見てみよか

「学校嫌い」なスクールロイヤー、“制服裁判”のゆくえは【ぼくほし】

2025.07.14

「学校嫌い」なスクールロイヤー、“制服裁判”のゆくえは【ぼくほし】

『僕たちはまだその星の校則を知らない』第1話 レビュー

磯村勇斗さん主演の月10ドラマ『僕たちはまだその星の校則を知らない』。本作は、磯村さん演じる弁護士・白鳥健治が、少子化による影響で共学化した「濱ソラリス高校」で、スクールロイヤー(学校弁護士)として学校のさまざまな問題と向き合う学園ヒューマンドラマです。堀田真由さんは健治をサポートする国語教師・幸田珠々を、稲垣吾郎さんは同校を運営する「学校法人・濱学院」の理事長・尾碕美佐雄を演じます。
『僕たちはまだその星の校則を知らない』第1話 幸田珠々(堀田真由)

『僕たちはまだその星の校則を知らない』第1話
幸田珠々(堀田真由)

キラキラしていた健治の世界が濁った理由は「学校」?

冒頭、健治が「誰か」と話しながら過去を回想しています。星空を見上げている幼い健治と母親。青と黄色のモザイク柄に光る結晶が、2人を包み込みます。「お月さまってシャーベットのにおいがするねぇ」と表現する健治。健治の独特な感性を優しい笑顔で受け入れる母親。2人は「星めぐりの歌」を歌い、手元には「双子の星」の本。「星めぐりの歌」は、宮沢賢治が作詞作曲した歌です。自身の作品である「双子の星」や「銀河鉄道の夜」でも登場していて、2021年に開催された東京オリンピックの閉会式の曲としても知られています。

場面は変わり、「学校に通い始めたあたりから、少しずつ世界は濁り始めた。今でもそう。僕は、学校が、嫌いだ」と吐露する大人の健治。キラキラしていたはずの世界が、濁ってしまった理由は何なのでしょうか。

自宅で目覚めた健治は祖母・広津可乃子(木野花)にあいさつし、出かける準備をしています。可乃子に「よかったねぇ、初出勤がお天気で」と声をかけられた健治は「そうだね」と言いつつ、「それを上回る“ムムス”もあるよ」と答えます。「ムムス」という言葉の響き的におそらく良いことではないと思いますが、どういう意味が込められているのでしょうか?
『僕たちはまだその星の校則を知らない』第1話 白鳥健治(磯村勇斗)

『僕たちはまだその星の校則を知らない』第1話
白鳥健治(磯村勇斗)

「制服問題」で不登校になった生徒会長と副会長

健治は「濱ソラリス高校」のスクールロイヤーとして働くことに。男子校の「濱浦工業高等学校(濱工)」と女子校の「濱百合女学院(百合女)」が合併して共学化された同校は「百合女出身の女子生徒が濱工出身の先生に心を開かない」「異性と過ごすストレスで保健室利用が増えた」「部活におけるコートの取り合い」など、多くの問題を抱えています。

中でも、深刻そうなのが「制服問題」。新制服の着用を拒み、前の制服のままの生徒もいます。3年葵組・北原かえで(中野有紗)もその1人。「百合女の制服を着たくて入学したのに」と納得いかない模様。生徒会長・鷹野良則(日高由起刀)と副会長・斎藤瑞穂(南琴奈)の不登校問題も“制服”が関係して、2週間前の朝礼で鷹野がスカートを履いて登壇した日を境に、2人とも登校していません。

三宅副校長(坂井真紀)は、スラックスを履いて登校した斎藤に「そっちだったの?」と言ってしまったことが原因だと考えているようで、翌日からスカートを履いてきた斎藤に「そんなつもり」ではなかったと何度も謝罪したとのこと。本人に謝ったとはいえ、斎藤にとってショックな出来事だったに違いありません。
『僕たちはまだその星の校則を知らない』第1話 北原 かえで(中野有紗)、斎藤瑞穂(南琴奈)、鷹野良則(日高由起刀)

『僕たちはまだその星の校則を知らない』第1話
北原かえで(中野有紗)、斎藤瑞穂(南琴奈)、鷹野良則(日高由起刀)

議長団の北原は、健治と先生たちとのヒアリングで、2人の不登校の原因は「制服に関する校則の曖昧さ」にあると伝えます。「女子のスラックスは良いのに男子のスカートはダメである」点に引っかかる北原は、健治たちに理由を聞きますが、誰も納得できる答えを提示できません。

ヒアリング後に健治と珠々の元へ北原が来て、「学校を訴えたい」と言います。そこへ現れたのは3年桜組の藤村省吾(日向亘)。自分では「高校生らしい髪型」をしているつもりなのに、先生に注意されることに納得がいかない藤村。北原とともに校則に異を唱えたい様子です。「生徒の最善の利益」を確保するため、健治は協力すると宣言し、模擬裁判の開廷が決まりました。

“制服を撤廃”を求める「模擬裁判」のゆくえ

模擬裁判で、原告側である北原と藤村は「制服の撤廃」「清潔な高校生らしさ」の曖昧さを主張します。被告側の尾碕理事長は、制服は生徒たちの個性を奪い、縛り付けるためのものではなく、制服撤廃による貧富の格差やいじめ問題、不審者対策などを理由に挙げ、“声なき声”を大事にすべきだと主張し、原告の請求を棄却しました。稲垣さんから漂うカリスマと、論理立てて話す姿は、理事長そのもの。あんな風に言われてしまっては、異議を唱えたくてもできません。まだ納得していない様子の北原があそこで引いてしまったのも頷けます。

模擬裁判を見ていたのが、こっそり部活にだけ参加していた鷹野。鷹野は、生徒会で一緒に活動していた斎藤がスラックスを着用しなくなったことを疑問に思っていました。斎藤とそりが合わなかった鷹野ですが、生徒会役員として合併準備を進める中で、徐々に仲間意識が芽生えたと言います。

合併後、斎藤は「ただ履いてみたい」との理由でスラックスを着用していましたが、自分の意図しない部分で憶測を呼ぶのが面倒になり、スカートを履くようになりました。そんな斎藤を見て「(スラックスを)履けばいいじゃん」と伝える鷹野。再びスラックスで登校した斎藤に対する好奇の視線に気付いた鷹野は、トルソーに飾ってあったスカートを着用して朝礼に参加します。その日を境に斎藤が不登校になったため、鷹野も部活以外は欠席するように。健治は鷹野が「学校を嫌いになった」と考えていました。しかし鷹野は「学校が好き」とまっすぐな目で伝え、健治はその言葉に衝撃を受けます。そのとき、健治は鷹野から星の光のようなものを感じ取ります。
『僕たちはまだその星の校則を知らない』第1話 北原 かえで(中野有紗)、斎藤瑞穂(南琴奈)、鷹野良則(日高由起刀)

『僕たちはまだその星の校則を知らない』第1話
尾碕美佐雄(稲垣吾郎)、井原久(尾美としのり)

模擬裁判の判決を踏まえて全校生徒へ制服に関するアンケートを取った結果、7割の生徒が新制服を受け入れていました。しかし、自分を含む3割は納得していないと憤る北原。鷹野が「撤廃は無理でも校則の細則を変えることはできるかも」と言い、斎藤が「生徒会で対策を考えよう」と励まします。鷹野と斎藤は、アンケート実施をきっかけに学校へ復帰していました。

1話のラストで健治は「覆いつぶされるみたいな気持ちになる」「息が苦しくなる」のが、学校だと話します。“学校が嫌い”な健治にとって「学校が好き」と言った鷹野や、学校を自らの居場所にするために戦う北原が「すごい」と言います。「“本当の幸い”って、一体なんでしょうね」と呟く健治。宮沢賢治の小説の一節だと気付いた珠々は、何かに飲み込まれるように健治を見つめていました。
『僕たちはまだその星の校則を知らない』第1話 藤村省吾(日向亘)、北原 かえで(中野有紗)

『僕たちはまだその星の校則を知らない』第1話
藤村省吾(日向亘)、北原かえで(中野有紗)

個人的に感じた「ぼくほし」の良さは、「学校に悪い大人がいない」ところです。これまでの学園ドラマでは、分かりやすく「悪役」が登場する印象でした。今のところ、「ぼくほし」に悪い大人はいません。一見、生徒たち目線では厳しく聞こえる言葉も、大人は真剣に生徒たちのことを考えて発しています。三宅副校長の失言も、決して意地悪ではなく心の底から斎藤を心配していたのは伝わります。「模擬裁判」での尾碕理事長の発言も、生徒を守るためのものだと捉えています。

制作発表の際、「“新しい学園ドラマ”が誕生したのではないかと感じています」と磯村さんは話していました。1話を見て、磯村さんの言葉どおり新たなタイプの学園ドラマが始まるワクワク感が生まれました。2話以降も楽しみです。
取材・文:宅野美穂
都内在住のライター。主に、インタビュー記事を執筆。本とゲームと音楽が好き。
miyoka
1