング時には、数多くの演劇・映画・現代アートの企画が組まれ、各方面で大きな話題となりました。そこから1年が経って見えてきた課題は、現在の関西のカルチャーシーン……特に一昔前なら「サブカル」と呼ばれた表現の現場が抱える現状そのものでした。

「CUBE03」は主に「扇町キネマ」として映画を上映

「CUBE01」は、在阪団体の利用だけでなく、首都圏の団体の関西公演会場に選ばれるケースも増えましたが、重田さんは「地元の団体に継続して使っていただくためには、劇場自体の使いやすさだけでなく、それぞれの観客層を増やしていくことも重要なテーマ」と語ります。

「サブカルチャーブームで育った世代の方々って、演劇、映画、アートなどに関わらず、好みのものを探して積極的に見てみようとされることが多いと思うんです。それに対して、若者層ではジャンルを横断して、なにかを鑑賞するケースが減っているのではないでしょうか。ネットで自分の知りたいことにピンポイントでたどり着きやすい分、目当て以外の情報に触れるチャンスが少なく、知らないものに手を出しづらい。偶然の出会いの楽しさが、減ってきていることを感じます」。

雑誌や町中で思わぬ情報を見かけて「よくわからないけど、気になるから行ってみようかな」と新しい出会いにつながることが、起こりにくくなっている現在。さらに、若者層に訴求力がある同世代のクリエイターたちの情報発信の手段も、いま変革期を迎えているのではないか、と重田さんは指摘します。

「CUBE01」

「コロナ禍を経て、先輩たちが若手にノウハウを伝えるという文化が途切れてしまい、宣伝のやり方への個々の悩みを聞きます。また中止や延期のリスク負担が、クリエイター個人に大きくかかる状況が続いたことや、大人数ではなく個人や小集団で活動するような変化によって、大規模なチャレンジをしづらくなっている現状もあります。小さな会場であればつながりがある知人だけで埋めることもできますが、一方で新しい観客を開拓するにはどうすればよいのかという悩みを感じます」。

そこでOMCは、次世代を担う人材育成をテーマにした事業を、小規模ながら継続開催しています。そこに集まった声を元に、舞台専門分野の入門ワークショップや、宣伝や制作を学ぶプログラムも増やしていく予定だそう。そしてクリエイターの次は観客……特に地元の人たちに来てもらうための仕掛けを考える上で、大きな鍵となるのが1階のコミュニティサロン「マチソワ」だと言います。
「マチソワは店主日替わり制の談話室です。自分の得意なことのレクチャーをする人もいるし、見てきた芝居や映画の感想をお話する人もいるので、『今日は誰の番?』と通うご近所さんなんかもおられます。それがOMCでやっていることに興味を持ってもらう、良い入口になるはず。最初はお茶を飲むことから始まって、マチソワ内の講座、次第に館内での映画、演劇……とステップを上がってもらえたらいいなと思っています」。

コミュニティサロン「マチソワ」

ここから本格的に、クリエイターも観客も集い、新しい出会いを創造する文化芸術の拠点となることを目指していくOMC。そこでキーワードとなるのは「継続」です。
「人と場を育てていくことが、劇場の役割ではないかと考えています。若い人たちが継続的に活動を続け、はじめは小さな場所から始まり、やがて大きく羽ばたいてもらえるように。そして『ここに来れば、見たことのないものが見られる、新しい体験ができる』と言ってもらえる拠点になれるよう、長く劇場を続けていけたらと思います。5年後10年後に、地元の人たちにとって不可欠な場所と思っていただけるよう、努力していきたいです」。
商業施設のように、成果をすぐに数値化することができない分、その存在意義を理解されにくいのが、育成面を重視する文化施設の宿命。だけど近年は、地元の人たちを巻き込んだり、何らかの還元ができる企画を行うことで、地域の重要な拠点とされる施設も生まれています。その先駆けと言える「扇町ミュージアムスクエア」も、やはり世間に認められるまで、ある程度の年月がかかっていました。ここからOMCの人たちが、どのような形で大阪の街とカルチャーシーンを支えていくか、厳しくも長い目で見守っていきたいです。
扇町ミュージアムキューブ1周年企画開催中。
詳しくは扇町ミュージアムキューブHP https://omcube.jp/
取材:吉永美和子
大阪在住のフリーライター。WEBマガジン「Lmaga.jp」や雑誌「SAVVY」「Meets Regional」などで、主に関西の演劇にまつわる記事を執筆している。
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