「片手間と思われるのが一番悔しい」橋本和花子アナ、カンテレ初の“女性アナによるプロ野球実況”への挑戦
2025年6月。開局68年目(当時)のカンテレにおいて、初の「女性アナウンサーによるプロ野球実況」という歴史の扉を開いた橋本和花子アナウンサー。その華々しいチャレンジの裏側にあったのは、「取りつかれたように全試合をチェックする」という、泥臭く圧倒的な準備量でした。
「アナウンサーとして自分にしかない武器を持ちたい」「準備にかけた時間は計算するのも怖い」「片手間と思われるのが一番悔しい」と語る彼女。女性の声による実況への違和感やSNSの厳しいコメントも覚悟しながら、それでもマイクに向かい続ける、橋本アナの並々ならぬ決意に迫りました。
──YouTube公式チャンネル「カンテレNEWS」や「カンテレアナウンサーチャンネル」でも、初めてのプロ野球実況に挑む姿に密着されていましたが、やはり準備は大変でしたか?
今までやってきた仕事と桁違いに準備が大変ですし、これまでとはまったく違うことをするんだというのは最初から分かっていたので。覚悟の上での挑戦でしたけど、それでも大変でしたね。
──プロ野球実況については、自ら手を挙げたとお聞きしました。
そうです。昔から野球が好きで、就職活動の時から言っていました。その中で一番いい反応だったのがカンテレで。ここなら自分の夢をかなえてくれるかもと思って。そして、入社してからも言い続けてきて、いよいよ実現したという感じです。
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──入社してすぐにチャレンジできたのですか?
いえ。2年目から夕方の報道番組『newsランナー』でスポーツコーナーを担当させていただき、ただの野球ファンから、伝え手としての勉強が始まりました。当時は、インタビューを通してその選手の魅力をお伝えすることがメインで、阪神が優勝した際には、歓喜のビールかけにも参加しました。そして3年目から、リポーターやヒーローインタビューなど、野球中継自体に携わるようになったことで、一番の夢であった実況に挑戦したいという想いが強まりました。
そこで、「よし、思い切って伝えてみよう」と。すると、先輩やディレクター、オリックス・バファローズOBの解説の方が、「ほんまにやってみたらいいんちゃう?」と言ってくださって。背中を押してくださったのがすごく大きかったです。
そこで、「よし、思い切って伝えてみよう」と。すると、先輩やディレクター、オリックス・バファローズOBの解説の方が、「ほんまにやってみたらいいんちゃう?」と言ってくださって。背中を押してくださったのがすごく大きかったです。
──カンテレとしては、開局68年目にして初の女性アナウンサーによるプロ野球実況となります。
そうですね。だからこそ、やる意味があると感じましたし、やっぱり自分だけの武器を持つことは大事かなと思っていて。実況デビューしたのが入社5年目のときでしたけど、自分の中で5年という数字は節目だと捉えて、新たな挑戦をしたかったんです。
私はその都度、目標がないと頑張れないタイプで。実況はもともと描いていた夢でもありますし、このタイミングでチャレンジしてみようかなと。カンテレ初というのも、だからこそ頑張りたいなって気合いが入りました。
橋本和花子アナウンサー(カンテレ)
──先ほど「覚悟の上で」とおっしゃっていましたが、思ってた以上に大変だったことはありますか?
慣れていないから、という部分もありますが、準備は本当に大変で、タイパ(タイムパフォーマンス)が悪いと感じましたね(苦笑)。担当しているJ SPORTSのプロ野球実況は、試合の3時間と、その前後を合わせて4時間ほどあるんですが、その1試合を実況するために、オープン戦からすべての試合をチェックしています。それを考えたら、1試合のためにかけた時間は計算するのも怖いぐらいです。
でも、私はまだまだ経験が足りないから、やっぱりこれだけの時間はかかりますし、実力不足は準備で補うべきだと思ってたので。デビューした2カ月後に2回目の実況が控えていたんですが、むしろそっちの方が怖かったです。
でも、私はまだまだ経験が足りないから、やっぱりこれだけの時間はかかりますし、実力不足は準備で補うべきだと思ってたので。デビューした2カ月後に2回目の実況が控えていたんですが、むしろそっちの方が怖かったです。
──デビュー戦よりも?
そうですね。やりがいや達成感は桁違いにあったのですが、2試合目に向けて、またこの準備をやんなきゃいけないんだって思うと、怖くなって。先輩方はうまくやってますし、実力があればもっと効率的にできるんでしょうけど。
──プロ野球は年間143試合あって、公式戦に出場できる支配下選手は1チームで最大70人います。それぞれの選手で1打席ごとに成績も変わってきますし、そのあたりはどうやって勉強されたんですか?
全試合、チェックしています。シンプルに。
──今でもですか?
やっぱり直前の試合だけじゃなく、開幕戦からすべての試合を観ておかないと、その選手がどういう流れをたどってきているかが分からないんですね。今シーズンはすべて、オリックスと北海道日本ハムファイターズの実況を担当するんですが、この2チームの試合は最初から最後まですべてチェックしています。倍速ですけどね。
── さすがに等速だと、1日が終わってしまいますね。
今、13時50分から生放送の情報番組『旬感LIVE とれたてっ!』を月〜金曜で担当しているので、番組が終わってすぐ、16時半頃からオリックスと日本ハムの2試合を聞くっていうのは、まあまあハードですね。もちろん、これからも続けますが。
橋本和花子アナウンサー(カンテレ)
──そう考えると、タイパという意味では良くないですね。
もう取りつかれたように、通勤中もずっと聞いてます。結果はアプリで分かるので、そこまでしている人は少ないと思うんです。でも、私はまず野球実況を耳に慣れさせたいですし、知らないフレーズが出てきたときは調べます。やっぱり聞いていて損はないなと思っていて。
先日実況を担当したオリックスvs日本ハムの試合で、日本ハムのロドルフォ・カストロ選手が投球モーションに入る直前にタイムをとって、あわや乱闘騒ぎという、珍しいシーンがありました。実はカストロ選手、以前もオリックス戦で同じようにタイムをとっていて、オリックスの首脳陣が苦い顔をしていたんです。
その試合も含め、全試合を観ていたので、「実は以前もありまして...」と触れました。すると試合後、オリックスファンの方から「あのシーンを知っていたのはグッジョブ」と、フィードバックをもらいました。まさに、アプリに反映される結果だけでは分からないことだったので、試合を観ていて良かったなと感じました。
──全試合は大変ですが、だからこそ、それが積み重なって生きてくるという。
そうだと思います。野球実況って片手間じゃできないジャンルなので、ちょっと周囲の視線を気にしていたんです。というのも、基本的にプロ野球実況は、実況を主戦場とする男性アナウンサーが取り組むものですが、私は情報番組やバラエティーを担当させてもらっているので、実況が本業ではありません。
もちろん、すべての仕事に全力なんですが、野球ファンの方に「片手間」と見られてもしょうがないのは分かっていて。でも、悔しいのは自分なので、そう思われないだけの準備はやろうと心に決めています。
もちろん、すべての仕事に全力なんですが、野球ファンの方に「片手間」と見られてもしょうがないのは分かっていて。でも、悔しいのは自分なので、そう思われないだけの準備はやろうと心に決めています。
──実況の準備で作った資料も相当な量ですね。
私、アナログ人間なんで。すべて手書きなんです。
橋本和花子アナウンサーが作成した手書き資料
──ちなみに、このオレンジと緑のマーカーの違いは?
オレンジは今季1戦目で必要だったこと、緑が2戦目です。解説の方に聞きたいなと思ったことですね。先輩方はパソコンでまとめていますが…試合の前後に話すための資料も作ってます。見にくくなってきたので、次の実況までに、資料カードをいちから作り直そうと思ってます。
──先日、4回目の実況を担当されましたが、自分の中で成長したことや課題などはありますか?
初挑戦の昨季はどうしても不安で、取材したことや勉強したことを詰め込んだ実況になってしまってたんですね。それは自分本位なので、今シーズンは必要なところで必要な情報を出せるよう、励んでいます。
あとは、「間」ですね。関西人の性なのか、どうしても「間」を埋めたくなって、いろんな情報を入れてしまって。前回は「間」を恐れずに、グッと堪えたタイミングも何回かありました。あくまで試合の描写と解説の方に気持ちよくしゃべってもらうということを、改めて念頭においています。
あとは、「間」ですね。関西人の性なのか、どうしても「間」を埋めたくなって、いろんな情報を入れてしまって。前回は「間」を恐れずに、グッと堪えたタイミングも何回かありました。あくまで試合の描写と解説の方に気持ちよくしゃべってもらうということを、改めて念頭においています。
──でも、それだけ準備をされたら、言いたくなる気持ちも分かります。
まあ、それは自己満足なので。別に今回は出さなくてもね、別の機会で披露できるかもしれないですし。それを理解できるようになったのは、成長かなって思います。
それと、実況の勉強を通して野球に詳しくなったので、普段から選手同士のサインや監督の表情などを、より注目するようになりました。これまでは投手と打者ばかりに目が行きがちでしたが、状況に応じた守備の変化なども自然とチェックできるようになりました。
それと、実況の勉強を通して野球に詳しくなったので、普段から選手同士のサインや監督の表情などを、より注目するようになりました。これまでは投手と打者ばかりに目が行きがちでしたが、状況に応じた守備の変化なども自然とチェックできるようになりました。
──あと、実況といえば試合を言葉で伝えるわけですが、4時間の長丁場でメリハリも必要になってきますよね。
海田智行さん(解説・元バッファローズ)、橋本和花子アナウンサー(カンテレ)
それが一番、大事だと思います。やっぱり女性の声による実況が苦手な方もいらっしゃると思うんです。甲高い声が野球実況にそぐわない面は確かにあると思いますし。なので、声はできるだけ低くしていました。
それでも、ホームランが出たりすると、私も無意識のうちに盛り上がってしまうことがあったので、そこはかなり意識して、抑えることができました。どれだけ内容が良くても、耳障りな実況になったら聞いてもらえないと思うので。
それでも、ホームランが出たりすると、私も無意識のうちに盛り上がってしまうことがあったので、そこはかなり意識して、抑えることができました。どれだけ内容が良くても、耳障りな実況になったら聞いてもらえないと思うので。
──やはり声のトーンによって、その場面がどれだけ緊迫しているのか伝えるのも、実況の大事な仕事ですよね。
そこは本当に難しいし、まだまだできていない部分です。やっぱり緩急はつけなきゃいけないし、声のトーンもそうです。そのあたりはまだ自分の中でもつかめてないので、数を重ねながら探っていきたいです。
──事前の準備と、声の出し方。挑戦の道は続く、といったところですか。
そうですね。とはいえ、この準備を捨てる勇気も必要だと言われるんです。準備段階で作成した資料も大事ですが、そればかり見てると目の前の大事なことを見逃す可能性があるので、先日の試合ではすごく意識しました。
資料に目を落とす時間を減らして、もっとグラウンドで起きていることをひも解けと言われて。たしかにその通りだなと。なので、めちゃくちゃ準備はするんですけど、これを使わず面白くしゃべれるようになりたいです。
資料に目を落とす時間を減らして、もっとグラウンドで起きていることをひも解けと言われて。たしかにその通りだなと。なので、めちゃくちゃ準備はするんですけど、これを使わず面白くしゃべれるようになりたいです。
橋本和花子アナウンサーがまとめた各選手の資料
私、この野球実況のためにSNSの「X」を始めたんです。批判のコメントも覚悟の上でチェックしていますが、その中にも気づきがあるんです。そうか、ファンの皆さんはそういうことを聞きたいんだとか。
実況って本当に奥深いし、正解もないですし。万民に好かれる実況は存在しないですが、折角なら、一人でも多くのファンに喜んでもらえる実況がしたいです。オリックスファンの皆さんはとっても温かくて、すごく親身になって情報を教えてくださいます。勝手ながら、めちゃくちゃ頼りにさせてもらっています。
実況って本当に奥深いし、正解もないですし。万民に好かれる実況は存在しないですが、折角なら、一人でも多くのファンに喜んでもらえる実況がしたいです。オリックスファンの皆さんはとっても温かくて、すごく親身になって情報を教えてくださいます。勝手ながら、めちゃくちゃ頼りにさせてもらっています。
──次の実況試合はもう決まっているんですか。
7月19日(日)と8月に1試合を予定しています。
──最後に。女性アナウンサーによるプロ野球実況、やって良かったですか?
もう、めちゃくちゃ良かったです。今後もずっとやりたいと思っています。とはいえ、女性の声を野球に添えるという部分で、違和感を覚える方というのは一定数いらっしゃると思うんです。
だからこそ、「意外と違和感なかったよ」とか「あ、女性がしゃべってたのか。あんまり気づかんかった」というのが、私にとっていちばんの褒め言葉です。理想を目指してがんばります。
だからこそ、「意外と違和感なかったよ」とか「あ、女性がしゃべってたのか。あんまり気づかんかった」というのが、私にとっていちばんの褒め言葉です。理想を目指してがんばります。
取材・文:服部崇(di;hype)
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