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サリngROCK「熱と人」、OMCに寄せる思い【劇団編】

2024.10.31

サリngROCK「熱と人」、OMCに寄せる思い【劇団編】
2024年10月に開館1周年を迎えた、大阪・扇町にある複合文化施設「扇町ミュージアムキューブ(以下OMC)」。かつてこの地にあったカルチャーの拠点「扇町ミュージアムスクエア」(2003年閉館)と同じように、文化で街を盛り上げる場所として期待されたOMCは、その目標にどこまで近づいているのでしょうか?
関西で活躍する作家・演出家・俳優のサリngROCKさんに、作り手の視点からお話をうかがいました。
2023年に、出演映画『BAD LANDS/バッド・ランズ』で「スポニチグランプリ新人賞」を受賞して注目を浴びたサリngさん。普段は俳優・山田蟲男さんとの2人劇団「突劇金魚」で、大阪を拠点に活動しています。OMCのオープニングイベントでは、約30席のフリースペース「CUBE05」と、約250席の劇場「CUBE01」で立て続けに作品を発表し、OMCの注目度を高めることに貢献しました。

OMCオープニングイベント『小さいエヨルフ』(2024年・第2回関西えんげき大賞優秀作品賞)/『少年はニワトリと夢を見る』

「私は劇場(の設備)にそんなに多くを求めないので、OMCができるという話を聞いた時も、特に『これがあったらいいな』みたいなことは考えなかったです。でもオープニングイベントとして『CUBE05で、突劇金魚のアトリエ(※民家を改造した小規模なスペース。2020年クローズ)でしていたような公演を』というオファーがあった時は『あれができていたのは、稽古期間から本番を迎える場所で準備ができていたからなので、CUBE05で事前に稽古ができるなら』とリクエストしました。そうしたら、開館1ヶ月前から出入りできるようにしてくださったんです。技術的な問題が出た時も、スタッフの人たちが親身に考えてくださったおかげで、公演を実現できました」。
現在サリngさんは、11月にOMCで開催する突劇金魚の公演の稽古中。リピートをした理由を問うと「今回は演出が相方の山田で、プロデュースも彼がしているので、OMCを会場に決めたのは山田の方なんです。理由は特に聞いてないのですが、おそらく客席数が求めていたサイズだったのと、前回の利用の際に親身になってくれた記憶があったんだと思います」と説明。そしてサリngさんはOMCの利点として、入りやすそうなイメージと、劇場の中にいろんなサイズのスペースがあることのユニークさを上げます。

『墓場のオサムと機嫌のいい幽霊2』稽古の様子

「観客として劇場に行く時、何だか入りにくそうな雰囲気の所にあったら、やっぱりちゅうちょするじゃないですか? OMCは交通の便もいいし、建物全体がキレイで明るくて、すごく入りやすい印象。やっぱり『キレイやな』と思えるのって、施設にとって大事なことだと私は思っています。あとは250席の劇場から、10人ぐらいしか(観客が)入れないようなスペースまで、いろんなサイズがあることに、見る側としても作る側としても、テーマパークのような面白さを感じています」。

劇場の設備面に関しては、OMCに限らず、特に大きなこだわりを持たないというサリngさん。それよりも劇場で一番大事なのは「スタッフの温かさと熱意なんじゃないか」と、話す中で気づかれたようでした。
「どんなに設備が良くても、スタッフさんの話し方が怖い劇場は、利用をためらうこともあると思います。逆にスタッフさんが劇団に協力的な所は、全部が整っていなくてもなんとかなるんです。それこそ最初にお話した、突劇金魚のOMC初公演の時のように、スタッフさんがどれだけ利用する人のことを考えて、熱く動いてくれるのか。それによって、この劇場でしかできないという作品が生まれたりするし、やっぱり最後は人と人の関係なんじゃないでしょうか」。

またOMCが今後地元密着を深めていくために、どういったスタンスを目指せばいいのか? については、サリngさんは一つのヒントを出してくれました。

OMCオープニングイベント『墓場のオサムと機嫌のいい幽霊』(2023年)
撮影者:沈美和

「以前(作・演出家の)タニノクロウさんが、富山公演を提案してくださった時に『富山はちゃんとお客さん来るよ。俺が飲み屋を1日4軒回って、劇場に来る人を増やしたから』とおっしゃってくれたんです。タニノさんは劇場のスタッフさんではないんですけど、そういう風に劇場の人が地域のことを把握したり『うちに来たら絶対にチケットが売れる』と土台を作ってくださるという、地域の人と劇団をつなぐ存在でいてくれたら、使う方としては心強いです。とはいえOMCにすべてを期待せず『(劇場が)やれないことは自分たちでやる』という気持ちも持っておきたい。界隈のお店に飲みに行ったり『あそこに劇場あるんですけど、そこで演劇やるんですー』なんて言って宣伝するなど、私たちからも地元に関わっていくことを考えたいですね」。
この記事で何度か引き合いに出している「扇町ミュージアムスクエア」は、劇場の真ん中に謎の2本の柱が建っているという、ハード的には欠陥の方が多い施設でした。しかしその弱点を帳消しにするほど、愛情深く劇団の公演実現や宣伝活動に付き合うスタッフをそろえていたおかげで、日本でもまれに見るほど、誰からも愛される施設に育った経緯があります。
「継続がテーマ」というOMCにも、劇場が中心となってクリエイターと地元をつなげることで、ここから新しい文化を生み出していくことを期待したいと思います。

サリngROCK(作家・演出家・俳優)
映画『BAD LANDS バッド・ランズ』(第78回 毎日映画コンクール新人女優賞、おおさかシネマフェスティバル新人女優賞)『小さいエヨルフ』(2024年・第2回関西えんげき大賞優秀作品賞)

取材:吉永美和子
大阪在住のフリーライター。WEBマガジン「Lmaga.jp」や雑誌「SAVVY」「Meets Regional」などで、主に関西の演劇にまつわる記事を執筆している。
OMCのオープニングイベントとして2023年12月にサリngROCKさん作・演出で上演された作品が2024年11月に『墓場のオサムと機嫌のいい幽霊2』となってOMCに帰ってきます。今回は俳優としても出演されます。

突劇金魚プロデュース GoldFishTheatre 第6回公演 『墓場のオサムと機嫌のいい幽霊2』
【日時】2024/11/28(木) ~ 12/01(日)
【会場】扇町ミュージアムキューブ・CUBE01 大阪市北区南扇町6-26
http://kinnngyo.com/lp/hakaba/
https://omcube.jp/event/page/2/
miyoka
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