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『モンスター』で、趣里が問い続けた本当の“幸せの形”

2024.12.23

『モンスター』で、趣里が問い続けた本当の“幸せの形”

『モンスター』最終話(第11話)レビュー【全話振り返り・Xでの反響】

最終回は、冒頭から一気にこれまでの伏線が回収されていく痛烈な脚本でした!まさかあの事件もあの事件も、亮子(趣里)が突然弁護士をやってみようと思い立った理由も、すべてここにつながっていたとは……!最後までスカッと疾走感のあるストーリーで、早くも『モンスター』ロスに苛(さいな)まれている筆者ですが、亮子の最後の活躍を振り返っていきたいと思います。

原告・被告側ともにお互いの意図する決着にたどり着いて手打ちとなった、前回の損害賠償請求訴訟。その後、謎の病で倒れた粒来(古田新太)でしたが、心配する亮子に対し「わかってるから」と病院へ行くのを拒みます。後日、大草圭子法律事務所に足を運んだ粒来(古田新太)は、12年前に何が起きていたのか、ようやく口を開きました。

サカミクリーン建設反対を訴えていた村人・内海泰造の死の謎を探るべく、再び山遥村を訪れた粒来。するとサカミクリーンから大金を積まれ、顧問弁護士になるよう頼まれたといいます。一度弁護士登録を取り消し、反社のフロント企業のアドバイザーに就任した粒来でしたが、従業員の不調の原因が巨大企業・帝東電機が排出する産業廃棄物にあるのではという疑惑にたどり着き、名前を変えて再び弁護士の道を歩むことに。つまり、高校生の亮子を残して家を出たのは、巨大な敵に立ち向かうためだったというわけです。

田窪新治郎(奥野瑛太)、来栖悟志(矢島健一)

世界から注目を集めはじめた帝東電機が、反社であるサカミクリーンを排除しようとする裏で、反社側は収入源の確保のためにあらゆる社会問題を生み出していることも、粒来の告白で明らかになります。第5〜6話の高額医療ツアーの斡旋(あっせん)も、第8話で登場した闇バイト支持役・キングの逮捕も、元を正せば帝東電機が原因だったのです。帝東電機の会見動画に映り込んでいた粒来の姿を発見し、迷うことなく弁護士になることを決意した亮子……。急に家を出て姿を消した父への対抗心ゆえだと思いきや、むしろその逆で、父を慕い心配する思いゆえの決断だったのですね。

神波亮子(趣里)、粒来春明(古田新太)

粒来の10年に渡る調査の末、サカミクリーン従業員の健康データはそろいましたが、環境汚染で裁判を起こすには村全体の住人の健康データが必要になる。亮子と杉浦(ジェシー)は村人に協力を訴えますが、日本を代表する巨大企業がそんな悪いことをするわけないと村人は取り合いませんでした。

「今やれることをやらない人には、幸運の女神は微笑まない」そう断言していた亮子陣営、まさにあらゆる手立てを尽くしていましたね。帝東電機から莫大な量の産廃物データを取り寄せて分析したり、サカミクリーンの従業員を言いくるめて理不尽な訴訟をいくつも起こし、帝東電機に解決金を支払わせたり。さくら(前田敦子)や拓未(前原滉)にもビラくばりやラップ歌唱を続けてもらい、長いものに巻かれる安易な村人たちの心を揺り動かす。第4話の名門サッカー部の体罰疑惑でも、「嘘をそのままうのみにして好き勝手言ってるような人たち」と世間を批判していましたが、そんな浅はかな人間の心を見事に手玉にとった亮子の手腕、最高でした!

内海拓未(前原滉)、横沢さくら(前田敦子)

裁判の結末も、勝ち負けではなく和解という形に収まったのも、なんだか亮子らしいなと感じました。妄信していた帝東電機に逆風が吹き始めたら、態度を急変して金の無心をする村人やサカミクリーン従業員は、見ていて痛々しい気持ちになります。ようやく謝罪の会見を開いた帝東電機も、実際はこれ以上問題を大きくしないよう手打ちにしたかっただけに過ぎないのです。

亮子によって投げかけられた「あなたにとっての豊かさ、幸せってなんですか?」という問いかけは、ドラマの登場人物だけでなく現代社会を生きる私たちすべてに突き刺さってくる鋭さがありました。世の中の空気に飲み込まれ、流れるように過ごしていては、自分の力で人生を生きることすらできない。第3話のSNS精子提供問題でも「幸せの形」を問うていましたが、結局人間誰しも、何が本当の幸せで自分の信念なのかを知らないのだと、亮子は憂いていたのです。

本編の途中で描き出されていく、それぞれの人間ドラマもすごく印象的でした。亮子や杉浦の活躍に感化され、一度は諦めた司法試験にもう一度挑戦することを決意し、由紀子(音月桂)に打ち明けた村尾(宇野祥平)。帝東電機側の和解の意思が固まり、祝杯ムードの中久しぶりのオセロに興じる神波親子。そしてラストシーンで、無謀な案件にも果敢に挑戦する亮子に、文句ひとつ言わずについていく杉浦。回を追うごとにたくましくなっていく杉浦の成長も、『モンスター』を語るうえでは欠かせないエッセンスでしたね。ぴょんぴょんと笑顔を浮かべて駆けていく亮子の無邪気さが、心にジンときてしまいました。

内海拓未(前原滉)、横沢さくら(前田敦子)

第1話では人間味のない不思議な人と亮子のことを捉えていた筆者でしたが、最終回まで見届けてようやく気づきました。一番人間らしく生きようとしていたのは、亮子だったのだと。それと同時に、亮子の生き様を見守れるのは今日で最後なのだという事実にどうしようもない寂しさが込み上げてきます。

毎週放送後、Xにたくさんの感想で溢れていた『モンスター』でしたが、「初回から最終回まで現代社会の闇を皮肉ってた脚本が爽快だった」「心の底エグってくるステキなドラマでした」「続編希望!!」などの声が集まりました。

亮子が残してくれた数々の名言を胸に、きっと明日からも私たちは生きていくのでしょう。己の胸の中に眠る“モンスター”を見つめ、社会に渦巻く静かな“闇”に抗いながら。豪華俳優陣や制作スタッフによって社会の“モンスター”を描き続けた『モンスター』。今日までたくさんの気づきをくれた亮子に、いつかまた会える日を願って。

神波亮子(趣里)

文・神田 佳恵
フリーライター 兼 一児の母。
取材・インタビュー、エンタメ記事、エッセイなど、複数媒体・分野で執筆中。
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