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クイズのように茜の本質にたどり着けない江藤(樋口幸平)

2025.05.23

クイズのように茜の本質にたどり着けない江藤(樋口幸平)

『MADDER その事件、ワタシが犯人です』7話レビュー

SNSで視聴者の分析や考察が深まってきているドラマ『MADDER(マダー)その事件、ワタシが犯人です』。その第7話が22日深夜に放送されました。
第6話では、天才高校生の仲野茜(五百城茉央)が、「中学校全国クイズ大会優勝」経験者のクラスメイト・江藤新(樋口幸平)から誘いを受けて、クイズ研究部交流大会に参加。清爛学園クイズ研究部のライバル校・栃木県立日鞠西高校との試合に臨むことに。ただ茜の目的はクイズの試合ではありません。警察に自首した猟奇殺人犯と思しき青年・黒川悠(山村隆太)のルーツが日鞠町にあると考えたからです。そして茜は、町にたたずむ古い喫茶店を訪れます。

今回の第7話では、黒川がかつてその喫茶店に勤めていたことが判明。また、喫茶店のマスターの姪(めい)と交際していたことも分かります。茜はそこで、黒川による1件目の犯行について話し、その被害者が身元不明であることなどを振り返ります。そうするとマスターは話を遮るなどし、結局、詳細について口を開くことはありませんでした。一方、清爛学園と日鞠西高校のクイズの試合も同時刻に進行。清爛学園は苦戦を強いられます。

『MADDER その事件、ワタシが犯人です』
仲野茜(五百城茉央)

クイズ王・江藤新、茜にまさかの告白

第7話のトピックスはなんと言っても、清爛学園クイズ研究部のエースでもある江藤の愛の告白ですよね。

江藤は、喫茶店へ行く茜を尾行するなどし、さらに以前から彼女の言動を調査していたことも明かされます。その上で江藤は、清爛学園で起きた石像破壊事件、学内テスト「清爛統一」の問題のデータ流出の犯人が茜ではないかと言います。くわえて、かつて見た茜の行動力や人間性に恐怖心を覚えたとも。そして、なぜ茜がもともと乗り気ではなかったクイズ研究部交流大会に参加したのか、開催地である日鞠町に何を探しにきたのかまで疑問を膨らませるのです。

しかし江藤は、そんな茜の悪事を暴いて然るべきところに突き出したり、弱みを握ろうとしたりしている様子ではありません。江藤には別の、二つの気持ちがあったのです。

一つは、クイズの実力者としての血が騒いだのではないかということ。
江藤がクイズにのめり込んでいる理由は、クイズを解いたときに快感が得られるから。江藤は、本当に良いクイズというのは「問いから探さないといけないタイプ」、「謎から発掘する感じ」と話します。つまり、単に出題に対して答えを口にするのはつまらなく、問題自体にいろんな意味や謎が含まれているものがおもしろいと言うのです。そういう深みのあるクイズとの出会いがたまらなく楽しいのだそう。

そしてもう一つは、茜のことを好きになってしまったから。
これは、前述した「本当に良いクイズとはどういうものなのか」に近い部分がありますが、おそらく江藤は、茜のことを調査すればするほど、謎が深まっていく感覚があったのではないでしょうか。そう簡単に答えが見つからず、問題=茜自身からいろんなものを発掘していかないと解くことができない。たくさんのクイズに触れてきた江藤にとって人生最高の「本当に良いクイズ」、それが仲野茜だったのです。

人と人との関係性はクイズではないこと

ところが江藤は、茜に対し「何を考えているのかまったく分からない」とお手上げ状態になります。
で、ここからの江藤がおもしろい。
クイズでは時に「当たってるか、イチかバチか解答しなくちゃいけない局面もある」とし、「今が、俺にとってイチかバチかなんだよ」と茜に愛を伝えるのです。突然の告白を受けた茜からは、食い気味に「ごめんなさい」とお断りの返事が。玉砕した途端、それまでクールに決めていた江藤の“キャラ変”、もしくは“作画崩壊”が始まっていって思わず笑ってしまいました。

この第7話で実感させられるのは、人と人との関係性はクイズではないこと。たしかに人間関係にもイチかバチかの局面はあります。しかしやはり、相手のことが分からないのなら、正解に近づけるように粘ってみることが大切です。その過程の中で、悩んだり、苦しんだり、解こうとしている“問題”が自分自身に跳ね返ってきたりします。

茜にとっては、それが黒川なのです。どんなことでも理解できる茜が初めて出会った「分からないこと」。どうして猟奇殺人を犯したのか。公園で遺体として発見された身元不明女性とはどんな関連があるのか。続く、クラスメイトの篠崎麻友(吉名莉瑠)をどうして殺害したのか。いずれの遺体も左腕を切り落としていましたが、そこには何の意味が込められているのか。なにより、黒川悠とは何者なのか。今、茜はその難問を一つひとつ、丁寧に解いている最中なのです。そうやって黒川のことを分かろうとしている茜にとって、「クイズ王・江藤新」の告白は、そりゃあやっぱり「いやいやいや」という反応になりますよね(笑)。

フラれたあと、クイズの試合に遅れて参戦した江藤。失恋を気合いに変えて挑む江藤は、問題をほとんど聞くことなく解答ボタンを押します。あまりのスピードに、その場にいる全員が驚きます。ただ実際は、焼きがまわっていた江藤は問題のことを分かろうとせず、「イチかバチか」で答えようとしていたのです。その結果、1勝もできずに惨敗。クイズに負けた姿と、茜に完膚なきまでにフラれた様子がしっかりリンクするように描かれていました。

今、私たちはSNSなどを通じてたくさんの人や物事の情報が“分かり”ます。しかしみなさん、それだけで“分かった気”になってはいませんか? 第6話のレビューで「本当のことは見えないところにある」と書きましたが、この第7話も同じことが言えるように思いました。私たちが受け取っている情報は、その人やその物事のほんの一部だけであって、それがすべてではないのです。だからこそ、勝手に決めつけたり、身勝手な物言いをぶつけたりするのは、やはり考えものなのです。そういう意味で茜がもがきながらも黒川のことを分かろうとしている姿は、やってきたことが正しいか、間違っているかは別として、とても必要なことなのではないでしょうか。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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