圧巻の映像で魅せる、カンテレの報道カメラマン・樋口耕平「誰でもスマホで撮れる時代、何を伝えたいか問われる」(前編)
カンテレ報道映像部の樋口耕平さん
カンテレの報道カメラマンとして、世界的建築家・安藤忠雄さんへの密着取材やアフリカのジャングルでの長期撮影など、多くのドキュメンタリー作品を手掛けてきた報道映像部の樋口耕平さん(51)。その撮影術はテレビの枠組みを超え、『ニューヨークフェスティバル 撮影部門金賞』『ヒューストン国際映画祭 ネイチャー&ワイルドライフ部門金賞』『日本映画撮影監督協会 JSC賞』など、数々の栄誉に輝いてきました。
また時としてディレクターとカメラマンの一人二役で作品を手掛け、2021年に制作した『希容の形』が世界最高峰のテレビ祭といわれる『国際エミー賞』にノミネート、ベネチアテレビ賞でも金賞を受賞するなど高く評価されてきました。
なぜ、樋口カメラマンの映像は、他とは一線を画すのか。入社以来、一貫して報道畑を歩き、カメラを担ぎ続ける樋口さんに、その映像的なルーツやドキュメンタリーへの思いについて話を聞きました。
◆ドキュメンタリーは「隙間」と「感情」
──もともと、報道カメラマン志望だったのですか?
いえ、最初はバラエティーのディレクター志望でした。それが1カ月の新入社員研修を受けた後、報道カメラマンの部署に配属されまして。でも、それはそれで面白そうだし、番組制作や表現に関わる仕事ができるならいいかなと。
──イメージでいうと、報道とバラエティーではだいぶ毛色が違いますが。
そうですね。ニュースというより、ドキュメンタリーに惹(ひ)かれたというのはあります。きっかけというか、最初の研修で報道映像部の部長がアフリカのジャングルでの撮影話をしてくれまして、「そんな仕事があるのか」と。その話が面白かったのを覚えています。
コンゴ民主共和国・ジャングル奥地の村での撮影の様子(2005年)
ニュースに関して言えば、新人カメラマンにとって最初の関門が送検の撮影です。警察車両で被疑者が移送される、その車内の顔を狙う仕事です。みなさん何気なくテレビニュースでご覧になっていると思いますが、なかなか簡単ではありません。
撮影チャンスが一瞬しかないことも多く、ピントは手動なので指先の位置のちょっとしたズレですぐピンボケ映像になってしまいます。その日の放送を見れば、どの局がよく撮れたかが一目瞭然です。とてつもない緊張感とともにやりがいも感じました。
──報道とドキュメンタリー、どちらも真実にフォーカスするという意味では同じですが、どこに違いがあるのでしょうか?
報道のニュースは目の前で起こっていることを端的に撮っていくのですが、ドキュメンタリーはその「行間」だったり、被写体の方の「感情」をどう映像で表現するかというところが大事だと思います。
またドキュメンタリーは番組全体の流れがあり、映像構成が複雑かつ高度になってきます。ニュースの延長だと言う人もいますけど、撮影に関しては全く別の素養が必要だと感じます。
◆撮影の極意は、先輩から伝授された「まずレック」
──入社以来、一貫して報道カメラマンとして活躍されていますが、その魅力や奥深さはどこにあるのでしょうか。
最初は無我夢中で、他局よりもいい画が撮りたい一心だったんですけど、ひとつ言えるのは、報道やドキュメンタリーの現場では、カメラマンにこそディレクター的感覚が求められるんですね。
よく誤解されますが、実は記者やディレクターにはカメラに何が映っているのか現場では分からないのです。 ファインダーをのぞいているカメラマンがその瞬間に決めるんです。さっき話した「結果が分かりやすい」こと、この「自由にできる」というのが僕には合っていたような気がします。
ENGカメラを担ぐ樋口カメラマン(2017年)
──思っていた以上に、自由度が高いんですね。
目の前で起こっていることを撮るのに、相談している時間もありませんので。僕自身はその延長でディレクター兼カメラマンとしても番組を複数作ってきました。
余談ですが、報道に配属されて最初に教えてもらったのが、「まずREC(録画)ボタンを押せ」だったんです。目の前で起こった状況を把握してから押しても遅いんです。撮りながら考えろ、と。それは歳を重ねるごとに、金言だなと思います。
カメラマンになって半年くらいの頃、スリの犯人が逮捕される瞬間を撮ったことがありました。とある催し物の取材していたところ、突然怒号が響いて。そのときは何が起こったのか分からなかったんですが、とにかく「まずREC」でカメラを回しました。
撮っているうちに怒号の主は警察官で、腕をつかまれていたのが犯人だというのが分かってきて、混乱の中で犯人逮捕の一部始終が撮影できた。もう少しカメラを回すのが遅れたら、映像から伝わる現場のリアルさが半減したと思います。この時の映像は結果フジテレビ系列での年間スクープ賞みたいな賞をもらったと記憶していますが、ニュース映像のインパクトを実感した仕事でした。
◆空手家・清水希容選手との長年の歩み
『東京2020オリンピック(2021年開催)』空手女子形・銀メダリストの清水希容さん(2024年現役引退)。樋口さんは、彼女が大学2年生の時から五輪に至るまで、ほぼ独占的に密着取材が許されてきました。この稀有(けう)な関係性が生まれた理由とは。
──清水希容さんとの最初の出会いは何だったんですか?
彼女が大学2年生の時、まだ全日本王者になる前ですね。大阪に期待の選手がいると耳にしてニュースのミニコーナーでちょっと紹介しようと見学に行ったんです。清水さんはそれまで取材を受けた経験がなく「なんで私にテレビ局が来るの?」とコーチと首を傾げていたと、後で聞きました。
その時、道場で練習している姿を初めて見たのですが、それがとんでもなく凄まじくて。もう、音といい、スピードといい、この衝撃をどう映像化したらみなさんに伝わるんだろうってすぐに思いました。
空手家・清水希容さんに密着取材を行う樋口カメラマン
──独占的に密着取材ができたのは、人間関係によるものですか?
僕が最初に彼女を取材した人間だというのが、大きいのではないでしょうか。他の記者さんが来たのはもっと後だったので。あとは空手家としての彼女の魅力を純粋に伝えたいというか、番組の企画ありきじゃなくて、最初に僕が受けた衝撃を映像でうまく届けたいなと。そういうこちらの考え方を受け入れてもらえたのかなと思います。
よく清水さんに言われたのは「樋口さんがいるのは全く気にならないので、いつでも取材どうぞ」と。僕は現場でずっと黙って撮っているだけなんです。なにより練習や競技の邪魔をしたくなかったので。
その後、清水さんは、全日本、世界選手権を制し、空手が東京五輪種目に選ばれて、その決勝で金メダルを争うことになります。取材当初からは想像もできない怒涛(どとう)の展開でした。本当に取材者冥利に尽きる経験でしたね。
※8年にわたって清水選手を追ったドキュメンタリー『希容の形』(2021)は国際エミー賞にノミネート、ベネチアテレビ賞金賞、ABU賞最優秀賞などを受賞
──ドキュメンタリーにおいて、撮影のテクニックと、その人の魅力を感じ取ること。どちらを重要視していますか?
圧倒的に後者ですね。テクニックだけでも、確かにかっこいい映像は撮れるんですが、ドキュメンタリーとしては「強度」がないんですね。その根幹にあるのは、その被写体の思いや魅力をどう感じ取って、どう物語として伝えるかだと思います。
ドキュメンタリー『3人のヤマトナデシコ~ただ勝利のためでなく~』の撮影の様子
ドキュメンタリー撮影で大切なのは、その「変化の瞬間」が撮れるかどうかです。この瞬間こそが感情の表現としても強い。例えば、すでに喜んでいるところから撮っても遅いと思うんのです。喜びが爆発する瞬間を狙いたい。そうした、感情が露わになる前から敏感に機微をとらえて撮影できていること、何よりそれ以前に、その瞬間に寄り添える関係性を築くことが大事だと思います。
──そして、よりよく伝えるために、テクニックが必要ということですね。
その通りです。これは僕が楽器を習っているインド人の先生に言われたことですが、たとえばギターをどれだけ速く弾けても、そこに伝えたいものがなければ指の運動でしかないと。
映像も同じで、これを伝えたい、こういう表現をしたいというのがまずあって、そのために技術を身につけたいという順番が正しいと思います。もちろん、技術からアイデアが膨らむケースもあるので、それはそれで磨かないといけないとは思います。
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