調べてみよか

【レコードブーム】インテリアとしても。出会う喜びは宝探し

2024.12.18

【レコードブーム】インテリアとしても。出会う喜びは宝探し
世界的に再普及しているアナログレコードの魅力を探る、「みよか」の特集第3弾。ここまで、ワインとレコードの販売・提供を行う飲食店「salvis(サルビス) wine&records」(大阪市北区天満)の店主・野口一知さん、アナログレコード、CD、DVD、音楽ソフトなどを販売している「ディスクユニオン大阪店」(大阪市北区堂山町)のスタッフ・岸本新也さんに話を聞き、人気再燃の理由をリサーチしてきました。
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最後はあらためて、いつ頃から、なぜアナログレコードが世代問わず浸透するようになったのかを分析したいと思います。


中古&廃盤レコード・CDフェス(阪神梅田本店)
2024年12月

ウォークマン、iPodなどの登場で音楽は持ち運べるものに

ここで簡単ですが、音楽プレイヤーやコンテンツの変遷を振り返ります。誰もが自宅などの屋内で、レコードプレイヤー、ラジオカセットレコーダー(ラジカセ)を使って音楽を聴いていた1979年、日本の企業であるソニーが「音楽の持ち歩き」を実現させます。ウォークマンの誕生です。楽曲を収録したカセットテープを再生するコンパクトサイズのその機器は、「音楽は自宅で聴くもの」から「音楽は外に持ち運ぶもの」へと変えました。そのムーブメントは世界へ広がり、ミュージシャンのポール・サイモン、ドナ・サマー、芸術家のアンディ・ウォーホルら著名人も魅了。

なかでもソニーの大ファンだった元Apple最高責任者のスティーブ・ジョブズは28歳のとき、盛田昭夫会長(ソニー創業者)からウォークマンをプレゼントされた際、音楽を聴かずに自宅で分解・研究した逸話が残っています。そんなジョブズがのちに、「1000曲をポケットに」というメッセージを込めたポータブルデジタルプレイヤーのiPodの開発に携わり、街のいたるところにたくさんの音楽を解き放ったのはとても興味深い話です。

そのように音楽は手軽なものとなり、「内」から「外」へと広がっていったのです。

コロナ禍、「おうち時間」を充実させるという動き

ところが2020年、音楽の聴き方が大きく変わることになります。新型コロナウイルスの影響です。それによって多くの人は「おうち時間」が増えました。そして「自宅でどのように過ごすか」が私たちの生活にとって重要なポイントになりました。

そんな時期と、アナログレコードの人気再燃は重なります。日本のみならず世界的にレコードの売上が増加したのです。ちょっと手間暇をかけてなにかをやる、ぜいたくさ。レトロなものの温かみ。「おうち時間」はそういったことと向き合うきっかけになったのではないでしょうか。そのなかの一つとして、アナログレコードの熱の高まりがあったように思えます。

長年、夏と冬の年2回「中古&廃盤レコード・CDフェス」を開催している百貨店「阪神梅田本店」で催事などを担当している蓑輪菜津子さんは、コロナ禍をきっかけとする変化についてこのように話します。

「コロナ禍の制限が緩和されたタイミング(2023年)で、当催事のお客様の数もグッと増えた印象があります。コロナ禍、「おうち時間」を充実させるという動きのなかでレコードブームがやってきたと言われています。ただ「中古&廃盤レコード・CDフェス」に関しては、昔からレコードに親しんできた世代の方がお客様の中心だったこともあり、コロナ禍では外出を控える傾向があったように感じます。しかし制限緩和があり、従来のお客様がまた足を運んでくださるようになったほか、コロナ禍でレコードを聴くようになった新しいお客様もご来店いただくようになりました。それまであまり見かけなかった10代のお客様、お一人でお越しになる女性のお客様もたくさんいらっしゃいます。いわゆる「レコード好き」の数が増え、当催事も平日、休日の時間帯問わず大きな賑わいとなっています」

中古&廃盤レコード・CDフェス(阪神梅田本店)
2024年12月

「40代になって新しい趣味を見つけることができました」

たしかに「中古&廃盤レコード・CDフェス」を取材すると、幅広い世代の方が「レコード探し」をしています。レコード歴10年の20代女性は、中高生時代からトーキング・ヘッズなどの音楽をレコードで聴いていたそう。一方「聴く」以外の楽しみ方もしているとのことで、「CDよりもジャケットのサイズが大きいので、部屋に飾るのにもぴったり。友だちが自宅に遊びに来たとき、それを見て「こういう音楽が好きなんだ」と話が弾むきっかけにもなります。レコードは自分の趣味や嗜好(しこう)の表現の一つ」とインテリアとしても最良だと話します。

また、レコード歴1ヶ月未満の40代男性は、高校生のときにスピッツのアナログレコードを購入したものの、プレイヤーを持っていなかったため、封を開けずにずっと保管していたと話します。ところが12月に誕生日を迎え、パートナーの方に「プレゼントはなにが欲しい?」と尋ねられてレコードプレイヤーをリクエスト。そこで長年温めていたスピッツのレコードを聴き、魅力に目覚めたのだと言います。

男性は「40代になって新しい趣味を見つけることができました。休日にはレコード屋さんを巡るようになりました。お店には何十年も前に発売されたものが並んでいるので、宝探しみたいな気分になれるんです。買っても、買わなくてもいい。レコード屋さんでなにかを探すということ自体が楽しいです」と答えてくれました。

中には高額な値付けがされているレコードも
2024年12月

レコード人気で、音楽は再び「外」へ

取材をしていて気づいたのは、昨今のレコードブームは「楽しみ方の多様性」が関わっていること。

「阪神梅田本店」の蓑輪菜津子さんも「インテリアとしての用途はもちろんのこと、TikTokなどのSNSで自分のお気に入りのレコードを紹介する方もいらっしゃいます。またクラブなどでDJをされている方も、レコードでプレイする機会が増えたのか、「中古&廃盤レコード・CDフェス」によくお見えになっています。楽しみ方が広がったことで、お客様の層にもかなりのプラスアルファがあります」と近況を口にします。

音楽はもともと自宅で聴くものでした。しかし「内」のものだった音楽が、ウォークマン、iPodといったプレイヤーのコンパクト化が進んだことで、手軽に持ち運べるようになりました。加えて楽曲がデジタル配信され、サブスクなどで聴くことができるようになったのも大きな影響を及ぼしました。

しかしコロナ禍であらためて音楽を自宅で聴く機会が増えました。そのなかで「豊かな音楽鑑賞の仕方」を求めた一つの結果が、アナログレコードの人気再燃に繋がっているのかもしれません。そして現在、人々はお気に入りのアナログレコードを見つけるために、いろんなところへと出かけています。そう、また違った形で「外」へと向かっているのです。

中古&廃盤レコード・CDフェス(阪神梅田本店)
2024年12月

※「冬の阪神中古&廃盤レコード・CDフェス」は、阪神梅田本店8階にて12月24日(火)午後5時まで開催
 
取材・文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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