食べてみよか

「お弁当」わかぎゑふの料理コラム✨

2024.09.26

「お弁当」わかぎゑふの料理コラム✨

お弁当

 このタイトルで一本芝居を書いたことがあるほど、私はお弁当に敏感です。お弁当を持たされた最初の記憶は幼稚園の時でした。いまから60年も昔の話ですが忘れもしません、いとこと同じワンちゃんの形をしたアルマイトのお弁当箱でした。忘れるどころか今も持ってます。いとこが青で、私がピンク。短絡的な男の子は青、女の子はピンクという昔の分け方です。

60年前の弁当箱

 そこにおにぎりが3つぎしっと詰め込まれ、梅干しが真ん中に入ってました。当時の私は大変な小食だったので、大きなおにぎりを見て「全部食べるん無理や」とふたを閉じて、そのまま持って帰ってしまいました。娘が一日にだいたいどれくらい食べるか把握しているはずなのに、母はお弁当箱に応じたご飯の量を詰め込んでいたのです。彼女はそういう融通が利かないほど真面目な人でした。段ボールで何か送る時も隙間が空いてるのを嫌って、ギチギチに物を入れるようなタイプです。
 しかも大正生まれの戦争経験者だったので食べ物を残す者は=悪い子という考えがあり、次の日から「全部食べてきなさい」「無理」という攻防が続き、ついにはお弁当箱が小さくなり、最後にはおかず用の小さい物にたどり着き、それでも食べきれない私を病気なのかと疑って、内科に連れて行きました。
 要するに朝ご飯を食べたら、夕方までお腹いっぱいでお弁当を食べることができなかっただけなのですが、母にとっては小食の娘は心配の種だったのでしょう。
 原因は他にもありました。前にも書きましたが母は料理が苦手だったので、お弁当も子供にとっては手ごわい中身だったからです。シンプルにご飯にノリとシャケだけのっけてくれればいいのに、真面目な性格なので「何かしないと!」と思ったのでしょう。ふたを開けるとベチャベチャの茶色いものが一面乗っていたりして(甘辛く煮た何かだったと思われます)びっくりしてそのまま持ち帰ることもありました。ともかく、お弁当の時間は恐怖の時間、なんとかそれを逃れるために子ども心にあらゆる手を使ったものでした。
たった一年のことでしたが、母も疲れ果てていたのか中学に入ってまたお弁当生活に突入したとたん、「お昼代あげるから自分で何か買いなさい」と言い出し、事なきを得ました。
 そんな話を夫にしたら「へぇ、うちのオカンの弁当、めちゃくちゃおいしかったから全然分からんわ」と言いきられました。高校時代、彼は「毎日、鮭と卵焼きにしてくれ」と母親に頼んで中身が同じお弁当を持って行ってたそうです。すると友達に「お前の家、貧乏なんやな。毎日同じおかずやん」と言われたとか。
 夫がそれを母親に告げると、なんと次の日に「これを持って行きなさい」と三段重のお弁当を持たされたそうです。中身は豪華なおかずばかり、それを友達に振る舞えと言われたとのこと。お義母さんに聞いてみると「だって、悔しいじゃない。まるで私が手抜きしてお弁当作ってたみたいで腹立ったのよ」と母の意地を見せたかったようです。三段重のお弁当は定期的に続き、友達も心待ちにしていたそうで、何ともうらやましい話ではあります。
 「お弁当」という芝居を書くときにキャストのみんなにリサーチすると、きっぱり二分しました。おいしいので楽しみにしていた派と、恥ずかしいから隠して食べていた派。恥ずかしいというのはたいてい私が幼稚園の時に経験したべちゃべちゃの茶色いお弁当のことでした。要するに前日のすき焼きの残りのようなものがご飯にかかっているのですが、お弁当と言えばシャケ、卵焼き、ほうれん草と三色のカラフルなものが主流であった時代なので子どもとしては恥ずかしく感じたのでしょう。今なら「お、すき焼き弁当やん」とうれしく食べるのでしょうが。時代とともにお弁当のバリエーションが増えて茶色い弁当も地位を確立したと言えるでしょうか。
 いずれにしても、お弁当は日本人にとって「楽しみ」のひとつ。その分、作る側のハードルが上がります。全国のお母さん、本当にご苦労様です!さて、お弁当のメインは色々ありますが、私はよく酒飲みのためのお弁当を作ることが多いので今日はシャケやハンバーグではなく「手羽の塩こうじ焼き」「きんぴら」「おくらの麺つゆ漬け」をご紹介します。冷めてもおいしいビールのお供なので秋の行楽シーズンにぜひお試しください。
【手羽の塩こうじ焼き】
(材料)
・手羽
・塩こうじ

(作り方)
①手羽は身の部分に切り込みを入れます。このひと手間で驚くほど食べやすくなるのでやってみてください。
②ビニール袋などに、手羽を入れ市販の塩こうじに一晩漬ける。(半日くらいでも大丈夫です)
 ほかの調味料は一切いりません。あとは焼くだけ。簡単で深みのある味に感激する一品です。

手羽の塩こうじ焼き

【きんぴら】
(材料)
・ごぼう…1本の半分くらい
・ニンジン…3センチくらい
・ごま油…小さじ2
・水、みりん…各大さじ2
・しょうゆ、酒…各大さじ1
・塩…少々

(作り方)
①ごぼうを千切りにして少し水にさらす。ニンジンは千切りにするだけ。
②フライパンにごま油を敷いて加熱し、ごぼうを入れる。少し香りが立ってきたら水とみりんを入れて煮詰めていきます。
③汁気がなくなってきたらニンジンと酒、しょうゆを入れてさらに炒めます。
④最後にお好みで塩で味を絞めて完成。

きんぴら

【おくらの麺つゆ漬け】
(材料)
・おくら
・めんつゆ

(作り方)
①おくらはヘタを取って、食べやすい大きさにカット。
②ラップをかけてレンジで1分半くらい加熱。
③ジップロックなどに麺つゆを入れて(お好みで味を調整)加熱したおくらを加えて1時間くらい寝かせる。

おくらの麺つゆ漬け

これらに小さめのおにぎりを加えると「酒飲み弁当」の完成です。
わかぎ ゑふ(劇作家・演出家)大阪府出身。
関西小劇場界の老舗劇団、「リリパットアーミーII」2代目座長。
芝居制作処、玉造小劇店の代表。
大阪弁のオリジナル人情劇を数多く手掛けている。古典への造詣の深さも有名で
落語、歌舞伎、新作狂言の作、演出や衣裳デザインなども手掛ける。
小劇場から大劇場まで縦横無尽に活躍する数少ない女性演出家の一人。
エッセイも多数出版。2023年には大阪市民表彰を受賞した。
miyoka
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