行ってみよか

まさに食のタイムカプセル、25年後に開封される「万博漬け」

2025.07.23

まさに食のタイムカプセル、25年後に開封される「万博漬け」
25年後の実食に向けて、万博パビリオン内で漬けられた梅干し「万博漬け」。アイデアの源は、放送作家の小山薫堂さん。数々のヒット番組を手掛けたほか、「くまモン」の生みの親でも知られる小山さんが、今回の万博ではシグネチャーパビリオン「EARTH MART(アースマート)」のテーマ事業プロデューサーを務めています。

◆パビリオン「EARTH MART」とは?

最先端の技術とテクノロジーがあふれる万博会場において、ノスタルジックな茅葺(かやぶき)の屋根が印象的なパビリオン「EARTH MART」。日本人が育んできた食文化の可能性とテクノロジーによる食の進化を共有しながら、「新しい食べ方」を来場者と一緒に考えようというもので、空想のスーパーマーケットを買い物するように巡りながら、当たり前すぎて考えてこなかった食をリセットし、新しい食べ方と向き合う体験が散りばめられています。
毎日のように食卓に並ぶ卵。日本人が一生のうちに食べる量(約2万8,000個!)をオブジェにして視覚化したり、ひとりの日本人が食べる10年分の食料を巨大カートで表現したり、「海藻」や「発酵」など世界に誇りたい日本古来の食の知恵、冷凍粉砕した食材を3Dプリンターで再成形する未来の冷凍食などを展示。小山さんらしい「ただただ楽しみながら、知らないうちに考えてしまっている」巧みな演出で、もっとも身近にある食について改めて問いかけるパビリオンになっています。

◆2050年の実食を目指す「万博漬け」

その展示の一角で、協賛企業のロゴが入った大きな樽(たる)がずらりと展示されているコーナーがあります。これは単なる宣伝ではなく、近くに寄ると、樽の中が見えるような仕掛けになっていて、梅干しが漬けられているのが分かります。これは、長期保存の利く梅干しを会場内で実際に漬けて、2050年に食べられる引換券を配布。梅干しとともに万博の思い出を未来へ託す、まさに「食のタイムカプセル」です。
「万博漬け」コーナー、奥に見えるのは来場者の思いを託す「絵馬型カード」(2025年撮影/大阪・関西万博)

「万博漬け」コーナー、奥に見えるのは来場者の思いを託す「絵馬型カード」(2025年撮影/大阪・関西万博)

使用する梅は、全国の収穫量の6割以上を占める名産地・和歌山の南高梅。塩は、ミネラル豊富な熊本・天草の天然塩「あまくさンソルト」(本プロジェクトでは、複数の製造者が参画して作るブレンド塩を使用)。6月6日には記念式典が催され、小山さんをはじめ、真砂充敏さん(紀州梅の会会長/田辺市市長)、馬場昭治さん(天草市市長)、紀州梅の会(若梅会)、天草の天然塩製造者さんらが参列しました。

◆深夜におこなわれた、漬け込み作業。

6月某日・深夜。梅の漬け込み作業が静まり返ったパビリオン内でおこなわれました。漬け込みを担当するのは、紀州梅の会・若梅会の会長を務める濱田朝康さん。夜11時頃、大量の梅と塩が運ばれると、パビリオンのスタッフたちも興味津々。今、この目の前にある梅を日本古来の技術を使って、25年後の未来に届ける。そんな絵空事のようなプロジェクトが本格始動することに、ワクワクしている様子。深夜にも関わらず、パビリオン内は熱気に包まれました。

◆この企画ができるのは「梅」しかない。

このプロジェクトについて濱田さんは、「非常にロマンを感じました」と言います。「2050年までの25年という長い時間をかけて、未来とつながる。普段は香の物として口直しなどの脇役的な存在の梅ですが、25年もの時を超えてこれをできるのは『梅』しかない。梅干しだからこそできる企画なのではと思いました」と。
とはいえ、2050年までの長期保存は大変な作業です。濱田さんも「25年間という時間を見据えた保存設計が、最大の挑戦です。梅業界には50年モノなどの古い梅干しもありますが、小分けしたすべての樽の梅を未来に向けて品質を均一に維持し、おいしくしていく必要があります。今後いつ干してどのような形で保存するかをきちんと検討していくことが大変です」と、改めて気を引き締めます。

その一方、「面白いところは、やはり梅がただの保存食としてだけではなく、『万博』という歴史的な節目と産地である和歌山の誇りを込めることで、文化や記憶の継承にもつながるという点。この企画ならではだと思います。25年後、食のタイムカプセルを開くとき、みなさんがどういうことを思い、どういうことを感じるのか。とても楽しみです」と、大きな期待を寄せています。

◆健康、文化、そして時間という視点。

濱田さんに「日本を代表する食文化・梅が今後、どんな風に世界に広がってほしいですか?」と尋ねてみました。「私は、『健康』と『文化』、今回の万博の切り口でもある『時間』の3つで広まってほしいです。梅は世界に誇れるスーパーフード。そして、『文化』。ひと手間かけておいしいものにするところが非常に日本民族らしいし、おばあちゃんが6月に梅を漬けていたなど、そういった背景やストーリー、情緒を感じることもできる素晴らしい文化だということを伝えたい」と。

そして、「最後に『時間』です。今回の企画で、時間という視点をもらったことがすごくありがたかったです。くどいようですが、今漬けて25年待って食べる。(小山)薫堂さんもおっしゃっていましたが、塩蔵というシンプルな保存方法があり、それを未来に伝えたい。フードテックが進化する中でも、こんなにシンプルな方法で保存できるということを世界の人に知ってほしい」と力を込めます。

「25年梅を熟成させて食べるということは、梅を物理的に食べるということだけではなく、25年もの時間そのものも食べる気持ちになるのではないでしょうか? 大げさな言い方に聞こえるかもしれませんが、『梅を食べる』=『時間を食べる』文化のように広まればとてもうれしいです」。そんな思いが込められた、この「万博漬け」。現在も、会場内にて引換券を配布中。配布の日時や場所などの詳細は、「紀州梅の会」のホームページで発表される予定です。

「EARTH MART」公式サイト
「紀州梅の会」公式サイト
miyoka
0