この間まで劇団の公演をやっておりました。2020年にコロナで最初に中止になった芝居です。その後も2022年に上演したものの、罹患者(りかんしゃ)が出て代役に次ぐ代役の連続、おまけに客席も法律で感染対策が義務付けられ、一席ずつ間を空けておかねばならず通常の半分くらいしか売ることが出来ませんでした。
そのせいで東京公演にはまともに舞台セットを持って行くこともかなわず、急ごしらえのじゅうたんを敷いただけの空間での上演。まさしく満身創痍(まんしんそうい)というほかはありませんでした。そんな作品だったので「絶対に完全バージョンをやる!」と決めて、今年5年越しの思いを込めて上演にこぎつけたのです。
と、まぁ自分の満足の話はここまでで…その芝居にうちの最若手の俳優が出演してました。Sちゃんという彼女は今年26歳。実は5年前にまだ大学生だった彼女を誘って春休みなので出演してもらったのですが、コロナで中止になったのでした。その時Sちゃんはポロポロ涙を流して「皆さんは悔しくないんですか?」と聞いたものでした。
「悔しいも、悔しくないも、人類が経験したことのないパンデミックやねんからしゃーない」と私は答えました。「いつかこの芝居が出来るようになるまで待つだけや」とも。その言葉が響いたのか、やれるはずだった芝居が中止になったのが悔しすぎたのか、彼女はその後両親を口説き、大学を口説いて、私に手紙を送ってきたのです。「卒業したら劇団の研究生にしてください。覚悟はできてます。」という内容でした。コロナ禍で新しい研究生を入れるのもどうかと思いましたが、彼女の熱意に押されて入団を許可したのです。
あれから5年経ちました。今回の芝居は昭和初期の大阪商人の跡継ぎ問題を描いた作品でしたので、俳優は本番中に平均3回ほど着替えがありました。最初は全部私が着付けをしていましたが、本番中にメキメキ腕を上げたSちゃんが、都合11回の着付けのうち3回を代わってやってくれるようになったのです。5年前は着物を着たこともなかったのに「人間って成長するねんなぁ」と周りの俳優陣も感心しっぱなしでした。
俳優には舞台に立つ前に日ごろからしておくべきことが山のようにあります。お肌の手入れ、筋肉をつけ過ぎず、しかし軽やかに動ける体づくりに気を配ること、歯のコンデイションを整えておくこと、喋り方や、他のジャンルの芝居や映画を見て所作の研究をすること、あらゆる洋服や着物を自由に着こなせること、などなど稽古場に行ってから学んでいたのでは遅いことを日常生活に取り込んでやっていかなくては間に合わないのです。彼女にとって生活=勉強なのかもしれません。
そして今回は驚くべきことに、俳優さんたちの髪の毛を結ってる私のそばに来て「残り5ステージで覚えられますかね?」と言い放ったのです。おお!この子は着物の着付けだけではなく、ついに髪結いまで覚える気になったのかと、こっちがびっくりしました。「いいねぇ、やってみるか」と結い方を教えて、主演の俳優の1人の髪の毛を結わせてみました。
するとその俳優さんが「Sちゃんありがとう、ちょっと風吹いてるみたい」と言うので、よく見ると結った髪の毛のバランスが右側に偏って大きくゆがんでいたのです。そう、まるで強風にあおられてゆがんだような形になっていました。楽屋は大爆笑に包まれ、私がバランスを直したわけですが、果敢に攻めてくるSちゃんの頼もしさが愛しい毎日でした。
ちなみに彼女は高知県出身で「はちきんガール」と呼ばれています。高知の方言で気の強いおてんばな女の子のことを「はちきん」と言うのです。よく聞くと男四人分の度胸のある女という意味で、つまりその…タマが8個あるということらしいです。はい。
★話が下ネタになったので、切り替えて食事をしましょう!
そろそろ春めいてきましたね。今回は「新玉ねぎのかき揚げ」をご紹介します。
天ぷらは面倒くさいと思ってる方も多いとは思いますが、新玉ねぎの季節なので挑戦してみてください。
【新玉ねぎのかき揚げ】
(材料)
・玉ねぎ1個
・枝豆少々
・むき身のエビまたはイカ、ホタテでもOK
・てんぷら粉適量
・マヨネーズ少々
・卵1個
・冷たい水
・片栗粉少々
(作り方)
① 玉ねぎはスライスして塩をふり、キッチンペーパーで水気を取る。
② 枝豆、エビは1センチくらいの大きさにカットしておく。
③ てんぷら粉と卵を合わせて、冷たい水で様子を見ながら溶いていく。マヨネーズを入れることでカリっとします。コツはちょっと緩めかな?と思う程度で混ぜ合わせるとよいと思います。
④ フライパンに1センチくらい油を入れて火を入れます。
⑤ 玉ねぎと他の具に片栗粉を少し振っておくと、てんぷら粉が付きやすいです。
「ちょっと少ないかな?」と思うくらいの量を混ぜ合わせると衣が分厚くなりません。
★残りの油でエリンギや、ピーマンを素揚げにしてもおいしいです!春は体調の変化が多いので、おいしい物を食べてくださいね。
わかぎ ゑふ(劇作家・演出家)大阪府出身。
関西小劇場界の老舗劇団、「リリパットアーミーII」2代目座長。
芝居制作処、玉造小劇店の代表。
大阪弁のオリジナル人情劇を数多く手掛けている。古典への造詣の深さも有名で
落語、歌舞伎、新作狂言の作、演出や衣裳デザインなども手掛ける。
小劇場から大劇場まで縦横無尽に活躍する数少ない女性演出家の一人。
エッセイも多数出版。2023年には大阪市民表彰を受賞した。