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単なる退屈しのぎ?茜(五百城茉央)が良心のあぶり出し

2025.04.25

単なる退屈しのぎ?茜(五百城茉央)が良心のあぶり出し

『MADDER その事件、ワタシが犯人です』3話レビュー

乃木坂46の五百城茉央さんが地上波ドラマ初出演&初主演をつとめるドラマ『MADDER(マダー)その事件、ワタシが犯人です』の第3話が24日深夜に放送されました。過去2回では、偏差値78超の進学校・清爛学園でも屈指の天才・仲野茜(五百城)が、日常の退屈さを埋めるために学園内で人知れず事件を起こし、同級生や教師らにその真相を追いかけさせたり、困惑させたりする様子が描かれていました。

今回の第3話でも、また茜が誰にも気づかれないように学園内に波風を立てます。それは、進路に大きな影響を与えるとされる校内テスト「清爛統一」が中止となった出来事への関与。中止の原因として疑われるのが、試験のペーパーレス化に対する古文教師・箕輪(おかやまはじめ)の反発です。茜は前回同様、その事件の背景を同級生たちに探らせるように静かに仕向けていきます。

人間の悪趣味さの「あぶり出し」

1、2話では、学内で発生する事件の謎解きを中心にしつつ、若者の自意識や承認欲求の暴走、教師ら大人の私利私欲も絡められていました。そんな『MADDER』についてあらためてはっきりと確信できたのは、このドラマはあえて人間の中にある悪趣味さを表現している点です。

もちろん単なる「悪趣味ドラマ」になっておらず、前述したように茜が忍ばせるいろんなヒントを手がかりに進行するミステリーの要素を押し出すことで娯楽性をもたらしていますし、学生たちの間になんとなく漂っている上下関係性など誰もが思い当たる“カーストドラマ”にもなっています。しかし根深いところには、人間の悪趣味さがあります。

たとえば1、2話で学園の象徴だった石像が破壊されましたが、そのため、校長が台座に横領金を隠していたことが発覚します。なぜそんなところに隠していたのか。茜の担任・門倉(なすび)は、副担任・佐々木(イワクラ)に「あえて見つかりそうな場所に隠して、スリルを味わうっていう。前々からそういう変態性、あのおっさんから感じてたんだよ、俺は」と指摘。でも、気づかれていないだけでそういう特殊さは誰もが持っているのではないでしょうか。同時に、私たちはそういうものに対し「あらがえない興味」を抱いてしまうことも、『MADDER』を見ていると認識させられます。

茜がやっていることは、実はそれの「あぶり出し」なのだと思います。今回も茜は、「清爛統一」の中止を通して、人間の悪趣味なところをあぶり出そうとします。それは「人間の良心を試す」ということ。

茜は、同級生の江藤(樋口幸平)、宮内(山下永玖)に、ペーパーレス化を反対する箕輪のパソコンのパスワードのありかを教え、「清爛統一」中止の内情を調べさせるように誘導します。江藤、宮内は箕輪の研究室に忍び込み、パスワードを手に入れてパソコンを盗み見ようとしますが、いざというとき、お互いに躊躇いが生まれるのです。そこで二人はこういうやりとりをします。

江藤「(エンターキーを)打つ瞬間に来るわ。なんかこう、来る」
宮内「来るよね。罪悪感の波ね」
江藤「呵責(かしゃく)な、良心の」

あなたは好きな人のスマホを盗み見ますか?

この場面で、多くの視聴者の方の頭によぎった光景があるのではないでしょうか。それは、妻や夫、もしくは恋人なんかのスマホをこっそり見るという行為です。

相手がぐっすり寝ていたり、席を外したりしていて、スマホにロックがかかっていない状況だったら、みなさんはそれを見ますか? 相手になんらかの疑わしいことがあった場合はどうでしょうか。こっそり見るということを断念できますか?

これはあくまで筆者の推察ですが、相手のことを思っていれば、思っているほど「ダメだ」と分かっていても見てしまうのではないでしょうか。自分が持っている相手への疑いをはっきりと晴らしたい、そして安心したい。もしくは、自分の思いをより盤石なものにしたい。「自分が愛する人はやっぱり潔白なんだ、大丈夫なんだ」と確信を得たいから、見る。そういう場合が多い気がします。ちなみに筆者は悲しいかな、パートナーに対してそこまで深い思いを持ったことがないので、スマホをのぞき見ることへの興味が一切ありません。なんだかそれは、それで……。

一方、スマホやパソコンって自分が見たことがないパートナーの姿が秘められているものでもありますよね。間違いなく昔のいろんな写真や、LINE、メールのやりとりが残っています。現在進行形で異性や元恋人とやりとりをしている場合もあります。自分に対する愚痴を誰かに言っていることも、もちろんあるはず。大してやましいことがなかったとしても、気になるものですよね。そういったことをこっそり調べたり、覗き見したりするのって、いろんな感情が交錯するのではないでしょうか。「いけないことをしている」というスリルを覚える場合もあります。傷つくのが分かっていてもあえて見たいという屈折した愛情の形も、あるかもしれません。

そんなときはきっと、自分の中の天使と悪魔が激戦を繰り広げるはず。良心が勝つか、悪趣味が勝つか。江藤、宮内が、箕輪のパソコンの前でまごつく様子は、私たちの日常にも見に覚えがある光景と重なります

『MADDER』はそういう、なんとなく厭(いや)な部分を見せてきますし、思い出させたりもします。そしてなにより、そういうものをあぶり出して退屈を詰めようとする茜こそが一番、悪趣味なのではないでしょうか。
今後、茜が更に人間臭く成長していきます。それは一体何なのか―。4話も目が離せません。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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