食べてみよか

「紅白なます」わかぎゑふの料理コラム✨

2024.12.29

「紅白なます」わかぎゑふの料理コラム✨

年末年始の沼

 20数年前に家を建てたころから年末年始には友達がやって来て、うちでご飯を食べるのが習慣になっていました。だんだん増えるので、そのうち決まりが出来て「わかぎ亭、晩ご飯は18時開始」とか連絡するようになってたり。一時は年末年始の5日間にのべ100人くらいのお客さんが来るような時期もありましたねぇ。
 お節に、お鍋、その後の飲みまでほぼ私が一人で作ってました。朝から仕込んで用意をして、みんなが来たらあとは夜中まで立ちっぱなしということになるので「正月ダイエット」と呼んでいたくらいです。もちろん洗い物や運ぶのを手伝ってくれる人もいましたが、基本はみんなお客さんでした。

お節の準備

 毎年、たくさんのお土産もいただきました。中には「親父から送って来たけど、一人じゃどうしようもないから」と毛ガニを持ち込んでくる人「ここなら食べてくれるかと思って」とタイを丸ごと持ってきた子もいました。内心「こんなん料理したことないし」と思いながらなんとかしたものでした。
 
 いつも年末年始はあらゆる小劇場の人に今年もありがとう、よろしくの会。知らない劇団の子や、友達を連れて来る人、時には飛び込みで来たというミュージシャンなどでにぎわってました。
 10年ほど前にその話をしていたら「ふっこさん(私のあだ名です)うちに料理しに来てくれない?」と誘われました。東京で役者をやっているY君は、実家が新潟でスキーロッジを営んでいるそうで、冬は手伝いに帰っているという話でした。「え?料理って、我流でなんちゃってやで」と断わりましたが、ぜひにというお誘いで結局行くことになったのです。
 そこでは年末31日は通常の料理のほかに天ぷらとおそば、明けて元旦の朝は野菜を中心としたお節の盛り合わせとお雑煮を出すのが慣例だそうで「ああ、お煮しめやなますを作ればいいのか」と理解して、お節要員として行ったわけですが…。
 行ったが最後「来年は何してます?」から段々「年末いつから来る?」になり、こっちが仕事でいけないと言うと「じゃ、お煮しめと、なます、あとかまぼこ切って送って」というオーダーが入るようになり「あそこは私の実家なんか?」という年末年始労働の沼に今もハマっています。

 Y君は新潟ではバイトを雇いたくても都合のいい人がなかなかいないので、予約の状況を見て忙しい時は東京で共演した俳優やスタッフのうち、料理が出来そうな人や、片付けの上手そうな男の子に声をかけて臨時バイトに雇っているのですね。まぁ雪のシーズンだけなので、それも分からないではないですが。
 「それはええけど、なんで大阪から私が行くん?」と聞くと「だって、31と元旦が一番料理多いから、慣れてないと出来ないんだよ」とのお返事。単に人をもてなして宴会していただけだったのに、どうやら私は修行をしていたみたいです。おかげでこの10年、何度も行ってるうちに30人前、40人前の分量すら即座に分かるようになり、それが高じて稽古場でも飲み会の料理を作るようになってしまいました。
 そしてついには「豚の骨一匹分もらって来たけど、ここなら何とかなるよね?」なんて演劇関係者なんかも現れ、いまでは我が家のことをみんな「居酒屋わかぎ」と呼んでいます。そして劇団員や客演さんに料理を教えたりもしてたり。
いやいやいや、おかしいやん!私はただの演劇人やって!と抵抗してみますが、誰も話を聞いてくれません。
 最近では大阪の劇団員や関係者が「今年も新潟ですか?」と聞いてくるようになり、「今年は行かない」と答えると結局昔のように人が来るので、どちらにいても私は年末年始休んだことはありません。ひとつだけ違うとしたら、大阪にいたらお金が出て行く一方ですが、新潟に行くとギャラがもらえることくらいでしょうか。そのギャラも大阪に帰って来るときにおいしいお酒や、お土産で消えてしまうのですがね…

お客様にお出しする一人分のお節

 そんなことで、今回の写真は去年の年末、新潟に行けないバージョンとして業者のごとく送ったお煮しめ、なます、かまぼこの飾り切りです。今は自分の代わりに誰か送りこめないか、東京で芝居するたびに料理の出来そうな役者を密かに探しています。沼から這い上がるために!

★今回のレシピは超簡単なわかぎ流の紅白なますの作り方!ちょっとしたお酒のお供にさっぱりした冬の酢の物はいかがですか?お鍋の合間の箸休めにもなりますよ。

【紅白なます】※4~5人分
<材料>
・大根(4分の1本) 
・ニンジン(4分の1くらい、きんときニンジンでも可)
・塩少々
・みりん(100cc)
・お酢(100cc)
・ごま少々
・ゆずの皮少々

<作り方>
① 大根とニンジンをギザギザピーラー(百均で売ってます)で千切りにする。
  別々に塩でもんで15分くらい寝かせる。
② ボールにみりんとお酢を入れて合わせておく。
③ ①をよく絞って②のボールに入れる。
④  ごまをふって1時間くらい寝かせたら完成!お好みでゆずの皮を入れてもおいしいです。

100円ショップの「千切りスライサー」/ギザギザピーラー

わかぎ ゑふ(劇作家・演出家)大阪府出身。
関西小劇場界の老舗劇団、「リリパットアーミーII」2代目座長。
芝居制作処、玉造小劇店の代表。
大阪弁のオリジナル人情劇を数多く手掛けている。古典への造詣の深さも有名で
落語、歌舞伎、新作狂言の作、演出や衣裳デザインなども手掛ける。
小劇場から大劇場まで縦横無尽に活躍する数少ない女性演出家の一人。
エッセイも多数出版。2023年には大阪市民表彰を受賞した。
miyoka
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