「旅のだいご味」わかぎゑふの料理コラム✨
2024.08.25
旅のだいご味
パリには苦い思い出が…もう35年ほど前のことですが。あ、その前に自分のことを少し説明しますと、私は公的にもカミングアウトしているバイセクシュアルです。もう40年以上公開してますが、そのことで取材されたことは一度もありませんし、おおっぴらに言い過ぎてるのか周りも「あっそう」という反応でいつも終わります。それはそれで健全なのでいいんですけどね。
で、10代の終わりからずっと好きな女性がおりました。4つ年上でバイト先で出会ったT子さんという方です。漠然と好きだった時期から、本格的に好きになり、やがてフラれるまで10数年という期間一緒でした。その間にT子さんは一度結婚もしていました。彼女はバイでもレズでもなかったので、当たり前なんですが…。
ただその夫が結構な変わり者でしてね。売れない画家でフランスに住んでいて、T子さんが養ってたんですが、その献身ぶりに私が我慢できなくて「フランスに行こう!別れるって言いに」とT子さんをパリに連れて行ったのです。すると夫がシャルル・ド・ゴール空港に友達と車でやってきて「ありがとう、わざわざTちゃん連れてきてくれて」と言い放ち、とっとと車で自分の住んでいる町に連れて帰ってしまったのです。
アッと言うまでした。その時、私は28歳。誰一人知った人のいないパリの街で一人きりになってしまったのでした。ちょうどオリンピックの開会式で映っていたセーヌ川のほとりの小さなホテルで「どうしたらえんや?」と呆然とする10日間を過ごす羽目になりました。自分の計画ではまずT子さんとパリで過ごし、その間に夫に連絡してパリに来てもらい、離婚する方がいいという話をする予定だったのですが、初日に全ての計画がおじゃんになってしまったのです。
帰る日まで何をしたらいいのか…エッフェル塔にも行きましたよ。夜、照明に照らされたエッフェル塔を真下から見て「おお、鉄の芸術や」とつぶやいたり、歩いて行けるオルセー美術館に日参したり、もちろん憧れのルーブルにも行きました。死ぬまでに大好きなダ・ヴィンチの絵を全部見ようと決めたのは「モナリザの微笑」を見たあの時でした。そうそうシャガールの天井画と内装が見たくてオペラ座にも行きました。ひとりで暇なのでベルサイユまで電車で行って壮大な石畳を見ながら「これ全部、市民の血税か。そら革命起きるわな」と納得したものでした。
フランス語と言えばボンジュールとメルシーしか知らないのに、よく一人で過ごしたものだと今でも思います。携帯電話もない時代でしたので、持って行った「地球の歩き方」だけが頼りな毎日。
そんなある日、服飾デザイナーの友達がホテルに電話をくれて会うことになりました。彼女も友達とパリに来ていたので、さっそく食事に行き、その帰りにメトロの中でT子さんが夫に連れて行かれた話などで盛り上がりました。友達が話を聞いて「アホちゃう」と大きな声で言ったその瞬間でした、目の前にいた金髪碧眼の美少年が急に噴き出したのです。私たちはきょとんと彼を見ていましたが、本人が流ちょうな関西弁で「すんません、」我慢してたんですけど。アホちゃうに反応してしまいました」と言い放ったのです。
その彼はエマニュエル君という名で、なんと小学生から京都で育った関西人だったのです。私たちは意気投合して飲みに行き、その時に彼からパリでの過ごしかたも伝授してもらいました。そして今回ご紹介する「フレンチトースト」の作り方も教わったのです。
出会いこそ旅のだいご味ですが、今までの人生の中でもぴか一の偶然でした。あ、その後T子さんは帰ってきましたよ。帰りの飛行機の切符を持っていたので、それに間に合うように。私たちの間はその後の展開もありますが、パリでは単に10日間、一人旅だったという話です。その後も旅行で行きましたが、あの時の体験が強烈だったので、あまり覚えていません。
≪材料≫
・フランスパン 5~6切
・牛乳 200cc
・卵 1個
・バター少々
・蜂蜜少々
≪作り方≫
①フランスパンは買って数日経った、硬めのものの方が出来た時に感動しますので、乾いてカチカチになったものを使いましょう。1~2㎝くらいの輪切りにします。
②牛乳と卵をよく混ぜ、そこに①を浸します。この時にパンの中まで液が吸い込むのを待ちます。約一時間くらいかかる場合もあります。
中途半端な硬さで妥協せずにカチカチのパンが柔らかくなるまで待ちましょう。
③あとはフライパンにバターを引いて、焼くだけ!
この時に外がカリカリにさえなれば、中は牛乳と卵なので生でも食べられるものですから生焼けでも大丈夫です。
④お皿に盛ってお好みで蜂蜜やパウダーシュガー、生クリームなどをトッピングしてください。
★コツは②の液がしみこむまでじっと待つことです!トロトロの絶品本格フレンチトーストをお楽しみくださいね!
関西小劇場界の老舗劇団、「リリパットアーミーII」2代目座長。
芝居制作処、玉造小劇店の代表。
大阪弁のオリジナル人情劇を数多く手掛けている。古典への造詣の深さも有名で
落語、歌舞伎、新作狂言の作、演出や衣裳デザインなども手掛ける。
小劇場から大劇場まで縦横無尽に活躍する数少ない女性演出家の一人。
エッセイも多数出版。2023年には大阪市民表彰を受賞した。
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